第20話 湖礼祭1
湖礼祭は年に二回。ルーラ湖でおこなわれる。
ルーラ湖は漁業よりも、湖底に内包された星輝石の鉱脈のおかげで周囲の領主に絶大な富をあたえている。そのため、盗掘者を恐れて、湖岸協定者か、協定者の認定を受けた者以外の船は出入りできない。
協定者でさえ、遊覧船を出せるのは夏のあいだだけ。船遊びにかっこうな水の月と風の月の二ヶ月間とかぎられている。
その風の月の最後の日。アイサラ旬の十日。
夏のあいだの無事と星輝石の採掘への感謝の印として、盛大にもよおされる祭。それが湖礼祭だ。
星くずを散らした湖面に大小さまざまな船が何百も浮かび、無数の灯火が金色の筋を作る。どの岸からも競うように花火が打ちあげられ、船と船がすれちがうときには、それぞれの家紋の旗がふられる。笑い声や音楽がたえまなく空気をゆらす。
湖の守り神である星の神ルエラと水の神ルクサラのために流された多くの花が、水上にゆたかな香りをはなち、波のまにまに鮮やかな色彩をなげている。
この夢のような景色のなか、ユスタッシュは一艘の小舟にルビーと二人で乗っていた。
なぜ、こんな流れになったのかわからない。
ラ・マン侯爵家の船は周囲のどの貴族のそれより立派だ。三隻の遊覧船が手すりつきの頑丈なタラップで固定され、行き来が自由になっていた。
一号船は舞踏と音楽。二号船は食事と寸劇などの出しもの。三号船はカードや輪なげ、サイコロ、戦駒などのゲーム。船ごとに趣向が変えてある。
一号船はエランに、二号船はセブリナに、三号船をエルヴェとヘルディードに任せ、ユスタッシュは全体を見まわっていた。ユスタッシュのかたわらにはフォンナがひっついている。
「ねえ、お兄さま。今夜はわたくしのお父さまもいらしてるわ。わたしたちの式の日どりを話しあってくださらない? 婚約のおひろめは喪中でできなかったから、結婚式は華やかにしたいの。亡き叔父さまの意向も考えれば、次の白の月のアレイラの日がいいと思うわ」
「白の月は早すぎるのではないか?」
「ちゃんとした結婚は白の月でないと格式が劣るもの。まだ二ヶ月さきよ」
「二ヶ月では引き出物がまにあわない。どうせ、二人の肖像入りのツボか皿でも作るのだろう? うちは専用の窯を持たないからな」
「あら、オズワルドはどういたしましたの? 叔父さまがお気に入りで、おかかえにしていたじゃありませんか」
「父上もオズワルドも頑固者だ。意見が対立したら、それっきりだ。父上の死を聞いて悲しんでいるというウワサは聞いたが」
「では、呼び戻しなさいませよ」
「二人が仲たがいしたのも、エルヴェの誕生祝いの皿が、どうしても納得いく出来にならず、何度も作りなおして期限にまにあわなくなったからだ。父上が試作品で代用しようとしたので、オズワルドは全部の皿を割ったらしい。父上の目の前で」
「では、うちの窯で作らせてもいいわよ。とにかく、お父さまと話しあってくださいませ。やっぱり、わたしは白の月がよいと思うわ」
「白の月はもう予約でいっぱいだろう。貴族も庶民も、みなが結婚したがる月だ」
「そんなこと言って、けっきょく、お兄さまはわたくしと結婚したくないのね」
「もういい。その話はあとにしよう」
ほとほと、フォンナのヒステリーに疲れてきた。三号船に乗りこんだところで、ユスタッシュはフォンナをまいて逃げだした。そこでひととおり客のようすを見まわったあと、二号船へ帰ろうとしたとき、背中からぶつかってくる者があった。
「ごめんなさい。でも、お願い。助けてくださらない? 追われているの」
ふりかえるまでもなく、その声で誰なのかわかった。まもなく、大勢の走りよってくる足音がある。
思わず、ユスタッシュはルビーの肩を抱いて船室に入りこんだ。
「ヒドイじゃないか。われらの姫君は」
「約束したのに」
バタバタと十数人の足音がドア前を通りすぎていく。ルビーが安堵の吐息をついた。
「ありがとう。ゲームで負けたら、一番好きな人に接吻するって約束になってしまって。でも、一番と言われても困るわ。一人に決められないもの。だから、逃げだしてきたの」




