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第2話 運命の少女



 レリエルヴィがメイクルームから出てくると、感嘆の声があがった。廊下で待っていた侍女たちや、父クレメントが驚嘆するのもムリはない。

 レリエルヴィ、十歳。今日が初めてのお化粧だ。


「どう? あなた。ルビーにはまだ大人っぽすぎた? でも、ルビーは特別な子ですもの。これほど整った造作には、このくらいシックなドレスが似合うと思ったんだけど」


 着付けを手伝った母ヒルダ皇女は得意げだ。が、夫がかたまったまま動かないので眉をひそめた。


「ダメだったかしら? ねえ、あなた?」


 クレメントは声をかけられ、思いだしたようにハッとする。


「もちろん似合うとも! この麗しい子が私の娘だなんて、まったくどんな奇跡だろう? この子は神の授けてくださった宝物だよ」


 そう言うと、クレメントの目に、じわじわ涙が浮かんでくる。早くも娘を嫁に出すときのことでも考えたのかもしれない。彼にはちょっと妄想癖がある。


 今日は一人娘ルビーの十歳の誕生日。昨日まで女児の二つわけ髪をしていた娘が、今日は真珠を何重にも編みこんで結いあげ、目元に緑色の化粧墨を入れている。一人前のレディの装いだ。


「まあ、素晴らしい。この子はまるで天の御使いだわ。ねえ、殿?」

「おお、そうだ。そうだ」


 今は息子に爵位をゆずり隠居している祖父母も、孫娘を溺愛している。

 ルビーはその血筋の高さから考えると、嘘みたいに平穏な家庭で、家族の愛情をたっぷりそそがれて育った。同い年の侍女サラエラも崇拝の眼差しだ。


 ルビーのまわりでは、すべて彼女を中心に世界がまわっている。これが十歳の彼女をとりまく環境。ルビーにとって人に愛されるのはあたりまえであり、むしろ、そうでないほうが異質だった。


 じっさい、ルビーほど美しい少女はどこにもいない。見事な巻毛の黒髪。少女らしいしなやかな手足も、優美な体つきも、光に透けると緑や紫に見える不思議な黒い瞳も、比類なく麗美な面差しも、神様はこの少女に百人ぶんの加護をあたえたに相違ないと誰しも感じるたぐいのものだ。


 それに、なんというのだろうか?

 この少女には外見の美しさだけではない輝きがある。誰からも愛されて純粋に、まっすぐに育った者の持つ王者の風格というものか。華奢な体の内いっぱいに、はじけるような力強さを有していた。それが、見る者を魅了する。


 しかし、ドニイ家の人々は争いを好まない、おだやかな気質だ。ゆえに、これまで少女はただ家族の愛のなかで、まったり守られていたばかりだ。


 でも、今日からは違うと、ルビーは自覚していた。今日のこの瞬間から、彼女の世界は大きく、そして、めまぐるしく変わるのだと。


 父母とともに馬車に乗って宮殿へむかうあいだも、到着後、ホールの前でビロードのとばりの前に立ったときも、知らず知らずルビーの胸はドキドキしていた。


 今日は彼女の社交界デビューの宴だから、主役はルビーだ。招待客はすでに集まっていた。主役を待ちかねるざわめきが聞こえる。


 いよいよ、父クレメントに手をとられ、ルビーが足をふみだすと、ファンファーレが高く響きわたる。


「リ・ドニイ伯爵夫妻および令嬢レリエルヴィ。ご入来!」


 運命への第一歩だ。

 いざ、行かん。

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