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異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
六章 ユスタッシュの帰還

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第49話 危険な近道



 フォンナがエルニルーク城に到着したとき、わずかの差でユスタッシュは出ていったばかりだった。


「たったいまですって? どこへ行ったの?」

「行くさきは聞いておりません。方々をまわるとおっしゃられて」

「いつ帰るの?」

「それも、あいにく」

「どこへ行って、いつ帰ってくるかわからないですって? おまえ、それでちゃんとした家来なの? ヒドイわ。お兄さまったら、わたしにあいさつもせずに旅に出るなんて。わたしたちの結婚はどうなったのよ?」


 エランは主人をかばって、ただひたすら謝罪と弁明をつらねる。そのうち、フォンナのほうがあきらめた。


「いいわよ。わたくし、しばらく、ここで待ちますから」

「しばらくというと?」

「お兄さまがお帰りになるまでよ!」


 だが、ひと月たっても、ふた月すぎても、ユスタッシュは帰らなかった。さすがに退屈して、フォンナは皇都の生家へ帰った。


 ユライナは国喪こくそうのため、どの店も門戸を閉ざし、大通りに人気ひとけはない。いつもは広場を埋めつくしている大道芸人や露店も姿を消し、墓前にそなえる花売りがチラホラ見えるのみ。


 それでもやはり都は都で、ガラバ帝の偉業をたたえるお芝居が劇場で夜遅くまでおこなわれ、貴族や富豪の家にはレクイエムを奏でる楽士が招かれた。

 女たちは尼僧スタイルと称する白と紺色の服装で、おしゃれを楽しんだ。


 ユライナへ帰ったフォンナもさっそく観劇だ。


「すっかり遅くなってしまったわ。真っ暗よ」

「最後まで見ると言ったのは、フォンナ。あなたじゃない」

「だって、ひさしぶりのお芝居だったんですもの」


 最終幕がひけて、帰っていく人々の混雑から、フォンナは姉姫たちとともに迎えの馬車へ乗りこむ。


「それにやっぱり、グランソワールはハンサムよね。役者のなかでは一番だわ」

「フォンナ。わたしたちは役者を見に来ているのではないのよ。陛下をしのぶためですからね」

「お姉さまったら、かたくるしいんだから」


 長女のアンリエットにたしなめられても、フォンナはまったく意に介していない。


 アンリエットはクルエル公爵の娘のなかでは一番の美人だ。髪は黒いがユスタッシュに似ている。いや、ユスタッシュよりも、彼の母ユミオンに似ている。


 フォンナたちが乗りこんでも、馬車はなかなか走らない。観劇後はいつもこうだ。近くに貴族の屋敷が多いので混むのである。


「サワンや。だいぶ混んでいるの?」


 馬車の小窓をあけて、アンリエットが御者にたずねる。


「はい。姫さま。このぶんでは、しばらく待つ必要がございましょう」

「わかりました」


 ユイラの治安は世界一とはいえ、夜ともなれば、まったく危険がないわけではない。街灯の明るい安全な大通りは皆が通るので、なおさらに混雑する。


 すると、今度は反対側の窓をあけて、フォンナが命じる。


「よこ道に入っておしまいなさい。そのほうが早いわ」

「しかし……」

「わたしの言うことが聞けないの?」


 フォンナの声はつい大きくなる。

 歩道を歩いていた酔っぱらいが、その声にひかれてふりかえった。街灯に照らされたフォンナのおもてを見て、ハッと立ちどまる。さらには、あわてて街灯から遠のき、姿を隠す。


 フォンナは気づきもしなかった。いや、気づいても、それが誰かなんてわからなかっただろう。彼を注意して見たこともないし、ずいぶん落ちぶれていたから。


 それは、レニードだ。ユスタッシュに追放されて、行くあてもなくさまようセブリナの兄だ。


 街灯のない真っ暗な脇道に入っていく公爵家の馬車を、レニードはじっと見送った。

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