第45話 変わらぬ想い
エルタルーサの部屋に入っても、つかのま、ユスタッシュはぼんやりしていた。
帰国直後にふいうちでアレはひどい。心がまえがまったくできていなかった。顔がニヤけていたんじゃないだろうかと心配になる。
(ルビー……まさか、ここで君に会うなんて)
かけよって抱きしめてしまいそうになるのを抑えるのがたいへんだった。なんと答えたのか、自分でもよくわからない。冷たい男の仮面がやぶれてなければいいのだが。
想いは変わらない。やはり、どうにもしようがないほどにルビーが愛しい。二年見ないうちに、あんなに大人びて、ますます美しくなった。もう子どもとは言えない。若い娘だ。今年の誕生日には十四になる。ユイラでは結婚してもおかしくない年ごろだ。もちろん、ずいぶん早婚ではあるが。
誰にも渡したくない。
愛しいのはあの子だけ。
(おれはなんて罪深い男だ。父を裏切り、無関係の少年を死なせておきながら、今からでも遅くない。愛しい少女をとりもどしに行くんだと考えている)
自嘲するユスタッシュを、エルタルーサが呼ぶ。
「ユスタッシュ。さあ、話してくれ。どういうわけで、任期の途中でブラゴールを離れたのだね?」
ユスタッシュは頭をふって、物思いをふりはらう。今はそれどころではない。
「君にだけ話そう。エルヴェが君に手紙をたくしたね? じつはその手紙にとんでもないことが記されていたんだ」
ユスタッシュはここにいたる事情を話した。すべて聞いたあと、エルタルーサは「うーん」とうなった。
「なるほどね。たしかに、そうだろうとも。このごろのラ・マン侯爵家は異常だった。湖礼祭もしないくらいだ」
「マハドがかばってくれなければ、私は船上で死んでいた。その後の記憶が朝までないのは、睡魔に負けて寝てしまったらしい。やっと昼すぎてから探したが、もうマハドは見つからなかった。マハドも、刺客も」
「潮流に流されたのだろうな」
ヴァルシアはサメに食われたのだろうと言った。もし遺体を見つけても無惨に食いあらされているだろうと。変わりはてたマハドを見たくなかった。見なければ、あるいはどこかで生きているかもしれないと希望を持てる。
それで捜索を打ちきって帰国したのだ。
帰りの船のなかで、リードはずいぶん打ちひしがれていたものだが。
「私が悪いのです。閣下のために命をすてよと言いました。それできっと、マハドは……」
「いや、悪いのは私だ。私が彼をユイラへなどつれてこなければ、私の運命にまきこみはしなかったのだ」
今さら悔やんでも遅いのだ。マハドはもう帰ってこない。
唇をかんでいると、エルタルーサがたずねてきた。
「それで、いつ君の城へ帰るのだ? 君の一年祭だとか言っていたね」
「それにあわせて帰城する。前夜の真夜中に闇にまぎれて乗りこもう。そのときならば、伯父もエルニルーク城に来ているはずだ。近ごろは派手に遊び歩いているらしいが、さすがにエルヴェの手前があるだろう」
エルタルーサはうなずく。
「ル・ギラン男爵のウワサは聞いていた。あまりに度がすぎるので変に思っていたんだ。そんなことになっていたとは」
「ふつうなら、ひと月かかる船旅を半分でこなしてきた。万一、レリーナ港で一星号を見張っていた者が知らせに走ったとしても、私たちより早く皇都へはつかない。今なら、やつは油断している。おれがまだブラゴールにいると思いこんで」
「北空の一星号はどうしたのだ?」
「旗をおろして隠してある。二日後にここを発つ」
言葉どおり、ユスタッシュは翌々日にベルモット邸を出発した。
領内の自分の城へ、闇にまぎれて忍びこんだ。




