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異世界源氏物語〜愛に形があるのなら私はあなたの翼になる〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
二章 からまる糸

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第9話 一夜明けて



 翌朝。ルビーが目ざめると、二人の客が来て待っていた。


「姫さま。お客さまですわ」


 侍女のサラエラがドア前で告げる。


「どなた?」


 サラエラは部屋に入ってきて、カーテンをあける。ルビーはぼんやりとそれをながめる。


「なんだか、いろんな夢を見たわ。海底の人魚の国へ遊びに行くの。すると、そこにあの侯爵令息がいて、おみやげに星輝石のブローチをくれるのよ」

「まさに、そのかたがおいでです。お客さまはその侯爵令息と、ハリオットさまですよ」

「やっぱり、侯爵令息からの求婚についてかしら?」

「そうでございましょうね」


 ルビーはサラエラに手伝われて髪をくしけずり、衣服をかえて、朝食を運ばせた。


「お母さまやお父さまよりさきに、別のかたを部屋に迎えるなんて、これまではなかったわね。それも大人の仲間入りしたからだわ」

「姫さまがめずらしくお寝坊なさったことでもわかりますわ。でも、わたくし、なんだかさみしいのです。姫さまが遠い人になったようで」


 ルビーはおさげ髪をした侍女をながめた。サラエラはルビーと同い年だが、働いているせいか、少し大人びて見える。ルビーほど華やかではないものの、ユイラ人らしく整ったおもてに、いつもはしっかり者らしい表情が浮かんでいる。が、今は少し物悲しそうだ。


「わたし、今、気づいたわ。あなたの髪、おさげのままね。わたしだけ大人の髪型になったのがいけないのよ。お母さまに言って、あなたもわたしと同じにしてもらいましょう」

「姫さま……」

「わたしたち、これからもずっと友達よ」

「もったいないお言葉です」


 サラエラは乳母の娘だ。侍女であり、友達であり、乳姉妹でもある。二人は手をにぎりあって、たがいの友情をたしかめた。


「あっ、いけない。お客さまだったわね」

「ハリオットさまは朝一番にお越しになって、イライラしながらお待ちです。もうおひとかたは同じころに来て、何刻でも待つとおっしゃってますわ」

「きっと人魚の国は時間の進みかたも違うのね。いいわ。次期侯爵をここへ呼んで。ハリーの用件はどうせわかってますから」


 サラエラが出ていくと、ルビーは急に思いたって、胸に昨夜のあのブローチをつけた。昨日はハリオットがずいぶんさわいだものだけど。


「ルビー、君はほんとにあの男と結婚するつもり? わかってるんだろうね? 男が身につけているものを女に贈るのは求婚だ。そして、女がそれをまとうのは承諾するって意味だよ。そりゃ、今どき、こんな古風なプロポーズ、誰も真に受けないだろうけど」

「そうなの? 知らなかったわ」

「みなさん、聞きましたか? ルビーは知らずに受けとっただけだ。この婚約は無効です!」


 なんて、ハリオットがわめいていた。それで今朝もようすを見に来たのだろう。

 ほんとは、ルビーは知らなかったわけではない。精霊の王から首飾りを受けとった娘の話は絵入りの童話で読んだ。


「お客さまをおつれしました」


 サラエラが案内した次期侯爵ユスタッシュのうしろには、ルビーの両親もひっついている。


「おはよう。令嬢。あなたに会えて光栄です」


 ユスタッシュはルビーの手に接吻する。が、ルビーはちょっとガッカリした。今日のユスタッシュはふつうのユイラ服を着ているのだ。褐色の肌には昨日のブラゴール装束のほうが似合っていた。


「ラ・マン次期侯爵さま。わたし、これから朝食ですの。ごいっしょにいかが?」


 ユスタッシュはためらっている。いつ本題に入ろうという顔だ。そばで見ている父母もソワソワしていた。

 妙に緊迫したふんいきのなか、無言のまま食事が進む。もっとも、食べているのはルビーだけだ。


 やがて、決心したようすで、母ヒルダが口をひらいた。


「ねえ、ルビー。あなた、ほんとのところ、ユスタッシュをどう思っているの?」


 あまりにも単刀直入だったため、ユスタッシュがたじろぐ。


「いや、わかっています。ご令嬢は私を思いやって話をあわせてくださったのだ。他意はありませんよ」

「あら、わかりませんわよ。ここは本人に聞いてみませんと」

「いやいや。ヒルダ。ルビーはまだ子どもだよ。十歳なんだよ? いくらなんでも、それはないよ」


 大人たちのやりとりが、ルビーには妙におかしい。


「わたし、このブローチ、気に入ってるわ」


 ルビーが昨夜のブローチを鏡台のひきだしから出してくると、ユスタッシュは複雑そうな顔をする。


「それはもう、あなたのものです。さしあげた品を返せとは言いません。私は昨夜、あなたへのプレゼントを用意していなかった。あなたは私の困った立場に気づいて助けてくださったのですね?」

「ええ、まあ」

「やはり、あなたは思ったとおりの淑女だ」


 ユスタッシュのおもてはますます複雑になる。あのあたたかな微笑を見せながら、一方でどこかさみしげでもある。


「だから、本日は提案に参りました。ブローチはさしあげます。そのかわり、求婚に関しては、あなたから断っていただけますか? あなたの今後のためにも、それが一番だと思うのです」


 日焼けして顔色のわからないユスタッシュを、ルビーは見つめる。


「あなたはわたしを好きなわけじゃないのね?」


 一瞬、ユスタッシュは戸惑って見えた。


「……もちろん、あなたは魅力的ですよ」

「ありがとう。では、お望みどおりお断りいたします」


 ユスタッシュはそのまま一礼し、去っていく。

 なんだか今日の彼はモゴモゴしてばかりで態度が冴えない。昨日とは別人みたいだ。


「ルビー、よかったの? あなたが好きなら、お母さま、反対しないわ。ユスタッシュはあなたの年齢を考慮してるだけよ」


 ルビーはかぶりをふった。


「彼って意外とマジメなのね。なんだか、ガッカリ」


 ルビーの言いぶんに、ヒルダは苦笑した。

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