表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
九章 つかのまの恋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/94

第77話 ルビーはあきらめない1



 ルビーがそれを知らされたのは、翌朝だった。真夜中のうちに、ユスタッシュが一人で旅立っていったのだと。


「た、たいへんです! 姫さま!」


 昨夜のダンスで疲れたルビーが寝坊していると、サラエラにゆりおこされた。


「……どうしたの? サーラ。まだ眠いわ」

「ラ・マン侯爵さまが出奔しゅっぽんなさいました!」


 ルビーは一瞬、出奔の意味を理解できなかった。ユスタッシュを表すのにふさわしくない気がしたのだ。


「ユスタッシュが出産? そんなのありえない」

「出奔でございます」

「出奔?」

「出奔でございます」

「出棺ではなく? あらやだ。縁起が悪い。出航? 出国かしら?」

「いろいろ違うけど、姫さま。なぜか、出国は正しいところに戻ってまいりましたわ」

「出奔して出国した?」

「そのようです」


 ようやく、ルビーの頭もちゃんと覚醒する。


「ユスタッシュがいなくなった? どういうことなの?」

「わたくしも今、台所のウワサを聞いたばかりで。ベルモット卿に聞かれてはいかがでしょう?」


 サラエラに言われて、ルビーは寝巻きのまま廊下へ走りだす。エルタルーサの部屋へ行くと、ベルモット家の人々やエルヴェが集まっていた。


「エル兄さま。どういうこと? ユスタッシュがいなくなったって」


 エルタルーサも暗い顔つきだ。その真剣さに、ルビーはこれが冗談などではないと察した。もしかしたら、昨日が楽しすぎたから、誰かがタチの悪いイタズラでも考えたのではないかと、内心、疑っていたのだが。


 エルタルーサはルビーを見て首をふりつつ、だが、少しだけ瞳に輝きが戻ってくる。策略をめぐらすときの宮廷人の彼の顔だ。


「こっちには君がいる。いいか? ルビー。ユスタッシュは昨夜のうちに、この屋敷を出ていった。エルヴェに爵位をゆずるために、いったん、エルニルーク城へ帰ると言っていたが、船足の速い北空の一星号だ。おそらく、すでに手続きをすませ、ルーツ海へむかうためにユライナの水門をぬけているだろう」

「なんで? だって、昨日はそんなそぶり、まったく……」


 好きな人がとつぜん、自分を置いて、別れさえ言わずに国を出ていった。そんな衝撃を受けたら、ふつうの娘なら失神してしまってもおかしくない。ルビーだって全身がわなわなふるえるのを感じた。


(違うわ。昨日のユスタッシュはどこか変だった。沈んでいたり、おかしいくらい、はしゃいだり……)


 あのときすでに、国を出る決心をしていたのだ。


「ぼくのせいだ。ぼくが……あんなこと言ったから」


 エルヴェが泣きだす。


「ぼくはただ、兄上が遠くなってくのが悲しくて。このまま、忘れられてしまうんじゃないかと……」


 兄弟のあいだで何があったのか、知る者はいなかった。が、誰もエルヴェを責めない。

 というより、ベルモット侯爵とエルタルーサはユスタッシュの行方を探す算段で忙しいし、ほかの人たちは口をきく気力もないのだ。


「とにかく、ユスタッシュを追うのだ。わが家の船を出せ」と、侯爵が言えば、

「しかし、父上。北空の一星号はユイラの造船技術の粋を集めて造られた船です。今からでは追いつけるかどうか」

「しかし、何もせぬよりはマシだろう」


 ルビーはたまらなくなって部屋をとびだした。サラエラが追ってくる。


「姫さま」

「嘘よ。嘘。ユスタッシュがわたしを残して、どこかへ行ってしまうなんて! そうよ。わたしを置いていったりしない。だって、わたしたち、運命の相手だもの」


 昨夜、愛してると言ったとき、ユスタッシュは泣きそうな顔をした。あのとき、むりにでも部屋へひっぱりこんでおくのだった。あと少し勇気がたりなかったばっかりに。


(わたしが足手まといだったの? それとも、ほんとはやっぱり、わたしがまだ子どもだと思って? 口ほどにはわたしを好きじゃなかったの?)


 いや、違う。ルビーを見るときのユスタッシュの瞳は嘘偽りなく澄んでいた。あの輝きは本物だった。


 ルビーは決意した。今は泣いてる場合じゃない。ハリオットとの結婚を約束してから、もうひきかえせない道を歩いている。ここであきらめて実家へ帰れば、クルエル公爵家の馬車が迎えに来るだけだ。


(バカね。ユスタッシュ。こんなことで、わたしがあきらめると思ってるの? わたし、とっても強いのよ?)


 ルビーは不安げに見ているサラエラにうなずきかける。


「わたし、あの人を追うわ。ユスタッシュといっしょなら、どんな苦しい旅だって平気」

「いけません! 姫さま」

「止めてもムダよ。わたしが一度決めたら、あとにはひかない性格だって知ってるでしょ? あなたや、お父さま、お母さまとお別れするのは悲しいけど」


 すると、サラエラもしばらくソワソワしたあと、ギュッと服の端をにぎって、きっぱりと断言する。


「わかりました。サーラもお供いたします。そして、命にかえても姫さまをお守りいたします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