3.5、可及的速やかに悟りましょう!
※吉本ばななさんに対する物凄く個人的な見解が述べられています。かの大先生のファンと称される方が、もしご気分を害されたら、切にお詫び申し上げます。かの大先生のファンで、以下この小説の続きを読まれる場合はご注意ください。
※作者は吉本ばななさんが普通に好きです。
山階くんが差し出した本のタイトルに見入る。
とても、懐かしい本だった。中学生のときに読んだ本だ。
『うたかた/サンクチュアリ』、吉本ばななさんの上梓した、二冊目の本。
いつからだろう、この柔く細い感覚が、とても弱々しいものに感じられるようになったのは。
読んだ当時は主人公にとてつもなく感情移入もしたし、大好きな作品だったはずなのに。
「続木さーん?」
「あっと、ごめん。急いでるんだったね!」
起き抜けの頭で考えることは、正直ろくでもない。気持ちがストレートすぎるというか、思ったことそのままで動いてしまうというか。
山階くんの方に表紙が見えるように向きを変えて、本を渡す。
「お疲れ! また明日ね!」
自分の中の妙な考えを追い払うように、笑顔で彼を見る。
「うん、また明日」
……やっぱり、さっきちょっと本を見て考え込んだのがいけなかったかな? いつもより少しだけリアクションが薄い。
……考えすぎかな?
山階くんがいなくなったので、図書室には私一人となる。まったりとした秋の読書を楽しむ。やっぱり、秋は殺人事件よね!
いやー、吉本ばななさんからは、すごく離れてしまったなぁ……何かもう彼岸の勢いだ。どうしよう、乙女として。
乙女、と言えば。
「あれを借りていく山階くんも相当乙女だよな~」
もし吉本ばななさんという作家さんがどういう人か知らなければ、まぁ、何というか、地雷踏んだ、位に思ってしまわないだろうか。てか、あれ高校生の男の子が読んで面白いのかな? とっても可愛らしい乙女(男も含まれる)の独り語りだよ、あの本。
……まさか。
まさか?
まさか!
叶わない恋、でもしてんのかな。
有り得ない。でも、そう断言するのには、情報が足りなさ過ぎる。同じクラスだというのにそんな素振りを微塵も感じさせないとは、敵ながら(?)やるわね。
ちょっと楽しくなってきた。
ぶっちゃけどうでもいいけど、他人の恋愛事情(片恋)ほど無責任に楽しめるものはこの世にないやね。
……ん?
あれあれ?
何で、ちょっとモヤっとしてんの私。
山階くんが誰を好きでもいいじゃん。
――あれ、自分の言葉に、今ちょっとショック受けたぞ。
起き抜けは、やっぱり、ろくなことを考えない。