第83話 ユスタッシュを追って
申しわけない。83話がぬけてました。さきに84話を読んだかたがいたら、すみません。
表通りの古い木造建築。ヴァグラのなかでは大店の土産物屋や宿がつらなる界隈だ。船宿『ゴドラの泉』もそうした老舗の一つだ。店主のゴドラは貿易船ゴドラ号の船長でもある。
ルビーはこのゴドラの店で、マハドやゴドラを前に歓待を受けていた。
「それじゃあ、海に落ちて漂流しているところを、この親分さんの貿易船が通りかかって、ひきあげてくれたのね?」
「いやー、あのときは死ぬかと思ったね。こんなことなら、ちゃんとユスタッシュに泳ぎを教わっとくんだったって、死ぬほど後悔したよ」
「何言ってんだ。マハド。おまえ、とうに気絶してたくせに。しかし、それがよかったんだぜ。へたにあばれなかったから、たいして水を飲まずにすんだんだ」
新鮮な海鮮料理をごちそうになりながら、マハドの身の上話で盛りあがった。
「じゃあ、ユスタッシュはきっと、あなたが死んでしまったと思ってるわね」
「そりゃあ、おいらが死んだと思ったくらいだからね。目がさめたら、このむさくるしいヒゲづらのおっさんたちがのぞきこんでるからさ。てっきり地獄へ来ちまったと思ったよ」
ゴドラはムスリとするが、怒っているふうじゃない。照れ隠しだと、初対面のルビーにもわかった。表情に出やすいおじさんだ。人情に厚い人物らしい。
「ところで、姫さま。あんたはなんで、こんなとこに? ユスターハンは元気かい? おれさ。金ためてユイラに行って、ユスターハンに会いたかったんだ。命を狙われてたし、心配でさ」
今度はマハドのほうがルビーを質問責めにする。
「ユスタッシュは元気だと思うわ。たぶん」
「たぶんって?」
「国を出て、行ってしまったからよ。だから、わたし、彼を追いかけていくの」
マハドとゴドラは顔を見あわせる。
「くわしく話してくれよ」
ルビーはユイラで起きた事情を、自分の知るかぎりくわしく話す。お家騒動については、エルタルーサがザッと説明してくれたていどにしか知らなかったが、マハドは納得していた。
「そっか。それで急いでユイラに帰ろうとしてたのか」
「それよりも、馬術大会のからみで皇帝陛下の恨みを買ってしまったことが問題なのよ。でも、それも解決してたのに、なぜ急にユスタッシュが出奔したのかわからないわ」
義母との関係については、ユスタッシュとセブリナ以外、誰も知らない秘密だからだ。
「砂漠のむこうの密林にある遺跡へ行くって話してたらしいの。もしかしたら、そこで死ぬつもりかもしれない。あの人はいつもそう。他人の迷惑にならないことばかり考えて、自分をおろそかにするんだわ。わたしが行って、叱ってあげなくちゃ」
ルビーが涙をこぼすと、ゴドラは鼻をかんだ。マハドも涙ぐんでいる。
むっ、これはイケる——と、ルビーは思った。
「お願い。わたしをユスタッシュのところまでつれていって。泊まっていた宿には見張りがいるだろうし、もうラミアンとも会えないわ。サーラもさらわれて……わたし、ひとりぼっちになってしまった。頼みにできるのは、マハドと親分さんだけよ」
ルビーが大げさに泣きふすと、ゴドラは頭をかく。
「しかしねえ、姫さまのお気持ちはわかるが、砂漠や密林は、そりゃ危険なんですよ。女子どもに耐えられるわけがない」
「わたし、ユスタッシュと会えないなら死んだほうがマシよ」
「う、うーん。姫さまにそう言われると……」
ルビーが上目づかいに両手をあわせると、ゴドラは赤くなった。
「わっかりやした。いいでしょう。男ゴドラ、姫さまにお力添えしやすよ」
「ほんと?」
何しろ、子どものころから男たちを従えるすべは知りつくしている。ルビーは胸の内でガッツポーズだ。
「親分さん。ありがとう」
「あっしも男だ。二言はございやせんぜ。そんなら、ちょうどいい。このマハドを案内人につけやしょう」
「マハドを?」
「うちはおもにブラゴールの品物を、このラクゼン港に入ってくるユイラの貿易船と商っているんですがね。もっと儲けになるのが、未開地の種族が提供する毛皮や動物の牙だ。花の種、香辛料、香木なんぞね。マハドは今まで何度も買いつけに行ってる」
「何度も? じゃあ、ルートを知ってるのね?」
「そういうこってす。もちろん、道中はうちの連中を護衛につけやすよ。まあ、ついでに貿易もさせてもらいますがね」
ガハハと笑うゴドラが頼もしい。
ようやく運がむいてきた。これでほんとに、もう一度、ユスタッシュに会えるかもしれない。




