14、綺麗なローズ
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
「ローズ、これからどうするの?」
私に覆い被さるルト様は意地悪な顔で言います。
私が抜け出せないことを分かっています。
「ルト様はこんなことが私に起きると思って訓練をしているのですか?」
「ローズ?」
「ルト様は私を助けてくれるのですよね? 動けなくなる前に助けてくれるのですよね?」
「ローズ」
ルト様が私を心配するように片手を私の頬に置きます。
私は、この瞬間を待っていました。
私に覆い被さるルト様の右側に隙間ができ、私はそこからスルッと抜け出します。
「ほらっ、抜け出せました」
「それはずるいよ」
「いいえ、これも戦略です」
「戦略なのかな?」
「はい。相手によって何が正しい判断なのか見極めて動くのです」
「頭の良いローズには良い戦い方かもしれないね」
「はい。男性より力の弱い女性は賢く動かなければ、力では絶対に勝てないので」
ルト様は私の頭を撫でます。
私を褒めているのです。
「ルト様、少し休憩いたしましょうか?」
「そうだね」
私は近くにいた使用人にお茶の用意をお願いします。
そして私は自分の部屋へ戻ります。
私の部屋には二本のゴールドフラワーがあります。
ルト様がくれた一本とイアン様がくれた一本です。
ちゃんと花瓶に入れて大切にしています。
最近、イアン様からいただいた一本に元気がないので、様子を見に部屋へ戻ったのです。
「どうしたの? もう元気に咲く力はないの?」
私はできる限り、お花に話しかけます。
元気になって欲しいのです。
終わりなんて来てほしくないのです。
「ローズ?」
「えっ、ルト様?」
私は部屋のドアの外からルト様に呼ばれ、急いでドアを開けます。
そこにはニコニコと笑うルト様が立っています。
「あれ? 休憩は終わりですか? すみません。すぐに戻りますね」
「ローズ、訓練はいつでもできるから大丈夫だよ」
そう言ってルト様は私のゴールドフラワーに気付きます。
「その花、二本あったんだ?」
「はい。一本はイアン様が助けてくれた時にいただきました」
「ふ〜ん、そうなんだ」
ルト様は興味なさそうに言います。
「このお花にも花言葉はあるのですかね?」
「花言葉? そんなの必要?」
「必要ですよ。言葉にできない想いを伝えるためにお花を渡すなんて、素敵ですよね?」
「レイン国の花だから、僕には分からないよ」
「そうですね。もし、花言葉があっても、その国の花なのですから、その国でしか意味を持たないのかもしれないですね」
「僕とローズの想い出の花でいいんだよ」
「そうですね」
私は、お花に人差し指でツンツンと触れて、部屋を出ようとドアへ向かって歩きます。
「あっ」
するとルト様が驚き言います。
私はルト様の視線の先を見ると、お花が床に落ちています。
花瓶を見ると、弱っていたお花の花瓶には茎しか残っていません。
「えっ、何で?」
私は駆け寄り、お花を拾います。
でもお花は、あんなに元気がなかったのに、今は元気にみずみずしく咲いています。
「この花は、最後に力を振り絞って綺麗に咲いて枯れていくんだよ」
ルト様は私の手の中にあるお花を手に取ります。
「だから、最後の花の輝きをローズがもっと輝かせてあげたら、花も喜ぶと思うよ」
ルト様はそう言って、私の耳の上にお花をさします。
本物のお花の髪飾りです。
ルト様は鏡の前に私を立たせます。
お花がキラキラと輝いています。
「凄く綺麗だよ。ローズ」
私の後ろにいるルト様の落ち着いた声に驚き見上げてしまいます。
いつも子供っぽいルト様が、なんだか大人に感じたのです。
ルト様はニッコリと笑って私に『ほらっ、前を見て』と促します。
私は鏡を見ます。
ルト様の視線にドキドキします。
「ローズ、本当に綺麗だよ」
ルト様が優しい声で褒めるので恥ずかしくなって目を閉じます。
「ローズ、そのまま目を閉じて聞いてね」
「はい」
ルト様はゆっくりと優しく私を後ろから抱き締めてから深呼吸をしました。
「僕、レイン国に行くから、ローズとは離れなきゃいけないんだ」
「ルト様?」
「ダメだよ。目は閉じてて」
ルト様は私の目をルト様の大きな手で覆います。
「僕の話をちゃんと聞いてよ?」
「は、、、い」
「ローズ、君はこの国には必要な存在なんだ。だから何があってもこの国を離れないでほしい」
「はい」
「必ず、、、から」
「ルト様?」
ルト様が小さな声で言うので最後の言葉は聞こえませんでした。
「今日は、ローズが綺麗だからローズと一緒に展望台で夜は食事をしようかな?」
「私とですか?」
「そうだよ。僕達だけだよ」
「でも、、、」
このお城では、朝昼晩と食事は家族全員で食べます。
それを私と食事をするなんて、そんなの承諾なんてできません。
「大丈夫だよ。今日は大丈夫だから」
ルト様は大丈夫だと言うだけで、信じて良いのか分かりませんが、私は頷きました。
だって嬉しかったのです。
ルト様と一緒にいられることが。
「今日は特別な日にしたいから、後でローズにドレスを届けるよ」
「ドレスですか?」
「そう。僕がローズのために選んだドレスだよ。絶対に似合うと思うんだ」
「楽しみです」
「それまでは部屋でゆっくりしててよ」
「えっ、でも、私にはメイドのお仕事が、、、」
「今日は休みだよ」
「えっ」
「リトも部屋から出てこないし」
「あのリト様がですか? すぐに体を鍛えにトレーニングルームへ行くリト様がですか?」
「リトにもそんな日があるんだよ」
そしてルト様は私の部屋を出ていきました。
私は夜が来るのが楽しみでウキウキしていました。
早く食事の時間にならないかな。
ルト様がレイン国に行くのも、少し何日か行くだけだと思います。
たった一日離れるだけで、大騒ぎのルト様なのですから。
すぐに戻って来るのに、大袈裟ですよ。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
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~次話予告~
ルトとローズは二人で楽しい食事を楽しんだのですが、最後にルトは残酷な言葉をローズに放ちます。




