2、二人の王子様!
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
「ローズ、ありがとう」
「えっ、どうして私の名前を知っているのですか?」
「えっ、名前? 君の?」
「はい」
「知らないよ?」
「では何故ローズとお呼びになったのですか?」
「僕はこれをありがとうって言ったんだよ?」
男の子は薔薇を私に見せながら言います。
薔薇をありがとうですか。
紛らわしい言い方だったので勘違いをしてしまいました。
恥ずかしくて顔が赤くなるのが分かります。
「ふふっ、君の名前は?」
「えっと、あのっ、私は」
「ローズだよね?」
男の子はニコニコと笑って言います。
私が勘違いしていたことに気付いているようです。
男の子は分かっていて私に名前を訊いたのです。
「ローズ。薔薇だね。君にぴったりだよ」
彼は眩しい笑顔を見せました。
私に向けてくれるこんな笑顔が勿体無くて目を反らします。
「ローズ?」
彼は不安そうに私を見ています。
どうしてそんな顔をするのでしょうか?
大人の相手しかしたことのない私には、よく分かりません。
「あの、えっと、お名前は?」
私のやっと出た言葉は名前を訊くことでした。
「僕の名前はルト」
「ルト様」
私の住むオーム国は男性の方が身分が高く、女性は男性に様を付けるのが常識です。
だから男性は女性を見下すのでしょう。
でもルト様は私を見下すことはなく、笑顔で接してくれます。
優しさが可愛らしい顔から滲み出ています。
「ローズは今から何をするの?」
「私は、家畜の体調の確認に行きます」
「ローズは家畜の体調管理もしてるの?」
「はい。私は誰もできない所を補う役目なのです」
「へぇ~、僕も一緒に行ってもいい?」
大きな瞳でお願いをするルト様を拒否することなどできません。
家畜小屋にはルト様を入れることはできないので、遠くから見てもらうようにお願いをしました。
なんとなくですが、ルト様の着ている洋服は高価な物に見えたので、汚してはいけないと思ったのです。
「ローズは毎日働いてるの?」
「はい。それがメイドですので」
「そっか、それなら僕の専属メイドになってよ」
「えっ、専属のメイドですか?」
「そう。僕の傍にいてよ」
ルト様の言葉に心が温かくなりました。
こんなことを言われたのは初めてです。
どんな言葉を返せば良いのか分かりません。
しかし、ルト様は使用人ではないようですね。
このお城へいらしたお客様でしょうか?
だから、高価なお洋服を着ているのでしょうね。
「ダメ?」
「えっと、その、私はこのお城のメイドとして雇われています。私の意思で決めることはできませんし、ルト様はこのお城の者ではないですよね?」
「えっ、僕を知らないの?」
ルト様は驚いて目を見開きます。
大きな目がもっと大きくなりました。
「初めてお会いしたと思うのですが違うのですか?」
「初めてだけど、僕を知らないなんて不思議だね」
「不思議ですか?」
「うん。だって僕は、この国の王子だよ?」
ルト様の言葉に私は一歩後ろへ下がり、頭を下げます。
「申し訳ございません」
「えっ、ローズそんなことしないで。頭を上げてよ」
「でも、私はこの国の王子様にとても失礼なことを、、、」
「ローズ、お願いだから顔を上げてよ」
ルト王子様は私の頭を撫でました。
そんなことをされたことがない私は焦ります。
美しい顔に、笑うと幼く見えるルト王子様の手は大きくて温かかったからです。
大人とは違う、どんな風に表現すれば当てはまるのか分からないけれど、私はその手が好きになりました。
「ルト王子様」
「王子はいらないよ。僕はルト。ローズと居るときは王子じゃなくてルトとして一緒に居たいんだ」
「えっ、あっ、はい。ルト様」
「何? ローズ」
「私はルト様の専属のメイドになるのですか?」
「うん。王様には僕が言っておくよ。いずれ、王様に呼ばれると思うから、その時正式に僕専属のメイドだよ」
「はい。承知いたしました」
困ります。
無理です。
大人のお世話しかしてこなかった私に、子供のお世話は無理です。
大人くらい背が高く、大人くらい知識は持っていそうですが、子供は子供なのです。
親の手の届く所にいる子供は親にとっては一番大切なのです。
私みたいな可哀想なメイドでも、気が利くメイドでも、私は一番にはなれないのです。
このままでは、私はこのお城を出ていくことになるかもしれません。
どんなことをすれば良いのか、全く想像ができません。
ルト様のお世話なんて何をすれば正解なのでしょう?
ルト様とはその日から会うことはなく、何日か経った頃、私は王様に呼ばれました。
あの日の一度きりだったので、忘れられていると思い喜んでいましたが、王様に呼ばれた私は、仕方なく王様の部屋へ出向きます。
中へ入ると王様と王妃様が二人でコソコソと話をしていました。
少し待つと、お二人が私をジッと見つめます。
「これからワタシが言う規則を必ず守ってもらう」
王様は鋭い眼差しで私に言います。
その規則が凄く大事なんだと目を見れば伝わります。
「まず、君には王子の専属メイドとして働いてもらう」
「はい」
やはりそうですか。
私は仕方なく返事をするしかありません。
嫌なんて言えませんので。
「一つ目、必ず寝る前に一杯の水を飲ませること」
「はい」
質問をしたいけれど、王様はそんな間を与えず話を続けます。
「二つ目、必ず夜は王子の部屋の鍵をすること」
「はい」
「三つ目、真夜中の十二時から朝日が昇るまで王子に近付かないこと」
「はい」
よく分からない規則に、私は『はい』と答えるしかありません。
拒否なんてできるわけもなく、守るしかないのです。
「ローズ、ごめんなさい」
王妃様はそう言って、私を抱き締めてくれました。
本当の母親のように感じ、私も抱き締め返します。
これから何が起こるのか分かりません。
ただルト様の専属メイドになるだけなのに、何か大変なことが起こりそうです。
「ローズ」
私は呼ばれて振り返ります。
そこにはルト様がニコニコと笑い立っています。
その笑顔を見ると、私の心は温かくなります。
私はルト様の元へ行きます。
「これから、よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくね」
「そうだな。俺達二人は大変だからな」
えっと、誰か一人増えたのですが。
ルト様がよろしくと言った後、少し体をずらすとルト様の後ろからもう一人のルト様が現れました。
「えっと、これはどういうことですか?」
「あれ? もしかしてこれも知らないの? えっと僕はルトで、こいつは双子の兄のリトだよ」
私は双子の王子様の専属メイドになったみたいです。
私は一人でも大変な子供のお世話を、二人もしなければなりません。
これから大変な毎日になることは想像できます。
だから王妃様は私に謝ったのですね。
今日から私は双子の王子様の専属メイドです。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
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〜次話予告〜
ローズはルト王子の部屋で毎晩、何かが行われていることを知ります。




