第一次大戦前夜
### **1. 英国の極東への勢力拡大**
#### **(1) 背景**
- **日露戦争後の再編**
日露戦争での勝利を機に、日本は朝鮮半島と南満州を勢力圏とすることに成功。しかし、戦争後の財政負担や人的消耗により、日本は単独で極東の安定を維持することに限界を抱えていた。
これを補完する形で、英国が極東での存在感を強化する動きを見せる。
#### **(2) 英国の行動**
1. **朝鮮半島への駐留**
英国は、日本の提案を受け入れ、朝鮮半島(釜山、仁川、京城)に部隊を駐留。これは、ロシアの南下政策を抑止するだけでなく、日本の駐留負担を軽減する役割を果たす。
2. **南満州鉄道の利権取得**
日露戦争の勝利により獲得した南満州鉄道の一部利権を日本が英国に譲渡。英国はこれを基に中国市場へのアクセスを強化し、経済的利益を拡大。
3. **英国海軍の極東活動の活性化**
英国海軍は、朝鮮半島の港湾施設(釜山、仁川)を補給拠点として活用し、極東海域での活動を本格化。これにより、日本海軍との共同作戦能力が向上。
#### **(3) 結果**
- 英国の極東への積極的な関与により,日本との連携が強化される一方で,ロシアとアメリカに強い警戒感を与える。
---
### **2. 日露協商の不成立**
#### **(1) 英国の極東進出がもたらす影響**
- 英国の勢力拡大により,ロシアは極東での戦略的圧迫を受け,日本との協商を進める余地が狭まる。特に南満州鉄道や朝鮮半島における英国のプレゼンスは,ロシアにとって看過できない問題となる。
#### **(2) 日本の外交姿勢**
- 英国の支援を受けた日本は,日露協商に積極的ではなくなる。朝鮮半島や南満州の勢力圏を確保することが最優先となり,ロシアとの妥協を避ける姿勢を取る。
#### **(3) ロシアの動き**
- 日露協商不成立を受け,ロシアは満州北部やモンゴルへの影響力を強化し,シベリア鉄道を活用した極東軍の再編に着手。ウラジオストクを中心に太平洋艦隊を再建し,日本への対抗姿勢を強化する。
---
### **3. 米露の不満と国際緊張**
#### **(1) ロシアの不満**
- 英国と日本が連携して極東での影響力を拡大する中,ロシアは地政学的圧迫を受け,外交的孤立感を強める。これが,ロシアの軍備拡張と対外強硬姿勢を助長。
#### **(2) アメリカの不満**
- 英国の極東進出と日本の南満州・朝鮮半島支配が,アメリカの「門戸開放政策」に反すると見なされる。特に,南満州鉄道を巡る利権問題が日米間の緊張を激化させる。
- アメリカはフィリピンや太平洋諸島で軍事プレゼンスを強化し,将来的な対日対抗策を模索する。
#### **(3) 列強間の緊張**
- 極東での英日連携により,ドイツやフランスも警戒を強め,列強間の力の均衡が不安定化する。
---
### **4. 日本陸海軍の増強**
#### **(1) 海軍:八八艦隊計画の進行**
1. **ロシア太平洋艦隊への備え**
日露協商不成立により、ロシアがウラジオストクを拠点に艦隊を再建することが予測されるため、日本海軍は制海権を維持するために八八艦隊計画を推進。
2. **アメリカ海軍への対抗**
アメリカがフィリピンや太平洋での軍事力を強化する中、太平洋での優位性を確保するため、最新鋭の戦艦と巡洋戦艦を整備。
3. **英国との連携強化**
英国海軍の技術支援と共同作戦の見越しで、八八艦隊は英国海軍との協調性を重視した設計が進められる。
#### **(2) 陸軍:火力面での近代化**
1. **日露戦争の教訓**
日露戦争での火力不足を補うため、重砲や機関銃の大量導入を進める。
2. **寒冷地戦闘能力の強化**
