第62話 皇帝陛下の使い
翌朝早くに、ユスタッシュはベルモット邸から出かける支度をしていた。
「ほんとにクルエル公爵と話しあうつもりか?」と、エルタルーサは賛成しかねるようすだ。
「ムダだと思うがね」
「フォクサーヌは一命をとりとめたが、まだ後遺症が出るかどうかもわからない。私はハリオットにわびてもらいたいのだ」
「君は優しすぎる。君がそうだからといって、相手もそうだとはかぎらない。土台、地方領主の君に、宮廷貴族ってやつは理解できない」
「大臣の書記をしている君は立派な宮廷貴族だろう? エル」
「だから言ってるんだ」
ユスタッシュは笑ったが、エルタルーサは真剣だ。
「君みたいな純粋な男は、老獪な宮廷貴族にかかれば赤子同然だ。クルエル公爵ほどの切れ者ならば、なおさら」
「伯父上は悪いかたではない」
「彼の家族むけの顔しか知らない者は、みな、そう言う。私なら今すぐ真実をル・スター伯爵に話し、皇帝陛下に訴えでるよう進言するね。いや、もう遅すぎるかもしれないが。昨夜すぐでなければならなかったんだ」
「そうだろうか?」
ユスタッシュはエルタルーサの杞憂だと思っていた。そこまで心配する必要はないと。
だが、事実はエルタルーサのほうが正しかったのだ。まもなく、ユスタッシュはそれを思い知る。それも、最悪の形で。
二人が話しているところへ、表門から番兵が走ってきた。
「ラ・マン侯爵閣下に迎えが来ております」
番兵の声は少しふるえている。
「私に? 誰が?」
「皇帝陛下の近衛隊にございます」
皇帝陛下からの使い——
それがどんな用件なのか、一瞬で理解できた。




