■三■
廊下を歩いていると顔見知りの後輩が向こうからやってくる。
「椚先輩、おはようございます」
長身でガッチリとした体格が制服の上からでもよくわかる。先輩でありながら華奢で童顔な椚湊とは正反対と言える。
「篠尾くん、おはよう」
湊はその穏やかそうな外見の印象に違わず、穏やかに挨拶を返した。後輩の名前は篠尾良二という。
「今日もよく冷えますね」
「まったくだよ。しかもこの雪は一日中降るって話だからね」
「まだまだ積もるってことですか?」
「うん。そうみたいだね」
「そういや、今日は何でこんな早く集まることになったんです?」
「たぶん、古遊技研究会伝統のイベントのことじゃないかな。まあ、朝早く集まるのは此上さんのはりきりすぎなんだけどね」
「あの人、こういうときのバイタリティは凄いですよね」
それは少し含みのある物言いだった。もっとも彼女を見ていれば、こういう言い方になってしまうのも仕様のないことだと湊は思う。
「まあ、部長を任されたってのもあると思うけどね」
そんなことを話しているうちに部室の前に辿り着く。耳を澄ませると部室の中から話し声が聞こえてきた。
「おはようございまーす」
部室に入ると隆奈と月乃が先に来ていた。湊と良二が部室に入ると、そのあとに続いて美原と柚梨もやってくる。
「どうやら、みんな揃ってるみたいね」
美原はそう言って部員たちを座らせる。そして、黒板まで進んでいきチョークを手に取って何かを書きはじめる。
書き終えた美原はホッと息をついて、黒板に書かれた文字を高らかに読みあげる。
「雪合戦やるわよ!」