25、ローズの香水の作り方
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
「ローズ、暇だよぉ」
ルト様は私の邪魔をしようとしています。
「待ってくださいよ。これを終わらせなきゃオーム国へ帰れないのですから」
「それ、いつ終わるの?」
「それは未定ですかね?」
「無理。暇だよぉ」
ルト様は暇すぎて、ソファでゴロゴロしています。
「何故ですかね? 条件は同じなのに」
私は今、一度作った私の香りの香水を、もう一度作ろうと何度も同じ条件でやっているのですが、何故か同じ香りを作ることができません。
「同じ場所じゃないと無理なんだよ」
「そんなことはありません。他の条件では作れたのですよ?」
この数日で、お城で特性を持つ花を作れるようになりました。
虹は花に水をあげる時にできる小さな虹で代用できるのです。
そしてゴールドフラワーも庭にたくさん咲かせることができるようになりました。
それなのに、私の香りの花だけは作れません。
扇子で風を送り、私の髪が風でフワリと舞った後、すぐにゴールドフラワーへ風が当たるようにするのに、何故だか香りが少し違います。
「はいっ、ルト様、これはどうですか?」
私の香りになったであろうゴールドフラワーをルト様の鼻に近付け、香りを確かめてもらいます。
「う~ん。あの時の香水とは何か違うんだよなぁ。何かが足りないのかな?」
ルト様の鼻は、私の香りに敏感なので、違うと言うならそれは確実に違います。
「あの場所に行ってみる?」
「でも、虹が架かる保証はないですよ?」
「いいよ。あの場所にまた行けるなら、それでいいんだよ」
「それなら行きましょうか」
そして私とルト様は、あの高台へと向かいます。
「やっぱり綺麗ですね」
「そうだね」
「雨は降っていないようなので、虹が出るかもしれませんね」
「そうだね」
私はゴールドフラワーを手に持ち、虹が架かるのを待ちます。
「ん? これは?」
ルト様が何かに気付いたようで、高台の端へ行きます。
「ローズ、これが無かったんだよ」
ルト様は笑って私を手招きします。
私はルト様の隣へ行き、私の香りに足りなかった物を見つけました。
「薔薇ですね」
「うん。でもよく見てよ。薔薇は一本しかないよ」
よく見ると、真ん中に一本だけ薔薇が咲いており、その周りにたくさんのゴールドフラワーが並んでいます。
薔薇しかないので、その周りのゴールドフラワーが赤色に見えるのです。
「でも、薔薇が一本だけでは香りは風で流れては来ないですよね?」
「それは試してみる価値があるはずだよ」
ルト様はそう言うと私の後ろを指差します。
私は後ろを振り向くと、大きな虹が架かっています。
高台だからでしょう。
少し強い風が吹きます。
「やっぱりだ」
ルト様が納得したように言います。
「何がですか?」
「薔薇の香りが強くなっているんだよ」
「そうですか?」
「僕には分かるよ。ゴールドフラワーが、どんどん薔薇の香りを移しているのを。どんどん広がっていく」
すると私にも薔薇の香りが届きます。
ルト様の言う通りですね。
どんどん香りが強くなります。
「ローズ、今だよ」
少し強い風が薔薇達の香りを乗せて、私の所へやってきます。
私の髪が風でフワリと舞って、私の持っているゴールドフラワーの上を優しく通り抜けます。
私はゴールドフラワーに鼻を近付けます。
この香りで間違いありません。
すると、ルト様もゴールドフラワーに鼻を近付けます。
「うん。間違いないよ。ローズの香りだ」
ルト様は嬉しそうです。
私も嬉しくて笑います。
するとルト様は真剣な眼差しを私に向けた後、優しく抱き締めます。
「ルト様?」
「また必ず二人でこの場所に来ようね」
「はい」
この時間が一番幸せです。
私達は見つめ合い、ルト様の顔が近付きます。
自然と私の目はゆっくりと閉じます。
「わんっ」
わんっ?
犬の鳴き声?
すると、私の足元にふわふわする何かが当たります。
目を開けると、私の足元にお座りをして私を見上げるゴールデンレトリバーがいました。
ルト様を見ると呆れ顔で犬を見ています。
「どうしたの?」
私は座り、犬に話しかけます。
犬は私の顔をペロペロ舐めます。
この子、可愛い。
周りを見ても、飼い主らしき人はいません。
少し待ってみましたが、飼い主らしき人は来ません。
この子、どうしましょう?
仕方がないので、お城まで連れて帰りました。
この子はとても賢い子で、吠えることはなく、私の傍を離れません。
ユーリ様の所へ私の香りのついたゴールドフラワーを持って行きました。
ユーリ様は犬を飽きるまで触っていました。
それでもこの子は嫌がらず、尻尾を振って喜んでいました。
レイン国の財源となったゴールドフラワーは、他の国でも人気になり、財政状況は右肩上がりになりました。
私と双子の王子様は自分の国へと帰ることになりました。
お世話になった方にお礼を言います。
「ユーリ様。この子をよろしくお願いいたします」
「はい」
私は犬をユーリ様にお願いしました。
飼い主がこの子を探しているかもしれないので、オーム国へは連れて帰れません。
「この子は、ユーリと一緒に面倒はみるから、心配しないでくれ」
イアン様がユーリ様を見つめています。
ユーリ様も見つめています。
この二人の今後はもしかしたら、もう決まっているのかもしれません。
私は馬車へ乗ります。
双子の王子様も乗っています。
ゆっくり動き出す馬車。
「わんっ」
犬が鳴きます。
私は窓から犬に手を振ります。
「わんっ」
「あっ、ちょっと待ってよ」
犬はユーリ様の手からすり抜け、私の元へ走ってきます。
私は馬車を止めます。
私が馬車から降りると、犬は私に向かって飛び込んで来ます。
この子と離れたくない。
私は一緒に帰りたくて、ルト様を見ます。
ルト様はニコニコと笑って頷いてくれます。
そして私はユーリ様を見ます。
「ユーリ様、この子を連れて帰ります。飼い主の情報がありましたら連絡ください」
「分かりました。お気をつけて」
そして私と犬は一緒に馬車に乗ります。
私の隣に犬がいて、ルト様は拗ねています。
いつもはルト様が隣だから、取られたのが嫌なのでしょう。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
楽しくお読みいただけましたら執筆の励みになります。
~次話予告~
とうとう次が最終話です。
ローズはメイドを辞めるのか?
ルトとローズの最後は最終話でお楽しみください。




