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異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
八章 古代の処刑場

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第65話 少女二人



 エルタルーサが宣言する。


「これから私は大急ぎ、エルニルーク城へ行き、ル・ギラン男爵の悪行の証を手に入れる。ユスタッシュは慎重だ。証拠を何一つ残さず処分するとは思えない。おそらく、男爵が書きかえた書類を無効印をした上でとってあるだろう。往復に丸一日はかかるが、ルビー。君は私が帰ってくるまでに、クルエル公爵を説得してくれたまえ」


 そう言い残して、エルタルーサは出ていった。途方に暮れていたリードをともない、北空の一星号へむかったのだ。


 ルビーも追うようにベルモット家をあとにした。乗ってきた馬車で、今度はラ・クルエル邸をめざす。


(神様もイジワルね。やっと、ユスタッシュを好きだとわかったのに。やっと、あの人もわたしを好きだと知ったのに。わたしたち、ほんとはずっと相思相愛だったのね)


 もっと喜びにむせび泣いてもいいはずの事実。でも、実った瞬間にその恋を断念しなければならない。そうでなければ、愛する人は死ぬかもしれない。死なないまでも、五体満足では戻ってこれないかもしれない。


 もしも、あの深い海のような青い瞳が失われたら?

 それとも、ルビーをかるがると抱きあげてくれた腕がなくなってしまったら?

 いや、もっとヒドイ状態だって考えられる。もはや誰なのかわからない一塊いっかいの肉になりはてていたら……?


 そんなこと、あってはならない。そうなる前に必ず助けだすのだ。

 ルビーの決心はかたい。だからといって、悲しくないわけではなかった。


(そうよ。わたし、初めて会ったときから好きだったわ。わたしの人魚の王。素敵な笑顔を隠していたあなた。わたしだけに笑いかけてくれた。湖礼祭では、そのたくましい腕でマストからおろしてくれた。ガラスの底の小舟に乗って、二人でただよった。あれは星祭だったかしら?)


 今なら、わかる。ユスタッシュがルビーを侮辱したのは、ほかに婚約者がいたからだ。わざと、ルビーに嫌われようとした。ルビーが別の人を好きになるように。


(あなた、バカよ。ユスタッシュ。そんなの優しすぎるわ。言ってくれないとわからないじゃない。わたし、子どもだったんだもの)


 何より悔しいのは、一度は求婚されていたという事実だ。あのとき、もしも……もしもだが、ルビーがときめきの正体に気づいてさえいれば、プロポーズを反故ほごになどしなかった。年齢差はあるけど、二人はあっさり結婚して、めでたしめでたしですんでいた。それが悔しい。


(どうして、あのとき、わたしは子どもだったの? 愚かだったわたし。幼すぎた。今なら絶対に手放しはしないのに)


 優しすぎるあなたと、幼すぎたわたし。

 今なら、結ばれるはずなのに、それはゆるされないことなのね。


 涙がするりとすべりおちる。

 泣きふすルビーを、胸を痛めながら、サラエラが見つめていた。


(申しわけありません。姫さま。わたしがもっと早く告げていれば、こうはならなかったかも……)


 サラエラは気づいていた。先日、ユスタッシュに助けられたとき、もしかしたら、彼がルビーを愛しているのではないかと。

 ルビーの体面を気づかう優しさを持つ人が、あえて侮蔑的な態度をとるのは、そこにモラル以上の深い愛情があるのではないかと。


 侯爵さまは姫さまを好いていらっしゃる——

 女の直感だ。

 でも、それをルビーには教えなかった。嫉妬したからだ。


 ルビーを知る貴公子はみんな、ルビーを好きになる。それが誇らしかったはずだ。でも、ユスタッシュもそうなのだと思うと、やるせない心地になった。


(わたしは誰にも愛されない。誰の目にも透明な、いてもいなくてもわからないもの。わたしの愛した人はこれからさきずっと、一人残らず姫さまを好きになる……)


 だから、言えなかった。それどころか、ハリオットの魔の手から、ユスタッシュに助けてもらった事実さえ告げなかったのだ。


 でも、あのとき、サラエラが打ちあけてさえいれば、何かが変わっていたかもしれない。ユスタッシュはルビーとかけ落ちして、馬術大会には出なかった可能性だってある。


 そうしておけばよかったと、今になって悔やんでも遅すぎる。

 ルビーがイヤな結婚をする必要もなかったし、ユスタッシュが無実の罪におとしいれられもしなかった。


(わたしさえ、あのとき……)


 ルビーの押し殺した泣き声が、サラエラの良心につき刺さる。

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