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異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
九章 つかのまの恋

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第82話 思わぬ助け2



 ひとめ見ただけでわかった。


(人さらいだ)


 ルビーはギュッとサラエラの手をにぎりしめる。

 あたりを見まわすが、助けてくれそうな人はいない。二階の窓から若いブラゴール人が一人だけ顔をのぞかせていた。それもサッと奥へ消えていく。


「ルビー……さま」

「逃げましょう」


 ガクガクとひざをふるわせるサラエラの手をひいて、ルビーは走りだす。が、男たちはなれていた。反対側にまわりこんだ男が、ルビーの肩に手をかける。


「おいおい。おとなしくしな。傷がついちゃマズイんだよ」

「これだけの上玉だからな。逃がすもんかっての。男の子でも、ものすごい値がつくぜ」


 かこもうとするので、ルビーはつかまえている男をにらみつけ、シャンテに習った痴漢撃退法を試みた。すなわち、男の急所を思いっきり、けりあげた。ギャーッとうめいて、男はくずおれる。


「逃げるのよ!」


 ルビーはあとも見ずに路地にかけこむ。道というより、人が一人、やっと通れるせまいすきま。家と家のあいだの空間だ。細身のルビーやサラエラには有利だと思ったのだが、男たちは以外としつこい。


「待ちやがれ! くそ!」

「絶対、逃がさねぇ!」


 走りまわるうちに、サラエラがくずれた煉瓦れんがに足をとられた。ころんでしまう。


「サーラ!」


 ひきかえそうとすると、サラエラがひきとめる。


「ダメ! 逃げてください!」

「いいえ。あなたもいっしょよ」


 なぜか、サラエラは笑った。起きあがりながら、追ってくる先頭の男に自分からとびついていく。


「サーラ!」

「今のうちに、早く!」

「でも……」

「ルビーさまだけは、わたしがお守りします!」


 サラエラの目には涙が光っている。


 サラエラはずっと悔やんでいたのだ。自分がユスタッシュの本心を隠していたせいで、彼が獄舎の塔へ入れられたこと。それによって、ルビーがハリオットと強制的に結婚しなければならなくなったこと。


 ユスタッシュの出奔だって、もしかしたら防げたのかもしれない。サラエラがユスタッシュの気持ちをルビーに告げていれば。二人はもっと早くにかけおちしていたに違いない。今ここで女の子二人で人さらいに遭遇することもなかった。


「早く、逃げてください!」


 何しろ細い通りなので、誰かが立ちふさがると後続は通れない。サラエラは必死に男にすがりついて、行かせまいとした。


 今なら、ルビーだけなら逃げだせる。でも、子どものころからいっしょに育ってきた乳姉妹だ。一人娘のルビーには、ほんとの姉妹のようなもの。


「サーラ!」


 ひきかえそうとするルビーの手を、とつぜん、誰かがつかんだ。ハッとして、ルビーはかえりみた。さっき二階から見ていた若いブラゴール人だった。


「何してる。逃げるんだ」

「離して。サーラが」

「あんたも捕まる気か?」


 ルビーは手をつかまれたまま、うむを言わさずひっぱられる。力強い手はユスタッシュを思いださせる。


「ユスタッシュ。ユスタッシュ……」


 いつしか抵抗力を失い、ひきずられながら、ルビーは涙を流した。


「ここまで来りゃ、もう大丈夫だ」


 表通りへ出て、男は息を切らす。


「サーラが……サーラが……」


 ルビーは声をあげて泣いた。父よりも母よりも、つねにかたわらにあったサラエラ。親友で乳姉妹の彼女の喪失は大きかった。


「お願い。ユスタッシュ。サーラを助けて。あなたならできるでしょ?」


 頼もしい力にしたがううち、それがユスタッシュであるかのように錯覚してしまった。だが、それはユスタッシュではない。


「ごめんよ。おれにはムリだよ。あいつら、このへんで一番大きな盗賊団の連中だ。あの子が犠牲になってくれなけりゃ、あんたも助けられなかった」


 困惑しきった返事を聞いて、ルビーは顔をあげた。黒目がちの大きな瞳が自分をのぞきこんでいる。掘りの深い甘い顔立ち。小麦色の肌。まだ少年と言ったほうがいいくらい若い。まったく知らないブラゴール人だ。


「あなた、誰? どうして助けてくれたの?」

「あんた、ユスタッシュを知ってるの?」

「えっ?」

「さっき、ユスタッシュを呼んでたろ? もしかして、あんたの名前、ルビーかい?」


 かなりブロークンなユイラ語だが、ちゃんと通じる。


「なんで、あなたがわたしの名前を知ってるの?」


 ルビーが思わず警戒してあとずさると、ブラゴール人はあわてた。いかにも困ったようすが微笑ましい。身ぶり手ぶりが大きく、表情がクルクル変わる。なんとなく、憎めない。


「怖がらなくていいよ。おれ、ブラゴール人だけど、ユイラ人の友達だよ。だから、捕まりかけてるユイラ人を見て助けに行ったんだ。それに、あんたがルビーなら、おれの知ってる人かもしれない。ほら、これ」


 ふところをゴソゴソして、一枚の布をとりだす。


「二年前から、ずっと肌身離さず持ってるんだ。だいぶ汚れちまったけど、見てくれよ。ここんとこ」


 少年が指さすのは、ハンカチにほどこされた刺繍だ。


「これは、ラ・マン侯爵家の家紋よ。なぜ、あなたが持っているの?」

「もらったのさ。ユスターハンに。おいら、マハド。ユスターハンの友達さ」


 海に落ちて死んだと思われたマハドだった。

長々続いていますが、次から最終章の十章『風の旅人』です。もうしばらくおつきあいいただければ嬉しいです。

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