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異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
五章 死の運命

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第41話 剣か、宝石か?



 ユスタッシュは袋を見おろし、わざとなかの人物に聞こえるように言う。


「このような虫はおよぼす害も大きい。退治するがよい」

「御意」


 すると、死にたくない男は、なかからけんめいにわめき声をあげる。


「助けてくれ! 殺さないでくれ!」

「人の言葉を話すとは、めずらしい虫だな。もっといろいろ話すかもしれないな。どのようなわけで、積荷にまぎれる虫の境涯に堕ちたのかなど?」

「……」


 さすがに返事はない。そうかんたんには口を割らないという意思か。

 そこで、ユスタッシュはまわりの騎士たちに声をかけた。


「どうだ? これほど大きな虫の血は何色か、私と賭けないか? 緑か、黄色か。はたまた、人と同じ赤なのか? それとも、剣をよごしたくないから、サメの集まる沖まで出て、袋ごとなげこむか?」

「いえ。閣下。やはり剣でひとつきが手っ取り早いかと」

「では、何色だ? 私は赤いと思う」

「私もです」

「私も」


 ユスタッシュは笑う。

「それでは賭けにならないな。ついてみるか」


 剣をふりあげる気配を感じたのか、ふたたび悲鳴が響く。


「頼まれたんだよ! あんたを殺したら金貨五百枚やるからって」

「誰に?」

「……」

「剣のさきでつついてみるか。血の色くらいはわかる」

「や、やめ——ル・ギラン男爵だよ! あんたの伯父さんだ!」

「その言葉、本人の前で言えるか?」

「言う。だから、命は助けてくれ!」

「よかろう。召しとらえよ」


 ユスタッシュの命で騎士たちが麻袋のひもをとき、なかから出てきた男をとらえた。

 ユスタッシュは船荷屋の店主の前に戻り、わざとらしくつぶやく。


「金貨五百枚とは、ラ・マン侯爵の命も安く見られたものだな。そうは思わぬか?」


 店主は蒼白になってこわばっている。


「わたくしめにはわかりませぬ」

「そなたの店の荷から刺客が現れたのだぞ? おまえの指図だろう?」

「いえ。わたくしは、何も……」


 やはり、しぶとい。

 国境ぞいの街で荒くれ者の船乗りを相手にしているだけはある。実直そうな顔をしてはいるが、じつはけっこう肝はすわっているだろう。


「私はつねづね思うのだ。おまえのような男はへたな脅しには屈しない。言いぬけもうまい。そして今、おまえはこう考えている。『あの荷は市場の者が持ってきたときのまま、手をつけずに運んできた。だから、自分は何も知らないと言おう』と。最後の手段は『やらなければ殺すと脅されたのです』とでも言うつもりだろう?」

「めっそうもございません……」

「だから、私は考えるのだ。おまえに選ばせてやろう」


 ユスタッシュは店主の鼻さきに左手をさしだす。人さし指には大粒の星輝石の指輪が輝いている。家宝のブローチほどではないものの、かなりの上物だ。


「この星輝石はおよそ金貨五百枚の価値がある。素直にしゃべれば、くれてやる。おまえなら、どちらの手をとる?」


 指輪をつきつけるとともに、右手の剣をひとふりする。

 剣か、宝石か?

 寝返るか、それがイヤならひと思いに殺されるか、選べというのだ。


 店主は迷わず宝石の手をとった。


「ラ・マン侯爵さまの船が港についたら、積荷に男を忍ばせてほしいと金をつまれまして。わたくしは商人ですので、金を出されれば否とは言えません。また、男はただの密航者であろうと考えましたのです。まさか、閣下を暗殺せんとするやからとは思いもよりませなんだ。どうぞ、ひらにおゆるしを」

「よろしい。正直な男だ」


 ユスタッシュは指輪をぬいて店主に渡した。店主は縛られたまま、器用に指にはめている。


「立派な石でございますなぁ。さすがはラ・マン侯爵さま。縄をといてはいただけませぬので?」

「残念ながら、そのまま、私の城へ来てもらう。用がすめば帰してやる。食事も出してやろう。だが、聞いておくが、食料に毒など仕込んではいまいな? そなたも食すのだから、今のうちに言っておいたほうがいいぞ」

「恐れながら、わたくしも商人のはしくれ。商売物に毒など入れません。あくまで、頼まれたから男を積荷に隠しただけにございまする」

「よろしい」


 うなずいて、ユスタッシュはヴァルシアをかえりみる。


「店主と刺客を個別の部屋に監禁してくれ。店主は両手だけ縛ってあればいいだろう」

「かしこまりました」

「意外にあっけなくすんだな。薬も飲んで準備していたのに」

「危険がないにこしたことはございませんよ」

「たしかに」


 もっと難航すると思った捕物が思いのほかラクにすんだので、ユスタッシュは安心していた。

 さわぎにまぎれて、人夫が一人、舷側げんそくづたいに侵入したことなど、誰も気づきはしなかった。

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