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異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
五章 死の運命

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第38話 リードのやきもち



 ユイラとブラゴールのあいだには、六海州とルーツ海がはだかっている。

 ルーツ海は六海州とユイラの陸地にかこまれて、内海と言えなくもないものの、広さは充分、外海である。一見おだやかだが、ときおり潮流が予測のつかない動きをする。難所が点在する意外とやっかいな海だ。


 六海州じたいはユイラと友好関係にあるので安全な旅ができる。人種的にはブラゴールに近いが、文化はユイラの影響がひじょうに強い。


 ユスタッシュはこの六海州の一つである薬の国キャランで買い物をしたあと、ルーツ海をめざした。

 太陰の月、ヴィサラ旬の二日。ラマスタを出てわずか十日で北空の一星号が待つライラクの港へ到着した。百頭の駿馬のおかげだ。ここからレリーナの港へむかう。


 レリーナ港はユイラとライラクの国境にある、ユイラ側の港であり、それだけにひじょうに広く大きい。各国からの船や、港を守る軍艦などが行きかう。混雑するので、ふだん、ユスタッシュはこの港をさけていた。だが、今回は必ずここへ寄港しなければならない。


「ユスタッシュさま。では、この港で食料を調達します」というのは、ユスタッシュより五つ六つ年上のスマートなユイラ人船長ヴァルシアだ。

 北空の一星号はユスタッシュの船なので、船長以下、水夫まで全員、忠誠を誓う兵士でもある。


「頼んだぞ」

「お任せあれ」


 うなずきあう目線一つで、すべて順調と伝わる。


「わあ、これが海? フェイレーン湖とは色が違う! それになんてにぎやかな港だい? スゴイなぁ。あの塔は何?」

「あれは灯台だ。船の安全な旅のための道標の灯をともす」


 さわいでいるのは、当然、マハドだ。見知らぬ異国へ旅立つ不安をまぎらわすために、はしゃいでいるのだろうと、ユスタッシュは自分の物差しで測ってみたが、じつはほんとに海や船がめずらしいだけなのかもしれない。


「これ、あんたの船なんだろ? ユスターハン。やっぱり、あんた、とんでもない金持ちなんだな。あんたの城って、スーリの宮殿よりデッカいのかい?」

「いや、大きさは宮殿のほうが上だろう。だが、部屋数はエルニルーク城のほうが多いかもしれないな。建築法が異なる。ユイラの城は窓がたくさんあるし、左右対称でもない。尖塔も多い。まあ、見ればわかるさ」

「ふうん」


 マハドは想像もつかないようだ。


「私はエルニルークのほかにも城を五つ、屋敷を十七、所有している。落ちついたら、領内をひとまわり旅してみよう。おまえもついてくるか?」


 ついに、マハドはポカンと口をあけたまま動かなくなった。


「どうした?」

「だって、おいら、あんたがそんなエライ人だなんて思わなかったんだもの」

「私がエライわけではない。先祖が築いたというだけさ」

「あ、なんで、エラそうに見えるのかわかったよ。あんた、自分を『私』なんて言ってる。今までどおり、『おれ』でいいじゃないか」

「そうしたいところだが、そうもいかない」


 ユスタッシュは苦笑する。

 二人の背後から、ふいに声がした。


「閣下とおまえは住む世界が違うんだ。今までどおり『あんた』呼ばわりできると思うな」


 リードだ。マハドに見せつけるためか、必要以上にていねいなおじぎをしてから告げる。


「旦那さま。船長が話したいそうです」

「今、行く。リード。おまえはマハドに船のなかを案内してやってくれ」

「御意に」


 ユスタッシュはマハドに耳打ちする。


「これから、おまえのことをとやかく言う者は増えるだろう。だが、気にするな。私はおまえの明るく元気なところが好きなんだ」


 マハドは了解の手つきをする。

 ユスタッシュが微笑して船室へ消えると、とたんにリードは厳しい顔でマハドをにらんだ。


「なんで旦那さまは、おまえなんてひきとったんだろう。あのかたの物好きにも困ったもんだ」


 リードの口調にはあきらかな悪意がある。

 マハドも負けてはいない。


「大使がおいらばっかり可愛いがるからって、なんだい。ヤキモチなんか、みっともない」


 リードにはこれまでもさんざんイヤミを言われていた。口の両端をひっぱって、思いっきりイーッとしてやった。ユイラ人はいつもすましてるから、てっきり怒らないと思っていたのだ。


 ところが——


「あ、イタッ!」


 いきなり、パチンと平手打ちがとんできた。ものすごい勢いで、マハドは甲板になげだされる。おどろいたものの、すぐになぐりかえそうと起きあがる。でも、立ちあがったところで、あぜんとした。


「……おまえに、何がわかる。あのかたが誰を愛し、何に苦しんでいるかも知らないくせに」


 リードがポロポロ涙を流している。


「旦那さまのために命をかける覚悟のない者が、わかったような口をきくな!」


 言いすてて、リードは去っていった。


「な、なんだよ。あいつ……」


 マハドは痛む頬をさすりながら、なぜかはわからないが不安が胸をよぎった。

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