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異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
七章 陰謀は生贄を求める

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第56話 交錯する想い



 ユスタッシュの手から矢が離れ、的のどまんなかを射抜く。弓駆けでも、ユスタッシュの技は他を圧倒している。


「三本めも的中か。まさに神技だな。そうは思わないか? レリエルヴィ」


 貴賓席にて、サリウス帝に問われても、ルビーは答えられない。すっかりユスタッシュに見惚れていたからだ。


 サリウス帝はとくにルビーに惹かれているわけではない。彼はその点、一途なので、少年期からずっと好きだったイルーシャ皇女以外は女ですらない。

 だが、親戚のあいだでもとくに美しいと評判のルビーが、目の前であきらかに熱っぽい視線を一人の男にそそいでいる。しかもなみいる女官たちも全員だ。

 また、男の目から見ても、ユスタッシュの技量は素晴らしかった。それが、ゆるせない。


 子どものころから、同い年のエニテイ皇太子と、いつもくらべられていた。太陽のように輝く少年皇子が、彼は大嫌いだった。だから、そうした輝きを持つ人物は、みな好かない。


 彼は中庸な者には寛大になれる。人より少しだけ秀でている者は重用する。が、とくにきわだって優秀な者には嫉妬する。

 ユイラの新皇帝はそういう男だった。


 場内で、ユスタッシュに熱い視線を送る者はほかにもあった。婚約者のフォンナである。貴賓席に近い身分の高い貴族のために用意された席で、家族とともに見守っている。

 だが、それにしても、まわりの令嬢たちがウルサイ。


「ほら、またユスタッシュよ」

皆中かいちゅうかしら?」

「息がとまりそうだわ」

「素敵ね」


 などと、観客席のいたるところから聞こえてくる。多くの若い娘たちがユスタッシュを見つめていた。


(なぁに? 図々しい。今までは無愛想だとか変人だとか、お兄さまのこと、さんざん悪く言ってたくせに。今さら、よこどりしようなんて、ゆるしませんからね)


 しかし、自分の婚約者が注目されるのは悪い気分ではなかった。

 これまで二度もブラゴールへ行って、野蛮だと言っていた令嬢たちが、たくましいフィアンセを持って羨ましいと口をそろえて言う。彼女たちの羨望のまなざしをあびるときほど誇らしいことはない。


 そもそも、ユスタッシュは端正なマスクと青い瞳で、若い娘のあいだではひそかな人気だったのだ。ただあまりに無愛想なのと、変わり者というウワサのせいで話しかけるのが恐ろしく、自由にワガママを言えるフォンナをやっかんでいたのだ。


 フォンナは女学生時代から、これを理解していた。寮のパーティーにはイヤがるユスタッシュをひっぱりだし、パートナーとして見せびらかした。ライバルのアニーネやリレンダたちが悔し涙を浮かべたときには鼻が高かった。


(今さら誰にも渡しませんからね。そうよ。誰にも)


 フォンナは貴賓席をにらみつける。そこは女の勘だ。ユスタッシュを見るルビーの態度がこれまでと違うと、フォンナは目ざとく気づいていた。


 わっとまた歓声があがる。

 ユスタッシュが四本めをあてたのだ。

 純白の衣装に銀の房。銀の帯。白馬にまたがるユスタッシュは颯爽さっそうとして、物語の王子様のようだ。

 満場の視線を受けつつ、ユスタッシュが五回めのスタートを切った。白馬が電光のようにかけぬけ、ユスタッシュの腕がキリキリと弓をしぼる。馬が的の前を通りすぎる瞬間、矢が放たれた。ビン、と鳴る弦の音さえ聞こえそうなほど、会場全体が息づまる静寂に包まれる。


 やがて、まっすぐに飛んだ矢は的の中央につきささった。


 拍手と歓声が会場をゆるがし、フォンナも大喜びする。


「見まして? お父さま。素晴らしいわ。さすが、わたしのお兄さま。これで決勝確定だわ」


 はしゃぐフォンナとは裏腹に、不機嫌になる人物が同じボックス内にいた。ハリオットだ。


(何が『わたしのお兄さま』だよ。毛嫌いされて、ろくに会ってももらえないくせに)


 ハリオットは自分によく似た末の姉が嫌いだった。だから、姉の恋路がどうなろうと知ったことではない。だが、ユスタッシュにルビーをあきらめさせるためには、姉と結婚してもらわなければならないし、といって、彼を義兄と呼ぶのはどうにもイヤだ。義兄になれば、ますますくらべられる。


 今だって、自分も勝ち残っているのに、それを誰も褒めようとしない。話題にすらならない。やるせない気分だ。


(ユスタッシュのせいで、いつも僕はのけものにされる)


 ハリオットは誰にも告げずにボックス席を立った。順番がまもなくなのだ。


(見てろ。必ず、おまえを倒してやるからな)


 観客席から競技場をつなぐ薄暗いトンネルを通るとき、ハリオットのおもてには笑みが浮かんでいた。ふところに手を入れ、懐中にあるものをにぎりしめる。今朝から何度もたしかめてきた。


 それは小さなガラス瓶だ。今朝、ようやく、これが手に入った。

 これで、ユスタッシュを殺せる。

 この毒を試合で使うやりにぬりつけるのだ。


 ハリオットの意気込みは試合にも発揮された。弓駆けの上位者に見事、選ばれ、槍駆けでは二人に勝った。ついに第三試合にて、ユスタッシュとの対戦となる。


 毒をぬった槍を手に、ハリオットは会場へおもむく。

 反対側のゲートから、ユスタッシュが現れた。

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