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異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
九章 つかのまの恋

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第80話 ルビー逃亡



 夜ふけになって、ラミアンが呼びに来た。ラミアンともう一人はウィリスだ。二人ともルビーの計画に協力してくれる騎士だ。


 ルビーはとっくに支度を終えていたものの、サラエラはまだ泣いていた。

 ロウソク一本の明かりでルビーを見たラミアンたちも驚愕きょうがくする。


「姫。そのお姿は……」

「どう? 少年みたいでしょ?」


 自慢の髪を切り、以前にちょろまかした少年水夫の服を着て、腰に剣をさげたルビーは、たしかにかぼそい手足の少年のようだ。


「あんなに美しい巻き毛をお断ちになるなんて……」


 サラエラはまだグズグズ言っている。だが、ラミアンとウィリスは好意的だ。


「いえ、もったいなくはありますが、姫が本気で行くのなら、このほうがよいでしょう。美しいユイラ人の少女は人さらいにとって喉から手が出るほど欲しいものです。少年のいでたちのほうが襲われる可能性はかなり低くなります」

「そうでしょ? サーラは髪をたばねて帽子をかぶりなさいな」

「はい。姫さま」


 サラエラも泣きやんで、言われたとおりにする。


「姫さまというのもおかしいわね。少年なんですもの。そうね。ルビアン。ルビアンがいいわ。これから、わたしのこと、ルビアンと呼んで」


 ルビーの天真爛漫てんしんらんまんさに、ラミアンたちは笑みを誘われる。


「さあ、姫——いえ、ルビアン。北空の一星号が見つかりました」

「ユスタッシュは?」


 いつまでもこんなところにいるはずがない。だが、期待しないではいられなかった。この港で会えれば、危険もなく、ユスタッシュを説得してユイラへ帰れるかもしれない。が、しかし、


「一星号の船足ならば、二十日で到着いたしますから。すでに出立なさったごようす」

「どういうルートで行ったのか話が聞ける?」

「この船をぬけだしたのち、わたくしが聞いてまいりましょう。一星号には友人もおりますれば」


 エルタルーサとユスタッシュ。両家の主人が親密なので、当然、その下の騎士たちも出会う機会が多い。たがいに知己ちきがたくさんいるのだ。


「わかったわ。そうしましょう」

「こちらの船員は明日からの捜索にそなえ、早々と寝入っております。今ならば、やすやすとぬけだせましょう」


 ルビーたちはラミアンを先頭に、ウィリスを最後尾にして船室を忍びだした。誰にも見つからず甲板へ出ると、陸まで乗っていく小舟をおろす。タラップを渡すと、見張りの目をひいてしまうからだ。


 夜風に吹かれつつ綱をつたって小舟におりる。


「姫。お手を」

「平気。わたし、こういうのは得意よ。一星号のマストにのぼって、ユスタッシュをおどろかせたくらいだもの。わたしより、サーラを助けてあげて」


 どうにか全員、小舟に乗りこみ、桟橋さんばしまでこぎつけた。


「小舟はここにつないでおけば、明日には見つかるでしょう。それとも流したほうがよいですか?」というラミアンに、

「部屋を見れば、わたしがぬけだしたことはすぐバレる。小舟はこのままでいいわ。あっ、あれが一星号ね。なんてキレイ」


 北空の一星号は夜のなか、かがり火を灯し、まるで主人の帰りを待ちわびる屋敷だ。タラップが埠頭ふとうにかけられている。エルタルーサの船から使いが行っているせいだろう。


「姫はここでお待ちください」


 しかし、その必要はなかった。

 ルビーたちは気づいてなかったが、彼らが小舟を使って岸にこぎつけるようすを、ずいぶん前から波止場の暗がりで観察している一団があったのだ。


「ご子息のごようすが何やら妙だと、ベルモット侯爵さまがご案じだったのは、こういうことか。姫をおつれして、どうするつもりか? ハイリントン卿。ベリンジャー卿」


 闇のなかから星明かりのもと、姿を現し、近づいてくる男たち。ベルモット侯爵の騎士だ。


「ひそかに姫を逃がせとのエルタルーサさまのお達しか? まったく無謀にもほどがある」


 侯爵の船アメルダ号の船長までいる。

 ラミアンとウィリスは判断がつかないようだった。しかし、ルビーの決断は早い。


(ここでつかまったら、ユイラへ帰るまで鍵つきの部屋に閉じこめられるに決まってる。そんなことのために泣く泣く髪を切ったんじゃないのよ)


 ルビーはサラエラの手をとると走りだした。

 船長たちは、よもやルビーがそこまですると考えていなかったのだろう。ふいをつかれて遅れをとる。


「姫!」


 かろうじてついてきたのはラミアンだけだ。我に返って走りだそうとする船長たちの前に、ウィリスが剣をぬいて足止めする。


「どけ! ベリンジャー!」

「ここは私に任せて、行け! ラミアン。姫を頼んだ」


 息が続くかぎり、ルビーたちは走った。知らない街の知らない通りを、めちゃくちゃに走っているうちに、追いすがる者たちをどうにかまいた。


「もうダメ。一歩も走れない」

「いえいえ。姫はご婦人とは思えぬご立派な逃げっぷりでございます」

「だって、しつこい求婚者から逃げるのはなれてるわ」


 笑いあうのもつかのま。三人の上に重い現実がのしかかる。


「三人になっちゃったわね。出だしから、ついてないわ」

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