ギソウ戦役
◆ UE45315〜45330年
《灰色の対話と、観察の終わり──ギソウ戦役・序章》
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【I. UE45315年:初の公式会談開催へ】
● 会談の準備
• レオ総督府外交局は、ギソウ艦「タス=グレイン」からの定型跳躍信
号に対し、**非武装使節艦「リンドラ・スファエラ」**を派遣。
• 搭乗代表:
• 記録庁記録准官アトラ=ルーン
• 軍務局付属参謀補佐レンズマン・カモジ=ナキリ
• 総務院通信統制官エリクス=マリオン
→ 目的は、ギソウを「非同盟観察文明」として形式的に連邦記録圏に取
り込む提案。
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【II. UE45317年:会談の実施(リュオ=アスト中立宙域)】
● 会談の様子
• 会場は中立宙域に静止するギソウ母艦「カルス=ヴァシュ」内。
→ 艦内は照度極小、ほぼ無音。記録艦であることを誇示するような装飾
や象徴的意匠も一切なし。
• 応対者はギソウ記録長「ネム=エル=ヴェーダ」。
→ 無言で応接に現れ、言語ではなく、跳躍信号で即時翻訳された“記録
語”を介した会話のみを行う。
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● 交渉内容と推移
議題 ギソウの対応
連邦秩序下での観測権の保障 「記録者に境界はない」→ 拒否
攻撃意思の有無 「抵抗の記録は滅亡に必要」→ 否定せず
同盟・交流・定期通信の提案 「関係性は記録を濁す」→ 拒否
→ ギソウ側は、明確な敵意や攻撃通告は行わないが、**一貫して「他文
明の終焉を記録するのが本質」**であることを主張。
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【III. UE45318年:会談終了・代表団帰還】
• 記録庁はネム=エル=ヴェーダの発言ログを「殲滅記録主義に基づく
拒否的中立外交」と定義。
• 総務局は、交渉の破綻と見なし、軍務局へ「観察宙域の封鎖と抑制措
置」を推奨。
• レオ総督府は翌日、「制宙警備強化命令(レベルII)」を発令。制宙艦
隊がギソウ跳躍域に布陣を開始。
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【IV. UE45322年:ギソウによる“記録移行宣言”】
• ギソウ母艦から、連邦通信宙域全体に向けて跳躍変調信号が発信:
「対話は完了。記録は行動を必要とする。
君たちが抵抗する姿を、記録として残す。」
• 記録庁はこれを事実上の“記録戦移行通告”=開戦宣言と見做し、
軍務局はこれに基づき「**記録対処戦状態(Category J-5)」を宣
言。
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【V. UE45323〜45330年:戦闘初期段階(局地跳躍戦)】
● ギソウの初期攻撃行動
• 宇宙観測衛星網および哨戒艇3隻を目標に、**“跳躍封鎖突破射撃”**を
実施。
• 攻撃の特徴:
• 命中率よりも軌道パターンの複雑性を重視した跳躍経路
• 爆発映像・残留波動すら**“記録映像”として構成されている**かのよう
な演出的性質
• → 軍事的実害は軽微だが、**行動すべてが“見られるための戦争”**と
いう異質性が際立つ。
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● 大銀河連邦の初動
• レオ第3制宙戦隊が即座に跳躍封鎖網を再構築、ギソウ艦隊をナミル=
トリ宙域内に封じ込める。
• レンズマン部隊が跳躍型追尾艦による“記録型戦術の妨害行動”を実
施。
• → 初期戦果として、ギソウ小型艦3隻を捕捉・制圧/母艦への追尾信
号の送信に成功
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総括:ギソウ戦役・序盤の構図(UE45315〜45330)
● 会談は形式的には成立したが、ギソウにとっては交渉自体が“記録手
順の一部”であり、
実際には最初から滅亡の描写=戦争を前提とした接触だった。
● 大銀河連邦はこれを冷静に分析し、戦略跳躍封鎖・局地制宙戦によっ
