第14話 帰還の宴2
一方、ユスタッシュは父に言われたとおり、ルビーのもとへおもむいた。
「こんばんは。令嬢」
ルビーのまわりにはハリオットを初め、名家の子息がつどっている。
まだ先日の誕生祝いから十日。しかし、そのあいだにルビーはいくつものパーティーを経験したのだろう。男たちを従える姿に女王のたたずまいがある。
「こんばんは。お招きにあずかり、光栄ですわ」
「私こそ、美しいあなたにふたたび会えて喜びのかぎりです」
ユスタッシュはルビーの細い指に接吻した。ユスタッシュの手の内にすっぽり隠れてしまうほど小さな手。片手で彼女の両手をつかんでも、まだあまりそうな細い手首。体はまだほんとに少女にすぎないのに、この子には女王然とした気品がある。
「今宵はお楽しみですか?」
「なんだか絵本のなかへ入ってしまったようね。あのタペストリー、素敵。わたしもブラゴールへ行ってみたくなったわ」
もちろん、すぐさま、ハリオットが叫んだ。
「とんでもない。君は知らないかもしれないが、ブラゴールは野蛮で危険な国なんだよ。ルビー」
「あら、でも、ハリー。あなたが自分で行ったわけではないんでしょ? それなら、ほんとのところはわからないわ。だって、こんなに美しいじゃないの。料理も置物も侍女たちも、みんなエキゾチック。侍女たちが着てる衣装、わたしもつけてみたいわ。でも、わたしにはまだムリね」
セクシーなブラゴールの服は、大人の女性でなければ似合わない。少女が小さな胸を自分の手で押さえると、まわりの少年や青年が口々に彼女の肌のなめらかさや、しなやかな手足を褒めたたえた。
「あなただってほんの数年したら、きっと、あの衣装が似合うようになります」
「そうですよ。気にすることはありません」
するとまた、ルビーは急にユスタッシュをかえりみる。
「ねえ、ユスタッシュ。ほんとにわたしにあの侍女の服が似合うようになると思う?」
「むろんです。あなたより美しい女性は、ユイラにもブラゴールにもいない」
ルビーは満足そうに笑う。
そしてまたすぐによこをむいて、公爵令息や大臣の息子に命じる。
「喉がかわいたわ。飲み物を持ってきてくださる?」
この少女にとって、おれは大勢のなかの一人にすぎないのだな。
そうユスタッシュは実感した。
ユイラの男はみな美しい。まっすぐな黒髪を腰まで伸ばしたリヴァル。立ち居振る舞いの優雅なアントワーヌ。長身の白鳥のようなレイテル。
これらの男にかこまれた少女の目に、自分はどう映っているのだろう。
真っ黒に日焼けした外国人のような自身の姿を、ユスタッシュは恥じた。無言でその場を離れる。
仲間たちのもとへ帰ろうとしていると、背後から声をかけられた。
「わが甥、ユスタッシュ」
声で誰なのかわかる。
思ったとおり、伯父のレニードだ。黒髪黒い瞳で鼻筋は通っているが、とがりすぎて険がある。
「おひさしぶりです」とは言ったものの、ユスタッシュは不快の色を隠さなかった。
ユスタッシュはこの男が嫌いだ。伯父とはいえ、セブリナの兄というだけで親戚でもなんでもない。父が世話してやった官職を職務怠慢で一年もたたずクビになり、そのあとはセブリナから小遣いをせびって生きている。そればかりか、下賤な酒場やいかがわしい場所でラ・マン侯爵家の名を出し、勝手にツケをまわしてくる。
もちろん、父オルギッシュはレニードにそれなりの大金を月々渡していた。その上でのこの所業が、ユスタッシュにはゆるせないのだ。
レニードはユスタッシュの侮蔑に気づいているのかいないのか、さんざんあれこれと親戚づらして話しかけてきた。が、ユスタッシュが沈黙を守っていると、そのうちあきらめて去っていった。あれでエルヴェに対しては優しいのが不思議なくらいだ。




