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異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
九章 つかのまの恋

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第81話 思わぬ助け1



 翌朝。目ざめたとき、ラミアンが言いだした。


「やはり、私一人で姫君をお守りするのは不都合と存じます。これから港へ行き、なんとかウィリスと連絡がとれないか、ようすを見てまいります。なにとぞ、姫は部屋にて内から鍵をかけ、一歩も外へ出られませぬよう」


 街なかの宿の一室だ。ルビーにとっては素朴な造りだが、たぶん、六海州の宿にしては上質なほうなのだろう。


「そのほうがいいわね。一人が買い物へ行ったとき、わたしたちがいつも安全な場所で留守番していられるとはかぎらないし」と、ルビーは室内を見る。


「船長は手わけして姫の行方を探させているはずです。ましてや、今朝方、半数はユスタッシュさまを追って旅立っておりますでしょうから、船は手薄になっているはず」

「そうね」

「決して外へ出てはなりませんよ? いいですね?」


 やけに念を押してから、ラミアンは出ていった。ときにムチャをするルビーの性格を船旅のあいだに把握はあくしているのだ。


「イヤね。信用がないんだから。食事でもして待っていましょうよ。サーラ」


 二人はラミアンが持ってきてくれたパンとスープだけの質素な食事をとると、もうやることがない。大事なものをふところに入れ、剣を帯にさげる。あとは退屈しのぎに窓から外をながめるだけだ。


 大通りに面した宿の一階。物売りや出発する旅人が大勢、路上を行きかっている。

 だが、大通りとはいえ、街路には石畳が敷かれていない。潮の香をふくんだ風に土ぼこりが舞い、なんだか馬糞ばふんみたいなものがすみずみにほっとかれている。ゴミゴミして、ユイラの美しい都とは大違いだ。


 行きかう人々もみなユイラ人ではない。長身で筋肉質で肌が浅黒く、やや面長だ。六海州人の特徴である。ヴァグラは六海州の一州なのだから、当然といえば当然なのだが。


 ものめずらしく外をながめているうちに、昼近くになった。いくらなんでも、ラミアンは遅い。


「ラミアン、遅いわね」

「きっとベリンジャー卿と連絡がつかないのでしょう」

「そうね」


 だが、そのやさき、ルビーは窓の外に不穏なものを見た。あわてて窓のよろい戸を閉める。


「姫さま?」

「たいへん。ウィリスが来たわ」

「ベリンジャー卿が? それはよろしゅうございました」

「よろしくないわ。アメルダ号の騎士たちといっしょよ。わたしたちをつれもどしに来たんだわ」


 サラエラは青くなる。


「いかがいたしましょう?」

「もちろん逃げるのよ。宿をしらみつぶしにしてるみたい。もうじき、ここにもやってくるわ」

「でも、まだ、ハイリントン卿が……」

「きっと、途中ですれ違いになってしまったのね。そうでなければ、ウィリスを説得したでしょうから。とりあえず、港へ行って、ラミアンと落ちあいましょう。ここにはいられないわ」


 細めによろい戸をひらいてみると、たったいま、ウィリスはルビーたちが泊まる宿に入ってくるところだ。これ以上グズグズしていられない。


「来たわ。サーラ。急ぎましょう」


 ルビーは食料の入った袋のひもをにぎって、よろい戸をひらいた。そこから通りへおりていく。


「なんだ。なんだ。泥棒か?」

「あっ、ちょっとお客さん、逃げるんですか宿代は?」


 通行人やら宿の人が集まり、たちまち人目を集める。二人は路地裏に逃げていくしかなかった。


「追ってこない?」

「は、はい。たぶん……」


 やっと追っ手をふりきったときには、二人は完全に迷っていた。何やらすさんだふんいきの、いかがわしい界隈かいわいだ。


「姫さま。ここはどこでしょう」

「しっ。わたしはルビアンよ。男の子なんだから。とにかく、北へ歩いていけば、港へ出るはずよ」


 見知らぬ異国で二人きり。少女たちは内心、そうとうに心細かった。今にも泣きそうだ。でも、ルビーは精一杯に強がって、サラエラの手をにぎる。


 縦横無尽じゅうおうむじんに入りくんだ細い路地。ゴミゴミならぶあばら屋からは、すえた匂いがただよう。物のくさった匂い。ドブの匂い。作りかけの料理の匂いがまざって吐きそうだ。


 スラムというものだろう。

 ルビーもユライナの救済所を慰問した経験はある。が、これほどまでにヒドイ街並みは初めてだ。


 住人も疲れきったような顔で赤ん坊に乳を飲ませている母親や、にごった目でルビーたちをにらむ老人、ギョッとするほど派手な化粧をした安っぽい服装の女など。どの視線にも、あきらかな敵意を感じる。


 歩くうちに、ルビーは体がふるえてくるのを感じた。


「あっ、ルビアンさま。ここはさっきも通った……」

「うん……」


 迷路のような通りにはばまれ、スラムからぬけだせない。途方に暮れていたときだ。


「よぉ、坊やたち。どうした?」


 強い六海州なまりで問いかけられる。いかにも、うさんくさい男が数人立っていた。

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