て初期から戦術的優位を確保。
● ギソウ戦役は、「本気ではない敵との、しかし本質的に不協和な闘
い」という特殊な性格を帯び始める。
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◆ ギソウ戦役・終盤(UE45400〜UE45440年)
《記録の終わり、記録者たちの死》
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【I. 全体状況(UE45400年時点)】
• 大銀河連邦によるレオ作戦域の制宙は完全に確立され、ギソウ艦隊は
ナミル=トリ宙域とその周辺跳躍圏に完全包囲・分断される。
• ギソウ艦の損耗率は70%を超えており、母艦クラスはカルス=ヴァ
シュとヨル=エンの2隻のみが稼働状態。
• 連邦軍は艦隊による跳躍封鎖と、レンズマン特戦部隊による残存拠点
への精密掃討戦を実施中。
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【II. UE45412年:記録長の最期】
● 特殊作戦「コーデックス・エンド」発動
• ギソウ旗艦カルス=ヴァシュへの艦内突入作戦が発令。
• レンズマン・カモジ=ナキリを指揮官とする特戦隊が、艦内跳躍障壁
を突破し、司令中枢区画へ強行侵入。
• 艦内では戦闘は発生せず、記録官たちは抵抗をせず、ただ記録端末の
前に静止していた。
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● 記録長 ネム=エル=ヴェーダとの最後の交信
• 中枢にて記録長と対面。跳躍変調による最終交信が行われる:
「我らは全てを記した。記録とは抵抗であり、滅びであり、証明であ
る。
汝らは滅ばぬが、故に記録に値しない。
だが我は、最後に汝らに記録を譲る。」
• この言葉を残し、ネム=エル=ヴェーダは自らの情報脳核を焼却。記
録の完了=自己消去という哲学に従って静かに崩壊。
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【III. 全艦隊への信号伝達と連鎖自壊】
• ネムの脳核から発された最終信号「コード:ALFA-NIX(記録完了信
号)」により、
ナミル=トリ宙域に残存するギソウ艦の8割以上が自動的に自壊プロ
グラムを発動。
• 自壊方法:
• 跳躍中枢暴走による空間内部消滅
• 艦内の記録回路焼却
• 乗員の神経遮断による完全停止
→ 実質的な「文明規模の集団記録的自決」が発動された。
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【IV. 最後の生き残り:灰色の遺児たち】
● 約4隻の小型巡察艦が信号遮断状態で残存
• 通信不全、損傷による制御系統切断などの理由で、記録長の最終命令
を受信しなかった艦艇が存在。
• その中の一部は連邦側の呼びかけに応じ、通信による“投降”ではな
く、“記録委託”という形式で接触。
• 生存者:
• 記録補佐官階級の女性個体2名
• 記録工務技術士1名
• 戦術兵(男性)約20名(うち可動個体は5名)
→ 彼らは**「記録の後継ではなく、証人として残る」ことを自認**し、
戦後、記録庁特別観察部局に移送される。
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【V. 終戦(UE45440年)】
• レオ総督府がギソウ戦役の終結を正式宣言。
• 記録長の自死と全艦の沈黙により、「記録文明ギソウ、完全滅亡」が
記録される。
• 戦後報告書には、次のように記される:
「彼らは我らに勝てなかった。だが、滅ぶことで記録された。
滅亡は文化ではない。だが、滅亡を様式化した文化もまた存在した。」
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総括:ギソウ戦役の終盤と意義
項目 内容
軍事的帰結 大銀河連邦の圧勝。ギソウ艦隊完全壊滅、宙域再統治完了。
文化的帰結 ギソウ文明の哲学的死。記録とは“自身をも記録に還元する
思想”だった。
生存者の意味 数名の記録者が“証言者”として残り、大銀河連邦の記録庁
に組み込まれる。
→ 後に“灰色の記録遺児たち”と呼ばれる。