■五■
昼休み。隆奈たち一年生は学生食堂で食事をしていた。
「お、今日の日替わりはエビフライかよ」
良二が羨ましそうな視線を隆奈に向けてくる。ちなみに良二はカツ丼の大盛りである。
「やらないぞ」
隆奈は定食を良二から遠ざけながらキッと睨む。
「とらねえよ」
クラスとクラブも一緒なのもあり、隆奈と良二はこうやって食事をよく共にする。ちなみに月乃はクラスが違うので、学校で一緒なのはクラブ活動のときだけだったりする。
「そういや何気に外で活動って珍しいよな?」
良二はカツ丼を口に加えつつも話題を振ってくる。
「雪合戦だろ。案外、室内での遊びが多かったしなぁ」
「そういや、俺たちの活動ってさ……」
二人は古遊技研究会に入ってからの活動内容について思い返す。その内容の大半は昭和に子供たちがやっていた遊びを自分たちも体験するというものだ。
「独楽まわしとか、メンコとかやったよな」
「あー、結構面白かったよな」
隆奈が結構好きだったのは昔から現代の双六の変遷を研究するというものだ。文化祭のときの目玉になった題材でもある。
「それにしても雪合戦とはなぁ。まあ、俺は楽しめそうだからいいけどな」
「篠尾って何だかんだで勝負事が好きだよな」
「勝負は楽しく、勝ったら尚楽しいがモットーだからな」
「そういやそうだったな」
そんな会話をしていると向こうから、美原と柚梨がやってくる。
「二人とも今日は食堂なの?」
柚梨が訊ねてくる。
「今日は食堂で食べようって話をしていたんですよ」
隆奈が答える。
「だったら、一緒しちゃってもいい?」
柚梨がそう言うと美原が非難がましく柚梨を睨む。それを柚梨は「まあまあ」となだめるようにして隆奈の隣に座らせて、柚梨は良二の隣に座った。
「先輩方はいつも食堂なんですか?」
「私たちも今日はたまたまよ。いつもは教室でお弁当」
「俺たちもですよ」
「ところで、菖蒲さんは一緒じゃないの?」
美原があたりを見まわしながら訊ねてくる。
「クラスも違うから、いつも一緒ってワケでもないですよ」
「よく言うわよ。部室にも篠尾君とは一緒に来ないことはあっても、菖蒲さんとはいつも一緒に来てるじゃない」
柚梨は呆れたとばかりの表情を浮かべている。
「……それくらいはいいじゃないですか」
「こっちは見せつけられてるんだけど?」
「そういうのは月乃にも言ってくださいよ」
してやったりの柚梨に隆奈は困ったという表情だ。
「先輩、そういや雪合戦で何かルールはあるんですか?」
そこに良二が話題を変えてくる。わざとかは知らないが、いい間だと隆奈はホッと胸を撫でおろす。
「あるわよ。古遊技研究会のローカルルールだけど」
それに答えたのは美原だった。
「一試合に三〇球の玉制限を設けて、三〇球を投げきるまで相手にどれだけ当てられるかを競うの」
それから補足しておくとコートに広さなどはない。センターラインを設けて、そこから二メートル離れたところにバリケードを設ける。バリケードは幅二メートルの高さは一四〇センチ。
「禁止事項とかはあるんですか?」
「そうねぇ……。雪玉の中に石を仕込んだりとか、あと雪玉を冷凍庫で凍らせてくるってのもあったから、そういうのも禁止ね」
「禁止という以前に危ないですね……」
「だから禁止なのよ」
隆奈がちらりと横を見ると美原は隆奈と同じ日替わり定食。柚梨はきつねうどんである。
「……竹川、どうかした?」
美原がその視線に気づいて聞いてくる。
「いえ、此上先輩も日替わりなんだと思って」
「美原ちゃんって、こう見えて結構食べるわよ。私は食の細いほうだけど」
食が細いというのを柚梨がやけに強調する。
「私からすれば柚梨の食が細いって気もするんだけどね」
「そんなことないと思うけど……」
柚梨がうどんに視線を落とす。
「まあ、さすがに篠尾君みたいに食べないけど」
美原は良二の丼に大きく盛られたカツ丼に視線を落とす。それを見て、少しだけげんなりした様子を見せている。
「昼はこれくらい食べないと身に入らないんですよ」
「私からすると入りすぎって感じだけど……」
「私は美原も十分によく食べるほうだと思うわ」
それについては隆奈も同意であった。日替わり定食はなかなかのボリュームで、女生徒のなかでも頼む人は少ない。
「此上先輩のバイタリティの原動力がようやくわかった気がしますよ」
「よく食べて、よく寝る、よねぇ」
そう言われて美原は不機嫌そうに頬を膨らませるが、それとは対照的に他の三人は笑っている。
こうして四人の昼休みは過ぎていく。