初めての光魔法
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淡く輝く光が、シルヴィアの掌の上に集まり出したかと思うと、次第にその輝きが強くなり、球形を帯び始めた。シルヴィアは、手の上に浮かび上がった眩い光の玉を眺めながら、しばし言葉を失っていた。
(これが、光魔法……)
アルバートは、シルヴィアの手の上で明るく輝く白い光を見つめると、彼女の手に添えていた自らの手をそっと離し、その口元を綻ばせた。
「……素晴らしいな」
シルヴィアは、温かなエネルギーを感じる光の玉からアルバートに視線を移すと、彼に尋ねた。
「本当ですか? 私、アルバート様の言う通りにできているでしょうか」
「ああ、想像以上にね。シルヴィア、これは光魔法の基礎となる力の集め方だよ。君はとても筋がいい。君自身も、力を上手く乗せられている感覚があるんじゃないかな?」
「はい、アルバート様の仰る通りです。火魔法を使っていた時とは、手応えが全然違うというか……しっくり来るような感じがします」
シルヴィア自身、初めて光魔法を使ったとは思えないほどに、まるで息を吸って吐くように、信じられないほど簡単に魔法が使えたことに、とても驚いていた。火魔法を使う時には、いつもどこかままならないようなもどかしさを感じていたのに対して、光魔法は、自分の思い通りに力が形になる感覚があった。
アルバートは、嬉しそうにシルヴィアを見て目を細めた。
「君が今まで、並々ならぬ努力で火魔法にも取り組んで来たことが、よくわかるよ。光魔法と火魔法は、力の使い方自体はまったくの別物だが、魔法に対する取り組み方のセンスは、火魔法の練習を通じても磨かれてきたのだろう。苦労もしたのだろうが、よく頑張ってきたね」
シルヴィアは、アルバートの言葉に、思わず瞳が潤むのを感じた。火魔法に苦心して取り組んで来たシルヴィアのことを、このように認めて、褒めてくれたのは、アルバートだけだった。
火魔法のクラスでは、シルヴィアはどうにか進級はできたものの、たいした成果は残せずに、火魔法の教授の視界には入らなかったし、一番近くで火魔法の練習に付き合ってくれたランダルにさえも、一度たりとも褒められた記憶はなかった。それならぎりぎり及第点かな、という言葉がランダルの口から聞けると、シルヴィアはようやくほっとしたものだった。シルヴィアは、それは自分の才能が足りないから、仕方のないことなのだと思っていたけれど、それまで無意識に抱え込んでいた、どれだけ必死に頑張っても報われない努力に対して、胸の奥に燻っていた辛い気持ちが、アルバートの温かな言葉ですうっと溶かされ、胸が軽くなるような心地がしていた。
シルヴィアは、感謝を込めてアルバートを見つめた。
「アルバート様、ありがとうございます。それに、アルバート様の説明がとてもお上手でしたので、そのお蔭で感覚的に理解できました」
アルバートの言葉は簡潔でありつつも、シルヴィアには彼の意図するところが手に取るように伝わって来た。
「それならよかった。俺も、君の初めての光魔法の成功を見ることができて、嬉しいよ」
(アルバート様は、才能もお人柄も素晴らしい方だわ。彼に教わることができるなんて、私は本当に幸運ね)
素晴らしい師を得たことを、シルヴィアが天に感謝していると、アルバートは彼女に優しく微笑み掛けた。
「君の今後の成長も、とても楽しみだな」
「……!」
アルバートが、シルヴィアの至近距離で、見惚れるほどに美麗な笑みを浮かべたために、シルヴィアは眩暈がしそうになった。アルバートに鼓動が聞こえてしまわないかと心配になるほどに、胸が跳ねる。
(アルバート様、お美し過ぎるのだもの。光魔法を学ぶのに、私の心臓が持つのかどうかも心配になってきたわ……)
シルヴィアが、すっかり赤くなっているであろう頬をアルバートに気付かれないことを願いながら、心の中でそう呟いた時、教室の扉が開く音がして、シルヴィアの元に明るい声が飛んで来た。
「うわあっ、凄いね! 温かくて綺麗な、強い光。……さすがだなあ」
シルヴィアが声の主を振り向くと、楽しげに笑う緑の瞳と目が合った。