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第7話 贈り物の意味1



 ルビーが踊りつかれて両親のもとへ帰ると、自分たちとは別の場所に大きなかたまりができていた。


「お父さま、お母さま、あれは何?」


 よこから椅子をひいてくれる青年貴族に微笑みかけつつ、ルビーはたずねる。ダンスが終わっても、ルビーのまわりには貴公子がひっついて離れない。


「若いお姉さまがたが多いみたい。わたし、お姉さまたちとも話してみたいわ」


 ルビーは同性に恨まれることが自分にとってマイナスになると、ちゃんと知っていた。それで言ってみただけなのだが。


「ユスタッシュがブラゴールの話をしてるみたいだよ」と、クレメント。


「ブラゴールの。わたしも聞いてみたい」


 しかし、とたんにハリオットが反対がする。

「そんなのはいつでも聞けるよ」

「そうそう。あなたがたは親戚なのだし」

「ねえ、ルビー。もう一度、踊りませんか?」


 周囲の男性がひきとめようとする。女性優位のユイラの社交界で、集団化した貴婦人を押しのけていくことは男性にはできない。ルビーがむこうの人たちに入っていくと、自分たちがとり残されると知っているからだ。


 だが、このまま男女でわかれているのは不自然だとルビーは考えた。こんなのは自分のデビューにはふさわしくない。後難はとりのぞいておかなければならない。そういうことが本能的にわかるバランス感覚が、ルビーのほんとのすごさだ。


 ルビーはハリオットの手をふりきって、ユスタッシュたちのほうへ歩いていった。集まっているのは十代から二十代の若い娘たちである。みんな、うっとりした目つきだ。集団のあいだから、ルビーは中心をのぞく。


「ブラゴールには野生馬も多いが、砂漠には狼がいる。とくに白い毛並みの巨大な狼がいるという伝説があって——」


 人垣のまんなかで話すユスタッシュの声が聞こえる。深みのある低い声は、とてもあたたかみがあって心地よい。物静かなふんいきによくあっていた。

 みんなが言うように変わり者のようには見えないのだが?


 ルビーはユスタッシュのとなりを陣取っているフォンナに声をかけた。こういう集団では男ではなく、その場の主権を持つ女性に声をかけるのが礼儀だ。


「わたしもよせてくださるかしら? フォンナお姉さま」


 フォンナは顔をしかめたものの、今日の主役はルビーなので断れない。


「……よろしくてよ」


 イヤイヤのように答えてくる。


「ありがとう。お姉さま。わたし、ほんと言うと、キレイなお姉さまがたがたくさんいらっしゃるので、緊張していたのよ。わたしみたいなお子さまとは違って、お姉さまたちの着こなしはそつがなくて素敵なんだもの」


 主役の登場に、ユスタッシュは沈黙して、なりゆきを見ていたが、如才ないルビーの受け答えに感心した。大人が言えば、あからさまなお世辞も、ほんとに子ども子どもした彼女が頬を染めながら言うとお世辞に聞こえない。


 気をよくしたのは、エルタルーサの妹のシャンテだ。

「こちらにいらっしゃいな。さ、お兄さまはおどきになって」


 兄のエルタルーサを立たせて、自分のとなりにルビーを招く。エルタルーサもドニイ家もユスタッシュには親戚筋だが、両家にちょくせつの関係はない。シャンテたちは今日が初見だろう。が、シャンテはすっかりルビーが気に入ったようだ。


「ユスタッシュ。続きを話してくださいな。伝説の白い狼はいたのかしら?」

「わたしも聞きたいわ」


 シャンテとルビーに頼まれて、ユスタッシュは話しだす。場はなごやかに進んでいると、ユスタッシュは思っていた。が、そうではなかったのだ。


(なによ。あの子。生意気ね。それに、お兄さまのあの目つき)


 狼の話をしながら、ユスタッシュの視線がしばしばルビーの上にとまることに、フォンナは勘づいていた。子どものころから、ずっと好きな人だ。わずかの変化も敏感に見逃がさない。


(それは、レリエルヴィが可愛らしい子だと知っていたわ。だからって、あの子は今日でやっと十歳よ。二十歳すぎた殿方が、あんなに夢中になって見つめるなんて、おかしいんじゃないの?)


 フォンナの記憶では、これまでユスタッシュが誰か一人に特別な関心を示したことはなかった。もちろん、フォンナだって、二十歳をすぎた従兄弟が一人の女性も知らないとは思っていないが、それらはただの遊びにすぎなかっただろう。恋人がいたなら、フォンナが知らないわけがない。


 ユスタッシュは年上の女にはけっこう人気がある。だが、同年代の令嬢には変人として敬遠されていた。だから、安心していたのだが……。


(お兄さまは女性に興味がないんじゃないかと思っていたわ。それならそれで、すんなり結婚してくださるだろうと考えていたのだけど。そういえば、ラ・マンの叔父さまがもらった二人の奥方も、うんと年下ね。そういう家系なのかもしれない)


 ユスタッシュが聞いたら、とんでもない勘違いだと即座に否定しただろう結論を出し、フォンナはギュッと手をにぎりしめる。


(ゆずりませんことよ。お兄さま)


 人には奇矯ききょうに思われているユスタッシュではあったが、いつも、どんなワガママを言っても最終的には折れてくれる従兄弟が、フォンナは好きだ。自分だけを特別あつかいしてくれていると思っていた。

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