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異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
四章 遠い空

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第28話 クルエル公爵の心中



 年が明けると海の年。

 ユスタッシュが発って二ヶ月。フォンナはまだ泣いてばかりだ。


「お父さま。みんながわたしを結婚前に出戻ってきたと悪口言うわ。旦那さまに嫌われて式もあげてもらえなかったと」


 自室にこもってふせっているというので、見舞いに来てみれば、このように泣きごとばかり。

 それでも、クルエル公爵オニールには可愛い娘だ。病気だといえば哀れになる。


「心配するな。ユスタッシュは無事に帰国したならば、必ずやおまえとの婚儀を果たすと誓ったのだ」

「お兄さまは約束忘れておしまいになるわ。きっと、このままなかったことになさる気よ」

「考えすぎというものだぞ」

「じゃあ、破談にして行く必要なんてなかったわ。婚礼をあげてから行けばよかったのよ」

「五年だからな。そなたの気がそのあいだに変わらぬものでもない。祖国にいない婚約者のために、五年の月日をつきあわせるのは申しわけないというのが、やつの言いぶんだ。それに、ブラゴールは危険な国ゆえ、道中、何かあるともかぎらないと」

「そんなの言いわけよ!」


 どうやら、フォンナには他人のささやき声が全部、自分への悪口に聞こえるらしい。困ったものだ。


 ユスタッシュの対処は適切だった。たしかに花婿が途中の道筋で死んでしまえば、フォンナはこの年で寡婦かふになってしまう。

 いや、何よりも、もしもそうなったとき、正妃というフォンナの立場を利用して、ラ・マン侯爵家の財産をクルエル公爵家にとられてしまうのではないかと、ユスタッシュは案じたのだろう。弟のためにその危険は犯せなかったのだ。


 それはわかる。が——


(それにしても、前代未聞だ。わがクルエル公爵家の娘が婚儀の十日前になってお払い箱とは)


 世間ではよい笑いものだろう。陰口はフォンナの被害妄想とばかりも言えない。


 ラ・クルエル公爵家はその名のとおり、もとは皇族の出であり、宮中での祭祀さいしを司る特別な名家だ。宮殿の敷地にある十二神の神殿を統括とうかつする役目を持つ。絶大な権力と財力を誇っている。


 だが、そのぶん、政敵も多い。オニールはやり手だから、なおのこと、多くの人から恨みを買っていた。クルエル家の災いを望むやからにとって、今回の事態はかっこうのウワサの的だ。ユミオンのときでさえ、あまりに年の離れた夫に嫁すものだから、あの姫は体に傷があっただなどと陰口をささやかれたものだ。


 ユミオン——


 公爵の脳裏に十七で嫁いで、二十七で逝った妹の姿が浮かぶ。

 見つめられるものまでその色に染めあげてしまいそうな、深いあざやかな青い瞳。ユスタッシュと同じ目の色だ。


 公爵の物思いをフォンナのぐちがさます。


「お兄さまはわたしと結婚する気なんてなかったんだわ。ブラゴール大使の話が来てお喜びになったに違いないわ」

「まさか。喜びはすまい。ユスタッシュにとってもブラゴールは危険な国だ。子どものエルヴェを残して行くのも危惧きぐしただろうし」

「エルヴェの身は案じても、わたしのことなんて心配なさらないわ」

「なぜそう思うのだ?」

「だって、お兄さまは最初から、わたしをお嫌いですもの」

「それでもユスタッシュが欲しいと言ったのは、そなただぞ」

「わたし、お兄さま以外のかたとは結婚しません!」


 まったく、意思の固い子だ。

 しかし、オニールにもその気持ちは理解できなくもない。


(あの子でなければ、か)


 公爵にもあの子でなければダメだと思ったことが一度だけあった。ゆるされぬ恋だったのであきらめたが。あるいは、むこうもひそかに慕ってくれていたのではないかと思う。


(ユミオン。私の美しい妹)


 ユスタッシュはおまえにそっくりだ。あの青い瞳。おもざしもよく似ている。


 ユミオンが結婚して最初の二、三年は人のものになった妹を見るのがつらく、何かとさけていた。だから、ユスタッシュを初めて見たのは一歳になってからだ。最初に見たとき、感激した。オルギッシュもダークブロンドだが、どちらかといえば、かなり黒に近い。茶褐色の髪色は、まるでオニールの髪のようだった。


 私の髪とユミオンの瞳。まるで、この子は私と妹の子だ。むくわれぬ想いをあわれんで、神が授けてくださったのだ——


 もちろん、妹とのあいだに何かあったわけではない。それでも、オニールは本気でそう信じた。


「戻ってくれば、約束は果たすとユスタッシュは言った。が、内心は若い娘が五年も待ってはおられまいという魂胆があったのではないか? どうだね。フォンナ。おまえは五年間、待ち続けられるかね?」

「わたし、お兄さまが待てというなら、十年でも待つわ」


 満足のいく答えだ。一つの恋に執着するところは父親似だろうと、公爵は思う。だからこそ、この娘が愛しい。


「よろしい。ならば、私が必ず、おまえたちを結婚させてあげよう。安心しなさい」

「ほんと? お父さま」

「私がおまえに嘘をついたことがあるかね?」

「ないわ」


 フォンナが公爵の首に抱きついてくる。


 娘が喜ぶさまを見るのは嬉しい。そして、妹似のユスタッシュと、自分似のフォンナの恋が成就するのを見るのは、さらに嬉しかった。そのために、多少の姑息こそくな手段を講じようとも……。

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