2話 最強のモンスター、スライム
ヤギの角から作ることのできる道具、それはズバリ角笛である。作り方も単純で、先端部分に穴を空けるだけ。
私は道具を作りながら並行して魔力を素材に込めていくことが多いので、あまり今回はその方法には向いていないかもしれない。
「へぇ、早速魔道具にするんだ。話の流れ的に攻撃系の武器にするの?」
「えぇ。角笛といえば大きな音ですよね? そこで音を魔力で強化し、指向性を持たせて撃つ武器にする予定なんです」
私は具体的なイメージをヘレンに話す。魔道具製作は元となる物のイメージがとても重要で、たとえどんなに優れた魔道具師でも、イメージからかけ離れた魔道具を作ることは不可能だ。
だからこうして事前にイメージを整えておくということは結構大事だったりするのだ。さもなくば、自分の理想とは全く異なったものが完成してしまう可能性もある。
私は角に穴を空けると、そこを始点として魔力を角全体に流していく。ただ流すわけではなく、角に魔力を刻み込んでいくように。
角は鼓動を打つかのように魔力によって光をリズムよく放ち、その光は角の端まで届く。魔道具の完成は近い。
「仕上げと行きましょうか」
私は魔力の出力を下げ、角全体を優しく魔力でコーティングする。これで完成だ。
「よし、できました。ヘレンさん使ってみますか?」
「え、良いの!? やったー!」
私が出来上がった魔道具をヘレンに渡すと、彼女は大喜びして飛び跳ねていた。よほど嬉しかったのだろう。
「見た目通り、口に咥えて吹いて使います。上手く作れていれば音の砲弾が発射できるはずでく」
「へー、じゃあそうだな……あの子に試してみるか!」
ヘレンがそう言って指差したのは1匹の大きなスライム。相手はまだこちらに気づいていないようで、その可愛らしい瞳を木の上の方に向けていた。
「えっちょっとそれはまず——」
プォォォォォ!!
私の静止は間に合わず、角笛からかん高い音が鳴り響きスライムにその衝撃が直撃する。
しかしその衝撃をスライムは完全に吸収しきると、こちらに目掛けてその衝撃を跳ね返してきた。
「うわぁぁぁ!?」
私達は勢いよく地面に投げ出され、転がって土埃にまみれてしまった。
「な、なんでよりにもよってスライムなんかに喧嘩売ったんですか!? 最強のモンスターですよ!?」
「え、えぇ!? スライム可愛いしこっち襲ってくること基本ないじゃん!」
ヘレンは目と口を大きく開けてそう返す。どうやら全く知らなかったらしい。
「それは私達人間を襲わずとも生きていけるからです! と、とにかくまずい、早くこの鞄を隠さないと!」
私は咄嗟に鞄をヘレンに渡すと、1人でスライムの元へと突っ込んでいった。
スライムは怒っているようで、その可愛らしい顔でこちらを睨みつけていた。
「な、何をやって……」
「スライムは物体が持つ魔力を吸収する能力があります、一言でいえば私の天敵です!」
もし私の鞄がスライムに捕まれば、私の魔道具は大半が破壊されてしまう。
だから私が囮になるしか方法がないのだ。とても嫌なんですけど!
スライムは見た目によらぬ素早さで私を瞬時に捕獲し、魔力を吸おうと体を緑色に光らせた。
「うぅ……ベトベトします」
私は諦め半分で抵抗するも、スライムの粘着力は凄まじく全く逃れようがなかった。
「大丈夫!? 今助け——」
「近づいちゃダメです! 2人とも取り込まれたら半日ぐらいずっと魔力吸われますよ!?」
私は食い気味に彼女を静止させる。今全滅すれば打つ手はない。
「じゃあどうすれば!」
「こいつの弱点は属性魔法、ただそれだけです! 斬撃も一応有効ですが斬った分だけ分裂します!」
私はスライムについて簡単に説明する。倒すだけならこれで十分だ。
「そんなインチキな力持ってるのこいつ!? ね、ねえ、一応聞くけど服だけ溶かす力とか……」
「ぶっ殺されたいんですか!? あるわけないでしょう!!」
顔を赤らめて尋ねるヘレンに対し、私は怒って暴言を吐く。こんな時まで頭をピンクにしないでほしい。
「ご、ごめん。でもこの状況でスライムに攻撃したらテイラーちゃんにも当たっちゃうんじゃ……」
「そこは安心してください、トドメは私が刺します! ヘレンさんはこいつをぶった斬り続けて動きを止めてください!」
私はスライムに絡まれながらも首を横に振る。ヘレンは心配そうに私を見ていたが、決心がついたのかこくりと頷いた。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
ヘレンが私を避けるようにしてスライムをハルバードで斬り続ける。私はその間に魔力を左手に集中させ、魔法を撃つ体制に入った。
「く、うぅぅぅ」
スライムも異変に気付き左手の魔力を吸おうとするが、私は主導権を渡すまいと必死に堪える。ヘレンが斬り続けてくれていなければ一瞬で持ってかれていただろう。
「よし、今です! アイスバーン!」
私は周りに冷気を撒き散らし、スライムを凍らせていく。
冷気による白いモヤがなくなった時、スライムは完全に凍りついていて、私は簡単に脱出することができた。
「ふぅ、お疲れ様でしたヘレンさん。オルクスの街まではまだそれなりにありますし、少し休憩しましょう」
私はそう言って近くにあった石の上に座り、鞄をヘレンから受け取り横に置いた。
「う、う……ん」
ヘレンはハルバートを振り回しすぎてすっかりくたびれてしまったようで、倒れ込むように私の膝に滑り込んだ。
「……どさくさに紛れて膝枕ですか。まあ今回は助かりましたし許すとしましょう」
元はといえばヘレンがスライムに攻撃をしたのが原因なのだが、私はすっかりそれを忘れてヘレンを膝枕し、ゆっくりと目を閉じた。
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