第25話 禁じられた関係2
ユスタッシュはいっきに血の気がひくのを感じた。
そう。それだ。それがユスタッシュを縛るすべての元凶だ。それさえなければ、たとえ父の遺言でもこうまでかたくなに守る必要はなかったのだ。セブリナも言うとおり、ラ・マン家は大富豪だ。政略結婚などしなくても、まったく困らない。
でも、その事実がずっと心の底に楔となっている。
たった一度のあやまちだった。夏休み。学校が長い休みになり、寮からわが城へ帰ってきた。だが、父のもらったばかりの若すぎる義母に戸惑い、いつも居場所がなかった。義母の姿を見ると逃げだしていた。まだ十三の少年だったのだ。姉みたいな少女が急に母親として現れたのだから、当然だろう。
庭のすみのあずまやで、セブリナと出くわしたのはぐうぜんだった。ユスタッシュはかけだそうとした。
ひきとめたのは、たしかにセブリナだった。でも、それも淫らな意図ではなかった。
「待って。わたしのこと、母親と思えないのはわかっています。わたしみたいな低い身分の家から、いくつも年の違わないのが急にやってきて……ごめんなさい。わたし、あなたのお母さまになりたいなんて考えていません。侯爵家の人間にふさわしくないとわかっています。だから、あなたのお父さまにいっしょうけんめいつくします。わたしをここにいさせてください。お願いします。わたしには帰る家もないんです。いさせてもらうだけでいいんです」
年上の少女はとつぜん、泣きだした。その場につっぷして土下座を始めたのだ。
ユスタッシュはセブリナの事情を知らなかった。実父が死んで、家が借金だらけになったことも。その代償にセブリナ自身が売られそうになっていたことも。
ただ、あまりにも彼女が必死だったので、さすがに哀れになった。母とは思えなくても、姉くらいなら。そんな心地で、彼女のもとへ近づき、手をとって起こした。
セブリナはよほど思いつめていたのだろう。聞けば、本心ではユスタッシュに惹かれていたというし、淡い恋心をいだく少年に嫌われいると思い、きっと胸を痛めていたのだ。優しくされて、それまでの感情が堰を切ったに違いない。ボロボロ涙をこぼしながら、ユスタッシュの胸にすがりついた。
それで、どうしてあんなふうになったのか、今ではよく覚えてない。
なぐさめるうちに、薄物の夏服を通して、押しつけられる少女のやわらかさを感じた。
なりゆきだった。
とりかえしのつかないことをしてしまったと感じたのは、すべてが終わったあとだ。
(あのとき、おれがもっとしっかりしていれば……)
いや、それも今だから言えるのだ。あのときはどうしようもなかった。ちょうど、それに対して過敏に反応する時期でもあった。それも、セブリナに拒否する意思がなかったのなら、なおさら……。
自分の未熟さをどれだけ悔やんでも悔やみきれない。愛する父を裏切ってしまった。軽はずみの罪は重かった。エルヴェはあのときできた子どもなのかもしれない。弟のほんとの父はユスタッシュかもしれないのだ。
この十年、その考えに苦しめられてきた。
「罪はつぐなわなければならない。あなたは皇都の屋敷へ行きなさい。よい相手にめぐりあえる機会も増えるでしょう。再婚されるなら、持参金を用意します。もちろん、屋敷はさしあげます」
「ヒドイ人ね。ユスタッシュ。わたしはあなたを愛しているのに」
セブリナがうつむくと涙がこぼれた。十年前と同じだ。でも、今はもう、ユスタッシュは十三の少年ではないし、セブリナも十五の少女ではない。
「さよなら。義母上。私はフォンナと結婚します。それが、私の受けるべき罰だ」
セブリナは立ちあがり、扉へと歩く。だが、最後にふりかえり、ひとこと、こう告げた。
「明るい笑顔のあなたに惹かれたの。でも、その笑みをあなたからうばったのは、わたしなのね」




