■二■
早朝の高校は人もまばらである。だから二年生が一年生の下駄箱にいて不審がられることもない。
(やっぱり二人で来てる)
少女はポニーテールを揺らしながら、その肩を落とす。溌剌とした印象がその少女の魅力なのだろうが、いまは少し元気がなかった。
「美原ちゃん、おはよう」
「……おはよう、柚梨」
意地悪い笑みを浮かべているのは友人にして部活仲間の久方柚梨である。腰まで伸ばしたストレートの長髪に眼鏡をかけた姿が知的に見える少女だ。
「一年生の下駄箱に用事があったの?」
どうせ理由をわかっているうえでの質問なのだろう。意地の悪い女だと心中で悪態をつく。
「……ちゃんと寝坊せずに来たのか確認したのよ」
口から出た言い訳もどうしようもないものだった。そもそもここは彼の靴がしまってある下駄箱ではない。そもそも柚梨は美原がここにいる理由を知っているのだ。だから言い訳自体にも意味はない。要するに彼女は自分の様子を面白がっているだけなのである。
「可愛いわねぇ」
「うるさい……」
美原は柚梨に対して、毒づくと部室へ足を向ける。
「美原ちゃん、待ってー!」
置いて行かれそうになる柚梨は急ぎ足で美原の後を追うのであった。