第40話 怪しい積荷
翌日も快晴。
ユイラの海は冬とは思えないほどおだやかだ。透明な波のあいだを色あざやかな魚が泳いでいく。
「ユスタッシュさま。荷運び人夫が食料を運んでまいりました」
リードに起こされ、ユスタッシュは早朝の甲板に出た。
「ひさびさにファートライトになった夢を見た。寝る前に二章も読んだせいらしい」
「旦那さまなら、さぞ立派なファートライトにおなりです」
「喜ばせるな」
子どもみたいに笑うユスタッシュだが、船長の顔を見て気をひきしめる。
「積荷が届いたらしいな」
「運び入れさせましょう」
「うむ」
埠頭にタラップが渡される。船荷をあつかう店主がまっさきに乗りこんできた。うるさくあいさつするのには、ユスタッシュは生返事だ。
「酒樽から奥へつめよ」
人夫たちが積荷を運び入れる。それを指図する船長も、警護の騎士たちも緊張している。もちろん、ユスタッシュもだ。
この港で何かが起こることはわかっていた。エルヴェの手紙で前もって知れたからだ。だからこそ、ふだんはよらない港へ、わざわざよってやったのだ。
「ご注文のとおり、ヴィナ酒正十樽。水、二十樽。牛乳半十樽。パン三百。干し肉二百。チーズ百。野菜に青豆百五十。卵……」
こまごまと店主が述べる順に、樽や麻袋が運びこまれる。樽は船倉へ、麻袋は甲板にならべられた。おかげで、だんだん甲板がいっぱいになってくる。
「よろしいので? これでは足のふみ場がございませんです。まだ塩と砂糖がまいりますが」という店主にも、
「かまわん」と、ひとことだけ船長が答える。
やがて、ようやくすべての荷が船上に移された。
「これですべてでございます」
「うむ。支払いをする。人夫をさがらせよ」
人夫たちが全員、波止場へおりたとたん、タラップがあげられ、船はゆるやかに港を離れる。岸では人夫がさわぎだす。
「あの船、うちの旦那を乗せたまま行っちまったぜ?」
「ふみたおそうってのかな?」
「そんなら旦那も置いてくだろうよ」
「それもそうか」
「じゃあ、なんなんだ?」
人夫たちもおどろいていたが、もっともあわてふためいたのは、一人残された船荷屋のあるじだ。
「もし、船が出てしまいました」
店主に答えるのは、ユスタッシュだ。
「わかっている」
「わたくしが帰れません。どうしたらよろしいのですか?」
「案ずるな。用がすめば帰してやる」
「ご用とは?」
「うむ」
ユスタッシュが目で合図を送ると、騎士たちが店主をかこんで、またたくまに縛りあげる。店主は青くなった。
「何をなさるのですか。もしや、このまま海に落とそうとでも?」
「これはおまえが逃げださないためのただの用心だ。おまえにやましいことがなければ問題はない」
そして、ユスタッシュは騎士たちに命じる。
「始めろ」
身軽な船乗りのかっこうをしているが、彼らは騎士学校で訓練を受けた者たちだ。昔からの家臣の息子や、学校でユスタッシュの剣術の腕前に感服した者たち。むだのない動きで積荷をひらいていく。
「酒樽は異常ありません!」
「水樽もです」
「牛乳はかきまわして確認しました。問題なしです」
パン、肉、野菜などが次々と調べられる。すぐにわかるものはよいが、豆や塩の袋はなかが確認しにくい。騎士たちが苦労しているのを見て、ユスタッシュは剣をぬいた。
「こうするのだ」
言葉と同時に手近な袋に剣をつきとおす。麻がさけて、ザラリと白い砂があふれた。砂糖だ。船荷屋はギョッとして、ユスタッシュの手元を見つめている。
「命びろいしたようだな」
つぶやいたあと、ユスタッシュは宣言する。
「これより、積荷のすべてに剣を通す。なかに隠れる者あれば、今のうちに出てくるがいい。でないと命をなくすぞ。容赦はせぬ」
言うが早いか、二刃、三刃と剣でつらぬく。袋が次々に中身をこぼす。
「さあ、皆もやるのだ。声を出して——四つ! 五つ!」
ユスタッシュの命令で騎士たちも同様にする。端から中心へ輪をせばめていく。みんながてんでに叫ぶので、甲板は大合唱だ。荷物のなかにひそむ者があれば、これはそうとうの恐怖だろう。
やがて、一人の騎士がユスタッシュを呼んだ。
「閣下! この袋、なかに巨大な虫がおるようです。退治いたしましょうか?」
騎士の示す麻袋は、たしかにイモムシが必死でもだえるように、なかから動きまわり、ころがっている。




