第68話 アンリエットの提案
クルエル公爵家の小ホール。
エルニルーク城から帰ってきたエルタルーサが、証拠の文書をさしだす。相対しているのはクルエル公爵その人だ。
ルビーを仲介にして、ようやく敵味方が手をとりあう流れになった。
「これが証拠品です。万一のために私の手元にも半数残してあるが、これだけあれば充分でしょう? クルエル公爵閣下」
「こちらはフォンナの馬車を襲った悪漢を捕らえてある。レリエルヴィとの約束だ。これから陛下に謁見願おう」
さすがはやり手の公爵だ。話が早い。決断した件に関してはすこぶる手際がよい。
だが、高速船の北空の一星号とはいえ、往復の距離もあれば、証文を探すのにも時間をついやした。ユスタッシュが連行されてから、すでに丸一日がすぎている。ユスタッシュの身の上が案じられるところだ。
公爵は文書を受けとると、そのままホールを出ていった。すでに馬車の用意もされている。
「私も行くよ。ユスタッシュが自分で歩ける状態だとはかぎらない」
エルタルーサも追っていこうとする。が、じきに立ちどまった。
その場にいるルビーをふりかえる。
「ルビー。ユスタッシュに伝言があるかい?」
ルビーは黙って首をふった。
「それより、急いでユスタッシュを助けて」
「わかった」
エルタルーサもかけ足で去る。
ホールに残ったのは、ルビーとサラエラだ。
しかも彼女たちのまわりではお針子がせっせとドレスの型をとっている。花嫁衣装をあつらえるためだ。ハリオットが今月中には式をあげるというので、公爵家はその支度で、にわかに大わらわである。
ホールの外は衛兵が見張っている。ていのいい人質だ。
ホールの窓から表門をくぐる馬車が二台出ていくのを、ルビーは見送る。
(これでいいんだわ。これで、ユスタッシュが助かる。どうか、ぶじでいて。あなたの青い瞳が失われませんように)
祈るルビーに、サラエラが悲しげな視線をなげてくる。
「姫さま……」
ルビーはしいて笑顔を作った。
「きっと、まだ大丈夫よ。たった一日しかたってないもの。きっとユスタッシュは無事よ」
「すみません。姫さま」
「まあ、どうして?」
「それは……」
「そうだわ。わたしがハリーと結婚して、ユスタッシュがフォンナ姉さまと結婚したら、わたしたち、兄妹になってしまうのね。なんだか変な気持ち」
ムリに笑うルビーだが、ほんとは泣きたい気分だ。
「部屋に帰って休むわ」
これから婚礼までこの屋敷に住むのだ。当然、ルビーにも自室があてがわれていた。
そこにこもっているあいだは、少なくとも、お針子も衛兵もついてこない。
ルビーはサラエラだけをつれて、自分の部屋に戻った。
「お茶でも飲みますか? 姫さま。それなら、わたくし、支度してまいりますが」
「今はいいわ。ベッドで少し休むから」
いつものルビーらしくなく気落ちしたふうで寝台に歩いていく。布団のなかで泣くつもりなのだ。
だが、その前に外から扉がたたかれた。
「まあ、誰かしら?」
「きっと、お針子でしょう。花嫁衣装について確認に来たのですわ」
サラエラが戸口へ応対に行く。しばらくして、サラエラは帰ってきた。うしろにアンリエットをつれている。
「ルビー。よろしいかしら? あなたにお話があるの」
ルビーは理解に困った。クルエル家の人たちはハリオット以外、それほど遊んだ記憶がない。アンリエットが個人的にルビーに話すことなどありそうもないのだが……。




