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異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
九章 つかのまの恋

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第78話 ルビーはあきらめない2



 二人が抱きあうのを、苦虫をかみつぶしたようなおもてで、エルタルーサがながめている。


「きゃっ。いつのまに? エル兄さま」

「そんなことだろうと思ったよ。ルビー。君の性格は見ぬいているからね」

「止めてもムダよ。わたし、行くから」


 エルタルーサは苦笑した。


「誰が止めると言ったかい? じっさい、お似合いだよ。君とユスタッシュは。ユスタッシュみたいに気をつかいすぎる男には、君くらい気性の激しい女の子がちょうどいい」

「聞きずてならないけど、まあいいわ」

「ユスタッシュは自分を責めるのが趣味なんだ。まあ、せいぜい、君が調教してやってくれたまえ」

「任せて」


 エルタルーサは、しかし、じつのところ、最初からルビーに賭けてみる気だったようだ。


「ユスタッシュは六海州から南の密林にある古代遺跡にむかった。貴婦人がかんたんに行ける場所ではない。サイレス湖から川をくだってルーツ海へ出て、まっすぐヴァグラへ行く。そののち、レセキアを通って砂漠へ入り、密林へたどりつくまでに三月はかかるだろう。むろん、早く出発すればするほど、途中でユスタッシュに追いつく可能性が高くなる」


 エルタルーサの言葉はルビーをおじけづかせるに充分だった。砂漠や密林など、冒険者でもなければ行かないところだ。それに猛獣が出る。途中の道すじでは強盗にも出会うだろう。

 しかし、ルビーの決意は変わらない。


「わたし、行くわ」

「いい返事だ。じつはすでに、うちの船が出航できるよう手はずを整えさせている。ルビー。ユスタッシュをつれ戻せるのは君だけだ。なんとしても、やつを説得するんだ。いいね?」

「わかったわ」


 そうと決まれば、行動は早い。ルビーはサラエラと二人で、いったん実家のリ・ドニイ伯爵家へ帰る。荷物をまとめなければならないし、家族に別れも告げなければならない。


「船まで私が送ろう。薬を山ほど持っていくように。ユスタッシュが持ち帰ったキャランの毒消しも渡しておく。それから、六海州まではユイラの金貨銀貨が通用するが、そのあとは砂漠の民と未開の謎の民族だよ。宝石と砂金を持っていくように。砂金はないか? 私が用意させたから、わけてあげよう。船をおりるとき、荷物は麻袋に移し、君たちは男の服装に着替えなさい」


 馬車でルビーたちを送りながら、エルタルーサが助言する。


「ずいぶん、よくしてくださるのね。エル兄さま」

「ユスタッシュは私にとっても大事な従兄弟だからね。それに……ユスタッシュを助けるためとはいえ、一度は君たちを引き裂こうとした。これはおわびだ」

「ありがとう」

「地図はこちらで用意しておく。護衛の剣を忘れないように」

「ええ」


 リ・ドニイ邸へつくと、ルビーは大忙しだ。


「お父さま、お母さま。ユスタッシュが国を出奔してしまったの。わたし、彼を追ってヴァグラへ行くわ。船はベルモット家が出してくれるから」

「ええっ? なんだって、ルビー? ヒルダ。ルビーがとんでもないことを——」

「悪いけど、急いでるのよ。お父さま。荷物もまとめないと。ユスタッシュにもらったブローチは絶対に持っていかないといけないし。ユスタッシュをつかまえて、お婿さんにして帰ってくるわ。いいでしょ?」


 クレメントはルビーの言葉を鵜呑うのみにしたようだ。


「えっ? いつのまにユスタッシュとそんな仲に? だって、この前からクルエル家から婚礼の支度をしたいって何度も迎えが……」

「説明はあとで、エル兄さまから聞いてね。お父さま。愛してるわ」

「ルビー……これが娘を嫁に出す父の気持ちか。なるほど泣けるなぁ」


 すっかり信じこんでいるクレメントとは違い、母のヒルダは少し厳しい顔をしている。


「ルビー。ほんとに帰ってくるの?」

「もちろんよ。わたしの家はここだけよ」


 ルビーは母の首に両腕をまわし、あふれそうになる涙を抑えた。

 もしかしたら、これが家族と会う最後になるかもしれないのだ。道中の旅の保証すらない。無事にユスタッシュに出会えるかどうかもわからない。


「ユスタッシュと二人で帰ってくるわ。お父さまやお母さまのほうが年の近いお婿さまだけど、わたしのワガママをゆるしてね」


 ヒルダは泣いていた。ルビーの決心を見ぬいたのだろう。


「ルビー。大きくなったのね。わたしたちの娘」


 ヒルダが精一杯、抱きしめてくる。

 ルビーも我慢できなくなり、涙をこぼした。


「お父さま。お母さま。おじいさま。おばあさま。お元気で。ルビーは必ず帰ってきます」


 それから一刻後。

 見送る家族に手をふって、ルビーは旅立った。

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