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異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
九章 つかのまの恋

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第72話 目覚め



 ユスタッシュが目ざめたとき、目の前にルビーがいた。

 愛しいルビー。

 ユスタッシュの天使。

 これは夢だろうか?


「あなたそっくりの天使をつかわせるなんて、神もたまには気のきいたことをしてくれる」


 ユスタッシュがそっと手を伸ばし、その頬にふれると、ルビーそっくりな天使は笑った。


「ユスタッシュ、ここは天国じゃないのよ? あなたは助かったの。ベルモット邸よ」


 ユスタッシュは戸惑いつつ周囲を見まわした。なるほど。ベルモット邸の客間だ。枕元にはルビーのほかにも、エルタルーサやエルヴェ、リードなどがいる。叔父のベルモット侯爵もだ。


 どうやら夢ではないと気づいて、あわててユスタッシュは手をひっこめる。たぶん、ものすごく赤面しているであろう。顔が熱い。


「私はいったい、どうしてここに?」


 近衛隊に捕らわれて、獄舎の塔の最上階へ押しこめられた。が、途中から意識がもうろうとしたので、最後のほうはよくおぼえていない。

 そういえば、もう我慢の限界に達して、砂の上に倒れたんじゃなかっただろうか? そのとき、誰かの声を聞いたような気が、かすかにする。


 しかし、砂上に倒れたなら、とっくに死んでいるはずだ。でも、まだ死んではいないらしい。


 エルタルーサが笑う。

「安心するといい。君が倒れたとき、私がすぐ外まで来ていたんだ。牢番を処刑室へ押し倒してやって、砂虫がそっちに群れてるあいだに君をかかえだした。それでも、十匹ばかりに刺されていたがね。キャランで買ったという毒消しを飲ませて、今日で三日めだ」

「三日……」


 おそらく、そのあいだ、生死の境をさまよったのだろう。まったく記憶がない。それでも死なずにすんだのは奇跡だ。キャランの毒消しがなければ、まちがいなく、ユスタッシュはすでにこの世にいなかった。


「ずいぶん憔悴しょうすいしていたよ。しかし、気づいてよかった。気分はどうだ?」

「悪くない」


 むしろ、最高だ。何しろ、目の前にルビーがいるのだから。とはいえ、体力が落ちているのはわかる。体がとてもだるいし、起きあがる気力が出ない。


「どうして、私は解放されたんだ?」

「まあ、その話はおいおいにしてあげよう。とにかく、君の罪は晴れた。自由の身だ」


 エルヴェがいるせいか、エルタルーサはくわしくは語らなかった。

 かわりに、ルビーが心配そうに言う。


「何か食べたほうがいいわ。かるいスープでも。眠っているあいだも、水しか口にしていないのよ」


 それにしても、なぜここにルビーがいるのだろうか?

 ユスタッシュが死にかけていたから、エルタルーサが呼んだのだろうか? だからと言って、ルビーが招きに応じてくれるなんて、とんでもなく意外だが。


(おれは、うわごとでルビーを呼ばなかっただろうか?)


 意識があるときなら自分を抑えられる。が、意識がないあいだまではコントロールできない。不安だが、でも、それもどうでもいいような心地になる。

 今ここにルビーがいてくれる。ユスタッシュを優しい眼差しで見守ってくれる。それだけでいい。


「なんだか、また眠くなった」

「きっと安心したからよ。食事が来るまで寝てたらいいわ」


 ユスタッシュはルビーに笑いかけて目を閉じる。

 寝息を聞いて、エルタルーサが、みなにうながす。


「さあ、ここはルビーに任せて、我々は出ていこう。ただのおジャマ虫だろうから」

「う、うん」


 エルヴェが兄とルビーのようすをちらりと見て、エルタルーサにしたがう。シャンテや侯爵もぞろぞろと出ていって、室内にはルビーとユスタッシュの二人きりになった。


「ユスタッシュ」


 今度はルビーがユスタッシュの頬を、そっとなでる。

 うわごとで何度もルビーを呼んでいた。かすかに目をあけたとき、ルビーを見て微笑んだ。とても幸せそうに。


(そうなのね? あなたはほんとに、わたしを愛してくれてるのね)


 熱に浮かされて、いつもは隠している本心が透けてみえた。


(わたしもあなたが好きよ。ユスタッシュ。クルエルの叔父さまがアレコレ言ってくるかもしれないけど、いくら気のいいユスタッシュでも、叔父さまがあなたをおとしいれた張本人だと知れば、言いなりにはならないわ。わたしたち、結婚するの。もう誰にもジャマさせない)


 ルビーは眠るユスタッシュの手を両手で包みこむ。

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