第87話 砂漠の旅4
マハドは説明する。
「あの村を通って四、五日もすると草原に出る。そこからまた五日ばかりで、森の入口につくよ。その森のなかにカジエバ族の集落があってさ。おれが行ったことあるのは、そこまでなんだ」
「ユスタッシュはそこへ行ったのかしら?」
「たぶんね。密林の種族で交流できるのは、カジエバ族だけだ。道案内に絶対、一人はつれてくよ。じゃないと遺跡にはたどりつけない」
「じゃあ、わたしたちもそうしましょう」
一行は勇んで岩山をめざす。だが、そこに見えているのに、なかなか山は近づいてこない。景色をさえぎるものが砂丘以外ないから近くに見えているが、じっさいにはまだ遠い場所なのだ。
しかし、それでも少しずつ近づいていた。岩山のふもとに小さな点が見えてくる。それがしだいにハッキリして、土壁の家々だとわかるようになる。村だ。そこはもうオアシスというより、草原の始まりだ。ここまでの砂漠で見てきた貧弱な低木や苔のはりついたオアシスとは異なり、緑が濃い。
「花だわ。花が咲いてる」
「砂漠が終わるよ。ルビー」
「嬉しい。何年も砂漠を旅してきた気分」
「まだヴァグラの暦で風の月前だよ」
「それはユイラの暦よ。ユイラの暦をヴァグラの人が使ってるんだわ」
「はいはい。ルビー、ほら、急ごう」
岩山のふもとの村で、ユスタッシュの足どりがつかめた。
「やったぜ! ルビー。このじいさん、ユスターハンのラクダを買ったってよ」
「ほんとっ?」
「青い目で、今まで見たことないほど白い人だったって!」
村に入ると、ハグンたちが次の目的地への旅支度を整えるあいだに、マハドはあちこちからユスタッシュのウワサを聞きこんできた。そのなかでも、この老人の話がもっとも有益な情報だ。
「何々? ラクダのかわりに、あんたの息子をつれていったって? ははーん。タズモグまでの道案内にね。それはいつの話だ?」
老人がブラゴール語に似て非なる言語で何やら言う。マハドが目を輝かせた。
「喜べ。ルビー。四日前だ」
「四日? だって、ラクゼンでは十日も遅れてたのよね?」
「おれのルートのほうが近道だったんだ」
「わたしたち、ユスタッシュに近づいてる!」
「そうだよ!」
思わず、マハドと抱きあって踊りだす。ウィリスたちも声をあげて笑った。
「早く会いたいわ」
「密林に入るまでに追いつくといいな」
二ヶ月で六日の短縮。ここからはその半分の日程だ。追いつくのは厳しいかもしれないが、勝負どきではある。
一同はマハドのなじみのハベシュを雇って、新たな旅にむかった。
砂地に肉厚のサボテンやイバラが低く地面をおおう荒地を進むこと三日。一行はとつぜん、砂嵐に見舞われた。
「まずい。砂嵐だ!」
マハドがそれを見つけたときは、まだ遠くだった。が、砂をまきあげて黄色く見える空が、みるみる近づいてくる。
「みんな、ひとかたまりになって布をかぶるんだ。ルビー、絶対、目をあけるんじゃないぞ」
マハドの指示に全員、したがう。が、砂嵐の直撃を受ければ、とうてい誰も生きていられない。砂粒と同様、人間もラクダも空中にまきあげられ、高く浮きあがったあと、地面にたたきつけられて死ぬ。
「どうか、あっちへ行ってくれますように。ルビーも願ってて」
頭から布をかぶり、ルビーをを抱いて大地にふせるマハドが、神の加護を求める聖句を早口に唱える。
もう一行のところまで、砂嵐の余波が吹きよせていた。頭上にパラパラと砂が降ってくる。風が一段と強くなる。
(神さま。どうか、わたしを生きてユスタッシュに会わせて!)
ルビーは祈った。たぶん、一生ぶんお祈りした。
ラクダのおびえた鳴き声。布が風にはためく。砂の雨が叩きつけ、全身を打つ。
(ユスタッシュ……)
荒れ狂う風がすべてを飲みこんだ。




