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■八■

 試合会場と言っても作るのは言われた規格のバリケードを対になるように二つ配置するだけだ。だが、その他諸々の準備などをやっているとそれだけで一時間以上かかってしまった。

「というか、なんでバリケードを俺と篠尾だけで作っていたんだ?」

「……俺が知りたいよ」

 二人は息を切らせながら背中合わせでぐったりとしていた。他のメンバーは雪玉を作ったり、他の準備に勤しんでいたらしく、こちらまで手がまわらなかったらしい。

「さて、体も温まってきたし、はじめましょうか」

 美原はチームで分かれるように促すと三人二組で分かれる。

「それじゃあ再確認よ。一試合一〇分の三〇球制限。一〇分の間にどれだけ相手に雪玉を当てられるかを競い合うのよ。それで雪玉は必ず自チームのバリケードより後ろから投げることと、雪玉は受け止めてもヒットとみなすからね。いい?」

 美原の確認に他のメンバーは頷く。

「えー、審判は俺がするからな。カウントも俺の仕事だ。というわけで、俺がホイッスルを鳴らすと試合開始だ。いいな?」

 それから少しだけ静寂があたりを包み、邑夫がホイッスルを鳴らす。

 雪玉はバリケードより三メートルほど後方に固めて置いてある。まず良二は雪玉のところまで走っていき、雪玉を手に取るとそこから隆奈を狙って投げつける。

 狙われていることを察した隆奈はそそくさとバリケードの後ろへ行き、良二の投げた雪玉をやりすごす。

「篠尾のヤツ、真っ先に俺を狙ってきたな」

 隆奈が悪態をついていると、同時に隣からの圧迫感にも気がつく。

「ちょっと狭いわよ」

 隣には美原が少しはにかんだ表情で落ち着きのない振る舞いをしていた。

「此上先輩、狭いんですけど。このままじゃはみ出しちゃいますよ」

「だったら、もう少しよればいいんじゃない」

 何故か最後のほうになるほど声も小さくなっていく。

 このバリケードの大きさというのが絶妙で、二人が座った状態で寄り添えば、はみ出ないかという幅と高さで設定してある。

 そのため二人でバリケードに隠れるときは体を密着させる必要がある。

(となる、篠尾はひょっとしたら月乃と……)

 密着しているかもしれないと考えてしまうと、ムッとした感情が湧きあがる。そして、雪玉の近くにいる柚梨に「自分にも雪玉を」と催促をする。

 柚梨は親指を立てて、雪玉を何個か足元まで転がしてくる。

「でかした」

 隆奈は雪玉を手にとると投げるためにバリケードを飛びだして、篠尾の姿を探す。

(いた!)

 後方から湊に雪玉を催促する良二の姿を見つけると迷うことなく投げつける。それに気がついた良二もお返しとばかり雪玉を投げてくる。

 互いの投げた雪玉はクロスして、そのまま互いとも顔面に当たる。

「おー、痛そう」

 邑夫が他人事のようにつぶやくのが聞こえた。

「イタタ」

 隆奈は顔をさすりながら、バリケードへ隠れる。

「大丈夫?」

 美原が心配そうに顔を覗きこんでくる。

「何とか、大丈夫です」

 それよりも攻略法だと隆奈は息を巻く。

「いまのは同点になったけど、これからの問題はどちらがポイントを先制するかよ」

 序盤はいつもこんな感じらしい。ゲームが大きく動くのは先取点をとってかららしいのだ。なぜなら先取点をとられたほうは点を取り返す必要が出てくるので、どうしても打って出ていかなければいけない状況に陥るそうなのだ。

「それでいつぞやのときに先取点とったら、籠城を決めこむ人たちがいたんだけどね」

 その対策が雪玉を放物線状に投げて、頭上に雪玉を当てるという戦法が開発された。これならバリケードを越えて攻撃ができる。そして、歴史とは繰り返すものだ。

「痛っ」

「えー、椚チーム先制な」

 邑夫が宣言する。頭上から降ってきた雪玉に当たって、隆奈は頭をさする。間違いなく、あちらが頭上から雪玉を投げてきたのだろう。

「……此上先輩、どうするんですか?」

 美原はチラリと邑夫の隣に置いてある掛け時計の時間を見る。ゲームがはじまって三分。まだまだ序盤である。

(勝負に出るのは早いけど、先取されたらそういうワケにもいかないわよね)

 おそらく籠城を決めこんでも、頭上からの雪玉攻撃に合いジリ貧になるのは目に見えている。ならば打って出るしかない。

「古来より肉を切らせて骨を断つという戦法があるわ。私たちもそれに倣って総攻撃を仕掛けましょう」

 美原が燃えたぎりながら語る。

「どのみち隠れていても、相手に雪玉は当たりませんしね」

 言いたいことはあったが、仕掛けることに関しては賛成だ。

「でも、いま攻撃がやんでるって事は俺たちが出ていくところを待っているってことですよ?」

「ひょっとしたら飛びだした瞬間に二ポイント取られるってことね」

「だったら……」

 隆奈は美原に自分の提案を耳打ちすると、美原もその提案に乗る仕草をする。

「それじゃあ、打ち合わせ通りに」

 隆奈はバリケードから飛び出すと相手の配置を確認する。手前には良二、対角線上には月乃がいる。そしてバリケードよりさらに後方に湊がいた。

 良二は待っていたとばかりに直線上にいる隆奈に雪玉を狙ってくる。距離は五メートルほど離れているものの、良二からすれば当てられない距離ではない。雪玉は隆奈に当たってしまうが、それは計算のうちである。良二の雪玉に当たって、今度は隆奈が月乃に雪玉を投げつける。

 月乃は対角線上にいたため距離は離れており、当てられるかは微妙なところだ。だが、目的はあくまで当てることではなく牽制である。少しでも投げるタイミングをずらせればいいのだ。

 隆奈の投げた雪玉は月乃へ向かって進んでいく。が、それに察した月乃は雪玉を咄嗟に避ける。美原がその間にバリケードを飛びだして、月乃に雪玉を投げる。

 投げた雪玉は見事に月乃にヒットした。

「作戦成功ね!」

 美原がガッツポーズを取る。

 その間に柚梨も雪玉をいくつか抱えながら前へ詰めてくる。

「攻撃的じゃないか」

 良二が不敵な笑みを浮かべる。

「こっちも勝負に負けるつもりはないってことだよ」

「そりゃ俺たちもだ!」

 お互い正面から雪玉を投げ合う。

 それを皮切りに雪玉の応酬が続く。

 そして雪玉もとうとうお互いに一球を残すだけとなった。その最後の雪玉を持っているのは隆奈と良二。

 他の四人はというと、ぐったりとした様子で仰向けに倒れていた。

「何で俺たち以外、倒れているんだ?」

「演出だとよ」

「……そうか」

 隆奈はふと視線を邑夫のほうに向ける。ゲームは何とか一点差をキープしてはいるものの負けている。

 残り玉は一球を残すだけ。状況的に言えば負けるか引き分けにするかの二つに一つしかない。

「とりあえず一ゲーム目は俺たちがもらうぜ」

「そうは行くかよ!」

 二人は最後の一球に全力を注いで投げつけるのであった。


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