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偽装結婚ですか⁉望むところです!……ところで本当に偽装ですか?なんかちょっと違う気が……  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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12話 弟に会ってもらえませんか?

 二日後。

 リドリアはアレックスに呼び出され、王宮内にある一室にいた。


「ここ、近衛騎士団専用ですか?」

 案内され、物珍し気に室内を見回した。


 主に陛下や王太子殿下が使用する建屋内の部屋だ。

 接待や謁見に使用するわけではないのは一目でわかる。極端に装飾が少ないのだ。


 機能的に配置されたソファやテーブル。窓もとられてカーテンもつるされているが、さりげなく他人から視線をさける意図がある。


 棚にはなにも飾られておらず、本棚もがらんどうだ。物置かともおもうけれど、埃っぽさも未使用感もない。


(仲間内で使用する部屋なのかしら)


 当然だが王宮内は広い。

 だが、リドリアがすべての部屋や建屋に出入りできるわけではない。


 主に王太子妃殿下の執務室が入っている建屋や謁見室で仕事をしているだけで、他部署へと顔を出すにはそれなりの理由が必要だ。


 なので、侍女控室に置かれた手紙でアレックスに呼び出されたときは、「もし咎められて罰を受けたらどうしよう」とドキドキしたものだが、杞憂に終わった。


 当然だ。アレックスが警備の騎士に事前に連絡をしてくれていたのだから。


「専用というわけではないが、よく各班長と打ち合わせには使用している」


 相変わらずぶっきらぼうにアレックスは応じ、ソファのひとつを顎で示した。

 リドリアもうなずき、彼と向かい合わせで座る。


 テーブルにはお茶や、ましてや菓子などない。水もない。

 却ってリドリアは気楽だ。必要な会話だけ済ませて帰ればいいのだから。


「日程を提示してもらって申し訳ないが」

 向かいの席に座り、ひざの上で指を組み合わせたアレックスが淡々と告げる。


「やはり合う日がない。すまないが、事前に伝えておいたように、御前試合の日に応援に来てもらってもいいだろうか。それをデート日にカウントする形で」


「私は構いません。そもそも王太子妃さまのテントに控えておりますし、弟も出るので」


「弟御?」


 いぶかし気に少しだけアレックスの目が細くなる。リドリアは誇らしげに胸を張った。


「来年から正式に王太子妃さまの近衛騎士団所属になります。いまは学生でもあるため、見習いなんですが、準騎士団員ということで選考会に参加させていただいて」


 昨日、学校から戻るなり、弟のフィンリーは興奮した面持ちでリドリアに報告したのだ。


『御前試合に出ることになった!』


 非常に名誉なことだ。

 リドリアはフィンリーに抱き着いたが、さすがに15歳になった弟には気恥ずかしさのほうが先に立ったらしい。『やめろよ』と拒否されてしまったのが少し悲しい。


「正式に昨日、決まったとか。もうこんなうれしいことはありません! 今朝、王太子妃さまからも『一緒に応援しましょう』とお言葉をいただいたところです」


「なるほど。貴嬢の弟御ならばスジもよかろう」

 そんなことを言われ、「あれ?」とリドリアは目を瞬かせた。


「弟を……ご存じで?」

「まさか。貴嬢の関節技を一度見た」


 抑揚のない声で言われ、一瞬なんのことかわからずにアレックスを見つめる。彼は肩をすくめた。


「王宮内で騒動を起こしただろう。ほら、あのセナ嬢と」

「ああ!」


 目を見開く。

 そうだ。あまりにもメリッサ王女たちが王太子妃をいじめるので、苦言を呈した時のことだ。


 セナがつかみかかってきたから腕をつかんでひねり上げた。

 そのとき、確かに「私闘」と間違えられて警備兵だの騎士だのが集まってきていた。


 あの中にアレックスがいた、ということだろうか。


「でなければ、カフェにいる貴嬢に声をかけられんだろう」


 ああそうか。

 顔を知らないとそれもそうか。


「なんときれいな関節技を決める娘だと感心した」

「それはどうも」


 ぺこりと頭を下げる。


「なにしろ私は弟を立派な伯爵に育てなくてはなりませんから。私のもつすべてでもって弟を指導してきました」

「誰かに指導を頼もうとは思わなかったのか?」


「はい? ええ。家庭教師も考慮しましたが、弟にとっては同年代からの刺激も必要かと思い、学校へ通わせております」

「ではなく、格技のことだ」


 若干、興味深そうにアレックスはリドリアを見た。


「なにも女である貴嬢が手ずから教えなくても」

「私以上の格技の指導者がおりませんでした」


 リドリアの返答にアレックスは珍しく驚きの表情を見せた。


 そして。

 さらに珍しいことに爆笑をしたのだ。


「なるほど。確かに貴嬢の足さばきと的確な技の極めはなかなかのものだった。変な男にカネを積んで教えを乞うより貴嬢のほうが指導者としてふさわしかろう」


 笑いをおさめ、アレックスはまた無表情に戻る。 

 あっけにとられてアレックスが笑うさまを見ていたリドリアも、ようやく我に返った。


「ええ。それにほら。格技や剣技の指導者というのは時折〝指導〟という名の暴力をふるうでしょう? あれが許せなくて。なので、大事な弟は私が指導することにしたんです」

「正しい判断だ」


 言ってからアレックスは立ち上がる。


「話は以上だ。それでは御前試合で会おう」

「わかりました」


 答えてからリドリアも立ち上がる。

 無駄がないことに安心する。


 世間話をするでもなく、お茶や菓子の相手をしなければならないわけでもない。顔色を窺い、表情を読んで話をあわせなくてもいい。


 第三者が見れば恋人同士とはかけ離れた関係性に見えるかもしれないが、リドリアにとってアレックスというのは付き合いやすい男性ではあった。


「あ、それで、ですね」

 リドリアはぽん、と手を打った。


「なんだ」

 扉に向かいかけた足をアレックスが止める。


「御前試合の時に、弟に会ってもらえませんか?」


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