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異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
五章 死の運命

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第40話 怪しい積荷



 翌日も快晴。

 ユイラの海は冬とは思えないほどおだやかだ。透明な波のあいだを色あざやかな魚が泳いでいく。


「ユスタッシュさま。荷運び人夫が食料を運んでまいりました」


 リードに起こされ、ユスタッシュは早朝の甲板に出た。


「ひさびさにファートライトになった夢を見た。寝る前に二章も読んだせいらしい」

「旦那さまなら、さぞ立派なファートライトにおなりです」

「喜ばせるな」


 子どもみたいに笑うユスタッシュだが、船長の顔を見て気をひきしめる。


「積荷が届いたらしいな」

「運び入れさせましょう」

「うむ」


 埠頭ふとうにタラップが渡される。船荷をあつかう店主がまっさきに乗りこんできた。うるさくあいさつするのには、ユスタッシュは生返事だ。


「酒樽から奥へつめよ」


 人夫たちが積荷を運び入れる。それを指図する船長も、警護の騎士たちも緊張している。もちろん、ユスタッシュもだ。


 この港で何かが起こることはわかっていた。エルヴェの手紙で前もって知れたからだ。だからこそ、ふだんはよらない港へ、わざわざよってやったのだ。


「ご注文のとおり、ヴィナ酒正十樽。水、二十樽。牛乳半十樽。パン三百。干し肉二百。チーズ百。野菜に青豆百五十。卵……」


 こまごまと店主が述べる順に、樽や麻袋が運びこまれる。樽は船倉へ、麻袋は甲板にならべられた。おかげで、だんだん甲板がいっぱいになってくる。


「よろしいので? これでは足のふみ場がございませんです。まだ塩と砂糖がまいりますが」という店主にも、

「かまわん」と、ひとことだけ船長が答える。


 やがて、ようやくすべての荷が船上に移された。


「これですべてでございます」

「うむ。支払いをする。人夫をさがらせよ」


 人夫たちが全員、波止場へおりたとたん、タラップがあげられ、船はゆるやかに港を離れる。岸では人夫がさわぎだす。


「あの船、うちの旦那を乗せたまま行っちまったぜ?」

「ふみたおそうってのかな?」

「そんなら旦那も置いてくだろうよ」

「それもそうか」

「じゃあ、なんなんだ?」


 人夫たちもおどろいていたが、もっともあわてふためいたのは、一人残された船荷屋のあるじだ。


「もし、船が出てしまいました」


 店主に答えるのは、ユスタッシュだ。


「わかっている」

「わたくしが帰れません。どうしたらよろしいのですか?」

「案ずるな。用がすめば帰してやる」

「ご用とは?」

「うむ」


 ユスタッシュが目で合図を送ると、騎士たちが店主をかこんで、またたくまに縛りあげる。店主は青くなった。


「何をなさるのですか。もしや、このまま海に落とそうとでも?」

「これはおまえが逃げださないためのただの用心だ。おまえにやましいことがなければ問題はない」


 そして、ユスタッシュは騎士たちに命じる。

「始めろ」


 身軽な船乗りのかっこうをしているが、彼らは騎士学校で訓練を受けた者たちだ。昔からの家臣の息子や、学校でユスタッシュの剣術の腕前に感服した者たち。むだのない動きで積荷をひらいていく。


「酒樽は異常ありません!」

「水樽もです」

「牛乳はかきまわして確認しました。問題なしです」


 パン、肉、野菜などが次々と調べられる。すぐにわかるものはよいが、豆や塩の袋はなかが確認しにくい。騎士たちが苦労しているのを見て、ユスタッシュは剣をぬいた。


「こうするのだ」


 言葉と同時に手近な袋に剣をつきとおす。麻がさけて、ザラリと白い砂があふれた。砂糖だ。船荷屋はギョッとして、ユスタッシュの手元を見つめている。


「命びろいしたようだな」


 つぶやいたあと、ユスタッシュは宣言する。


「これより、積荷のすべてに剣を通す。なかに隠れる者あれば、今のうちに出てくるがいい。でないと命をなくすぞ。容赦はせぬ」


 言うが早いか、二刃、三刃と剣でつらぬく。袋が次々に中身をこぼす。


「さあ、皆もやるのだ。声を出して——四つ! 五つ!」


 ユスタッシュの命令で騎士たちも同様にする。端から中心へ輪をせばめていく。みんながてんでに叫ぶので、甲板は大合唱だ。荷物のなかにひそむ者があれば、これはそうとうの恐怖だろう。


 やがて、一人の騎士がユスタッシュを呼んだ。


「閣下! この袋、なかに巨大な虫がおるようです。退治いたしましょうか?」


 騎士の示す麻袋は、たしかにイモムシが必死でもだえるように、なかから動きまわり、ころがっている。

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