陸軍戦闘機開発小史
日本陸軍の戦闘機開発史(黎明期からジェット機まで)
1. 戦闘機黎明期(1914年~1929年)
第一次世界大戦で日本陸軍は航空機の重要性を認識し、欧州諸国からの
技術導入を進めました。
• 輸入とライセンス生産
• 英国・フランスの戦闘機輸入: ソッピース キャメル、ニューポール17
などを輸入。
• ライセンス生産: 中島飛行機がブリストルF.2のライセンス生産を実
施。三菱はイスパノ・スイザのエンジン技術を導入。川崎はドイツのダ
イムラー・ベンツと提携し、液冷エンジンの基礎を構築。愛知はロール
スロイスと提携して英国の技術を吸収しました。
• 陸海軍の技術導入協議会の設立
• 日本陸海軍は航空技術導入の効率化を目的として1920年代に「航空技
術協議会」を設立。
• 欧米からの技術輸入を統一し、重複を避けることを目指しました。例
として、川崎がダイムラー・ベンツのライセンスを取得、愛知がロール
スロイスのエンジン技術を導入する方針が決定されました。
2. 戦間期の開発(1930年~1936年)
戦間期には、国産化と運用実績を重視した航空機開発が進められまし
た。
1. 九一式戦闘機(1931年)
• 設計・製造: 中島飛行機
• 開発背景: 複葉機から単葉機への移行期における国産機の試みとして開
発。欧州輸入機を参考にした設計。
• エンジン: 空冷ハ1エンジン(580馬力)
• 最大速度: 350km/h
• 特徴: 日本初の本格的国産戦闘機。安定した運用性から満州・ロマノフ
公国での作戦に広く使用されました。
2. 九二式戦闘機(1932年)
• 設計・製造: 川崎航空機
• 開発背景: 液冷エンジンを搭載した高性能機を目指して開発。ドイツの
液冷エンジン技術を応用。
• エンジン: 液冷BMW VIエンジン(600馬力)
• 最大速度: 370km/h
• 特徴: 満州や中国北部の高高度作戦で優位性を発揮しました。
3. 九五式戦闘機(1935年)
• 設計・製造: 川崎航空機
• 開発背景: 金属単葉機としての革新機。高高度性能を重視し、液冷エン
ジンを搭載。
• エンジン: 液冷ハ9エンジン(850馬力)
• 最大速度: 430km/h
• 特徴: 陸軍初の金属製単葉機。太平洋地域やシベリア地域での防空任務
で活躍しました。
3. 日米戦争と九七式戦闘機(1935年~1937年)
1. 九七式戦闘機(1937年)
• 設計・製造: 中島飛行機(採用)、川崎航空機・三菱重工業(試作)
• 開発背景: 米国P-26やソ連I-15との交戦で航空機の更新が急務となり、
陸海軍協議会で設計競争が実施されました。
• エンジン: 中島製空冷ハ1乙エンジン(710馬力)
• 最大速度: 470km/h
• 特徴: 固定脚ながら優れた運動性能を持ち、フィリピン戦線で多大な戦
果を挙げました。
4. 第二次世界大戦の主力機(1939年~1947年)
1. 一式戦闘機 隼(1941年)
• 設計・製造: 中島飛行機
• 開発背景: 長距離性能を重視し、地中海や中東戦線での作戦に最適化。
• エンジン: 空冷25エンジン(980馬力)
• 最大速度: 500km/h
• 特徴: 軽量構造と航続距離が特徴で、長距離護衛任務で活躍しました。
2. 二式戦闘機 鍾馗(1942年)
• 設計・製造: 中島飛行機
• 開発背景: 爆撃機迎撃のための重戦闘機として開発。
• エンジン: 空冷ハ41エンジン(1,260馬力)
• 最大速度: 600km/h
• 特徴: 地中海での防空任務で高高度性能を発揮しました。
3. 三式戦闘機 飛燕(1943年)
• 設計・製造: 川崎航空機
• 開発背景: 液冷エンジン搭載の高性能機を目指して開発。
• エンジン: ハ40(液冷エンジン)、後にハ240(ロールスロイス改良
型)
• 最大速度: 610km/h
• 特徴: イタリア戦線以降長距離護衛や防空に活躍。後に五式戦闘機(キ
100)として改良され、信頼性が向上しました。
4. 四式戦闘機 疾風(1944年)
• 設計・製造: 中島飛行機
• 開発背景: ドイツBf109や英国スピットファイアに対抗する高性能な万
能戦闘機として開発。
• エンジン: 空冷ハ45エンジン(1,800馬力)
• 最大速度: 650km/h
• 特徴: 欧州正面での主力機として活躍。
5. ジェット機開発(1944年~1947年)
1. 橘花(1944年)
• 設計・製造: 陸海軍共同開発
• 開発背景: ジェット技術の試験機として開発。
• エンジン: ロールスロイス・ニーンのライセンス生産型
• 特徴: 初の日本製ジェット試作機。実験機として使用され、量産はされ
なかった。
2. 六式噴式戦闘機 震電改(1946年)
• 設計・製造: 陸海軍共同開発
• 開発背景: 欧州戦線での迎撃戦力確保を目的に実用化。
• エンジン: ロールスロイス・ダーウェント改良型
• 武装: 30mm機関砲×4門(甲型)、20mm機関砲×6門(乙型)
• 最大速度: 860km/h
• 特徴: 世界初の後退翼ジェット機の一つとして高評価。欧州戦線で実戦
投入され、終戦まで活躍しました。
6. 総括
陸海軍の協力と多国間技術の導入を通じて、日本陸軍の戦闘機開発は黎
明期から驚異的な進展を遂げました。六式噴式戦闘機の実用化により、
戦争末期には航空技術の先進国としての地位を確立しました。