■四■
『雪合戦やるわよ!』
それから部室内では拍手喝采。年に一度、古遊技研究会が最高に盛りあがる瞬間のはず――だった。が、返ってきたのは予想外の反応の薄さで、特に一年生勢は完全に「何それ?」というような表情を浮かべている。
(あ、あれ?)
美原が目をぱちくりさせながら戸惑っていると、すぐ傍の椅子に座っていた柚梨がコホンと咳払いをして美原から自分に視線を移させる。
「雪合戦とは言葉通りよ」
そう言いながら立ちあがって、近くにあった本棚からアルバムを取りだして机の上に広げる。
どうやら、そのアルバムには雪合戦の記録らしく、映っている写真には雪合戦をしている光景が多かった。
「古遊技研究会って、こんなこともしてたんですね」
隆奈は少しだけ感心した素振りを見せながら、アルバムのページをめくっていく。
「古遊技研究会だもの。雪合戦くらいするわ」
古遊技研究会は昔の遊びを記録に基づいて、実際にやってみるという活動内容の部活で、それなりに歴史もある。
「雪合戦というのはわかりましたけど、こんな早朝に集まる意味はあったんですか?」
良二が挙手して質問をすると、美原が答える。
「これは毎年恒例なのよ。早朝に集まってチーム分けして放課後はルールについてのミーティング。で、次の休日にゲームって流れよ」
「休日ってことは明日か明後日ってことですか」
隆奈はカレンダーを見ながらつぶやく。
「そういうこと。それでチーム分けは伝統によるくじ引きよ」
そう言って柚梨は三本の木の棒を取りだす。
「ルールは簡単。学年ごとにこの棒をそれぞれ引いてもらいます。棒には一本だけ先端が赤く塗られているものがあって、赤い棒を引いた人は色が塗ってない他学年の人たちとチームになります」
柚梨は隆奈にくじを引くように促す。「何で俺が最初なんですか?」という抗議を柚梨に向けるが、柚梨は先輩だ。ビクともしていない。
隆奈はため息を一つつき、仕方なしとくじを引く。
「赤い……」
隆奈が引いたのは先端の赤い木の棒だった。
「隆ちゃんと別のチームになっちゃったね~」
月乃はどこか楽しそうだ。
「それじゃあ、次は二年生ね」
柚梨は隆奈から木の棒を取りあげて、三本をよくかきまわして湊の前に差しだす。それも有無を言わさぬ迫力で。
「久方さん、怖いよ……」
「気のせいよ」
柚梨は努めて優しい口調であるが、そこはかとなく押し迫ってくる迫力は完全に殺せはなかった。
湊も迫力に圧されて観念したようにくじをおそるおそる引く。そして、引いたのは先端が赤い棒だった。
これでチーム分けが決まったことになる。隆奈は美原と柚梨のチームになり、湊は良二と月乃のチームである。
(何故だろうか。すごく作為的に感じるくじだ……)
柚梨にふと視線を向けるも彼女に意を介した気配はない。ひょっとしたら気がつかないふりをしているのかもしれないと疑ってしまう。
すると美原も何故か柚梨のことを睨んでいた。察するに彼女がくじに何かをしかけたのは間違いないらしい。
かくして、これで朝のミーティングは特に何もなく終わった。