シベリアでの戦闘経験を踏まえ、寒冷地用装備や兵站システムを改善。これにより、北満州や極寒地帯での作戦能力が向上。
3. **鉄道兵站の整備**
満州や朝鮮半島での鉄道網拡充を進め、大規模な兵站体制を構築。
---
### **1. 日露協商不成立の背景**
#### **(1) 極東での日露対立の激化**
- **英国の極東勢力拡大**
英国が朝鮮半島や南満州鉄道の利権に関与し、朝鮮南部の港湾に軍を駐留させたことで、ロシアは極東での圧力を受けます。英国の行動は日本の支援を強化する一方、ロシアに対する牽制の意図が明確でした。
- **日本の強硬な外交姿勢**
日本は英国の支援を背景に、満州や朝鮮半島での勢力圏を確立。ロシアに対して譲歩を見せず、日露間の妥協の道が閉ざされました。
- **ロシアの極東戦略の維持**
日露戦争で敗北したロシアは、極東でのプレゼンスを再建するため、北満州やウラジオストクの軍備を強化。ロシアは日英連携に対抗する姿勢を示します。
#### **(2) 英露関係の緊張**
- **中東での対立**
英国がインドや中東におけるロシアの南下政策を警戒しており、英露間の協力は進展しませんでした。イランやアフガニスタンを巡る英露の利害対立が続きます。
- **三国協商の不安定化**
英国とロシアの間に根強い不信感があり、フランスが両国をつなぎ止める役割を担っていたものの、協力関係は表面的なものにとどまりました。
---
### **2. バルカン半島の緊張**
#### **(1) オーストリア=ハンガリー帝国とセルビアの対立**
- **スラヴ民族主義の台頭**
セルビアはスラヴ民族主義を掲げ、オーストリア=ハンガリー帝国内のスラヴ人(特にボスニア)を独立運動に駆り立てます。この動きはロシアが支援しており、オーストリア=ハンガリー帝国との対立を激化させました。
- **ボスニア危機(1908年)**
オーストリア=ハンガリー帝国がボスニアを併合したことでセルビアとの対立が表面化。ロシアはセルビアを支持しましたが、ドイツがオーストリアを後押ししたため、ロシアは直接介入を控えました。
#### **(2) ドイツの積極的な支援**
- ドイツはオーストリア=ハンガリー帝国を支援し,バルカン半島でのロシアの影響力拡大を阻止する立場を取ります。これにより,ドイツとロシアの緊張が高まりました。
#### **(3) バルカン戦争(1912~1913年)**
- バルカン同盟(セルビア、ギリシャ、ブルガリア)がオスマン帝国を攻撃し、領土を分割。ロシアはバルカン同盟を支援し、オスマン帝国の弱体化を後押ししました。
- 第二次バルカン戦争では,ブルガリアが敗北し,セルビアが勢力を拡大。ロシアはセルビアの影響力をさらに強化しました。
---
### **3. 第一次大戦直前の列強間の構図**
#### **(1) 三国協商(英仏露)の内部不安定性**
- ロシアと英国の関係は極東や中東での対立により緊張状態にありましたが,フランスの調停により表向きの協調関係が維持されていました。
- 英仏間では海軍協力が進み,ドイツ海軍に対抗するための共同戦略が形成されました。
#### **(2) 三国同盟(独墺伊)の揺らぎ**
- ドイツとオーストリア=ハンガリーの結束は強化されましたが,イタリアはバルカン問題やオーストリアとの領土争いにより,三国同盟への忠誠が曖昧でした。
- ドイツはバルカン半島でのオーストリア=ハンガリーの支配を支持しつつ,ロシアへの対抗を強化します。
#### **(3) 日本の動向**
- 日本は極東でロシアとの緊張を維持しつつ,英国との連携を強化。八八艦隊計画を推進し,太平洋での軍事的優位を目指しました。
- 日本はヨーロッパの情勢には直接的な関与を避けつつ,ドイツの太平洋植民地に関心を持ち,戦争勃発時にこれを獲得する機会をうかがっています。