第37話 策略家VS策略家
クルエル公爵邸。
宮廷にほど近い豪邸は今日もにぎやかだ。宮中での仕事を公爵にとりもってほしい客が門前に列をなしている。それにまじって、文使いが港からやってきた。
「フォンナや。ブラゴールからユスタッシュの文が届いたぞ。読んではどうだね?」
じつはそのころ、ユスタッシュはラマスタを発って草原の旅をしていたが、ユイラの人々はむろん、それを知らない。さきだってユスタッシュが国内に送った手紙がようやく届いていた。
「お父さまにあてられたものでしょ。そんなのいいわ」
フォンナは機嫌をそこねてふくれる。
「しかたあるまい。ブラゴールからとなれば、手紙一通でも隊商には負担。セブリナに一通。エルヴェに一通。むろん陛下にも報告書を送らねばなるまいし、船長に一通、ベルモット家に一通、当家に一通。エランかヘルディードにも書いているだろうな。かなりの手間賃をとられよう」
「だからって、もう一通増やすくらい、たいした違いはないわ。お兄さまはブラゴールに行ってから、一度もわたしに手紙をくださらない。いいえ、最初に一度だけ『花の命は短いのたとえどおり、よい貴公子を見つけたら、自由に結婚してください』ですって。バカにしてるわ」
「そう申すな。ここにおまえのことも書かれている。『フォンナは元気にしておりますか? 婚礼延期の件、思いつめていなければよいのですが。どうぞ、よろしくお伝えください』だそうだ」
「あいかわらず泣きわめいておりますと返事すればよいのよ」
叫んで、フォンナは出ていく。オニールは肩をすくめてため息を吐きだした。
「どうして私の娘はユスタッシュのことになると、ああも頑固になるのだろうか? ふだんはもっと可愛いのに」
同じ男として、少しユスタッシュが哀れになる。が、あれでもフォンナはユスタッシュを愛している。いや、愛しすぎているのだ。
それにしても、気になる。
どうもこのごろ、ラ・マン侯爵家のようすがおかしい。
エルヴェは学校を休学しているというし、病気だというセブリナは湖礼祭さえひらかなかった。オルギッシュは病を押してまで開催した年に一度の大切な祭だ。これをしないなんて、そうとうの重病だ。
しかし、じっさいに会ったセブリナはさほど重病には見えなかった。セブリナの兄——そう、レニードとかいう。ル・ギラン男爵が昨今、いやにユライナで豪遊している。ユスタッシュが買ったばかりの新居を勝手に使い、連日、遊び仲間を招いて飲んでさわいでいるらしい。あの金まわりのよさは、ラ・マン侯爵家の財産を拝借しているに相違ない。この一年、すべての祭りや親戚縁者への招待をとりやめ、湖礼祭さえ催さなかったのだから、金はありあまっているだろう。しかし、それにしたって、それをセブリナの兄ごときが使いこめるのがおかしい。エランやヘルディードがいれば、そんな暴挙をゆるすわけがないのだが……。
(ふうむ? ことによると?)
主人の留守を意のままに、ウジ虫がたかっておるわと、最初は考えていたが、どうもそれだけでもないような……。
クルエル公爵は豪華な椅子に深々と身を沈め、形よい眉を指さきでなぞる。それが考えるときの彼のクセだ。
(これはもしかすると、もしかするかもしれんな)
ふふっと公爵の唇から笑い声がもれる。
容貌はユスタッシュに似ているが、気質はまったく異なるのだ。宮廷随一の策略家。それが彼の裏の顔だ。
(これは利用できるやもしれぬ)




