第51話 ハリオットの呼びだし1
サラエラがかけていったあと、ルビーはヒルダと話していた。
「サラエラったら、ハリーが好きなのかしら?」
「あら、どうして?」
「誠実な殿方に弱いみたいよ。しかも、サーラは世話好きだから、つくしがいのある人がいいの。いっしょうけんめいやってるのに、なぜかうまくいかない人を見ると、ほっておけなくなるらしいわ」
「なんだか、どこかで聞いたような人柄ね?」
「えっ? そう?」
「うーん。誰だったかしら? わりと近くにいた気がするんだけど。思いだせないわ」
「お父さまじゃないわよね?」
「違うわ。もっとカッコイイ。なんというのかしらね。美青年だけど残念な感じ。ああ、誰だった? こう、喉元まで出かかってるんだけど」
「ふうん?」
なんて、二人が話しているとは思いもしないサラエラは、手紙に書かれていた呼びだし場所へ走っていった。
あずまやと闘技場入口へのあいだの木立で、ハリオットは待っていた。近くに泉はあるものの、木々の奥まで入ったあたりなので、あまり人影がない。
「お待たせしました」
「なんだ。君か。ルビーはどうしたの?」
サラエラはルビーの信奉者たちのこうした態度にはなれていた。彼らにとって、サラエラは空気なのだ。
「姫さまはお会いしたくないそうです」
すると、ハリオットはチッと舌打ちをついた。たしかに、こういう仕草を見ると、ルビーの言うとおり計算ずくなのかもしれないと思える。真摯に毎日、謝罪の手紙を書いてきて、同情していただけに、サラエラはガッカリした。
「わかった。また手紙を書く。ルビーがゆるしてくれるまで、何度でも書くから」
「お伝えします」
サラエラを残して、サッサと立ち去ろうとしたハリオットは、ふと何を思ったのか立ちどまる。
「サラエラだったかな? 君は僕をどう思う?」
さっきまではなかった妙に優しい笑みまで浮かべている。
「とおっしゃいますと?」
「僕がルビーの夫になることに、君は賛成かい?」
サラエラは答えに窮した。姫さまにその気はないようですとは言えないし、こればっかりはいかに仲がよくても、侍女風情がどうこう言える立場ではない。
そのようすを見て、ハリオットは目を光らせた。
「まさか、ルビーには好きな男がいるとか?」
「いえ、それはないだろうと……」
「隠さなくてもいいんだ。僕だって、ルビーにかぎってと思うがね」と、唇をかみしめる。「気丈に見えても女の子だ。ルビーはあの男が好きなんじゃないか?」
サラエラは困りはてた。ハリオットが何を言いたいのか、さっぱりわからない。
「何をおっしゃっておられますのです?」
「だから、僕に隠す必要はないよ。知ってるんだ。あの湖礼祭のとき、ユスタッシュに——だから好きになったなんていうんじゃないだろうね? 奪われたから惹かれたなんて?」
やっぱり、何を言っているのかわからない。長らく考えて、ようやく、サラエラはハリオットの盛大な勘違いに気づいた。
「何をおっしゃっているのですか! 姫さまに瑕なんてございません。たとえクルエル家のご従兄弟さまでも、姫さまを侮辱なさってはいけません」
「そりゃ、そう言うよね。僕だって、未来の花嫁の醜聞は望まない。何もなかったことにしておくのが一番さ。表むきはね。僕は……気にしない」
と言いつつ、かなり気にしている顔だ。憎悪と嫉妬で人を呪い殺せる目つきである。
「ですから、ほんとに——」
「それはもういい!」
ハリオットはとつぜん、サラエラの口を手でふさいだ。
「もういいんだ。あのときはいっそ、ルビーを殺して僕も死のうとすら考えたけど。ルビーは幸せになる権利がある。僕が忘れさせてあげる。あの男は決してゆるさないが」
言いながら、ハリオットはサラエラをイヤな目つきで見おろした。これから神殿にささげる生贄の羊を見る目だ。冷酷で恐ろしい。




