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クラスメイト

誤字報告をありがとうございます、修正しております。

 シルヴィアが振り向いた先には、にこにこと笑うユーリの姿があった。


「上手だね、シルヴィ。まだ光魔法の初心者だなんて、とても思えないよ」

「あら、ユーリ様?」


 ユーリの姿に目を瞠ったシルヴィアと、アルバートが顔を見合わせた。アルバートは、ユーリとシルヴィアを順番に眺めながら口を開いた。


「おや、君たちはもう知り合いだったのかい?」

「うん! というか、さっき、僕がシルヴィに助けてもらったの。

ちょっと、新しく試してみた光魔法の練習で失敗しちゃってさ。危うく、空から落ちて、首の骨でも折るかと思ったよ」


 アルバートが、ユーリを見つめて一つ溜息を吐いた。


「ユーリ王子、君の光魔法は破壊力が格段に強いから、扱いには十分に気を付けるようにと、あれほど言ったのに」

「では、この学校の、もう一人の光魔法の使い手というのは……」


 シルヴィアの言葉に、ユーリがにっこりと答えた。


「そう! 僕だよ。さっき、また後でねって、僕シルヴィに言ったでしょう?」

「ユーリ様は、どうして私が光魔法の使い手だとわかったのですか?」

「だってさ、さっきシルヴィが僕を抱き留めて助けてくれた時、何だか僕の身体が温かくなって、痛みが消えたもの。多分あれは、光の精霊の加護持ちにしか使えない回復魔法の、変形版みたいなものじゃないかな。シルヴィ自身は気付いてなかったのかもしれないけど……」


 シルヴィアは、アルバートが先程口にしていた、無自覚に光魔法を発動することがあるようだという言葉を思い出していた。シルヴィア自身にも自覚がないことを、目の前の二人は既に光魔法の結果として把握していることに、シルヴィアは舌を巻いていた。


 アルバートが膝を曲げて、ユーリと目線の高さを合わせた。


「今後、新しい光魔法を使う時には、俺のいる前で練習するようにして欲しい。君の魔力がいくら優れているとはいえ、まだ学ばなければならないことも多いからな」

「はーい、アル!」

「ユーリ王子、ここは学校だよ?」

「……じゃなかった、アルバート先生」


 目の前の二人のやり取りに、シルヴィアはきょとんとして目を瞬いていた。


(ユーリ様、アルバート様をアル呼びって……?)


 アルバートは微かに苦笑して、シルヴィアを見つめた。


「ユーリ王子と俺は、付き合いが長いんだ。俺は、ユーリ王子がまだ赤ん坊の頃から知っているからね」

「クレイス公爵家は、王家の遠縁にも当たって、お互い縁が深いんだよ。だから、アル……バート先生は、昔から兄みたいな感覚なんだ」

「そうでしたか。お二人は、古くからのお知り合いだったのですね」

「ああ。それから、ユーリ王子は、この魔法学校の通常の入学年齢と比べたら随分と若いが、抜群に優れた魔力が認められて、飛び級でここに入学しているんだよ」


(飛び級するほど優れた魔力持ちの、このデナリス王国の末の王子のユーリ様に、光魔法の稀代の使い手と言われる、王家の遠縁にも当たるクレイス公爵家のアルバート様。私は、何て高貴な方たちと学ばせていただくことになったのかしら……)


 あまりに自分だけが場違いな気がして、シルヴィアが少し小さくなっていると、まるでシルヴィアの心の内に気付いたかのように、ユーリがシルヴィアに駆け寄って来た。


「シルヴィは僕の恩人な上に、たった一人の大事なクラスメイトなんだからね! 改めて、これからよろしくね、シルヴィ」

「こちらこそ、これからよろしくお願いします、ユーリ様」


 あどけなさたっぷりの笑顔を浮かべるユーリのあまりの可愛らしさに、シルヴィアは彼のふわふわとした金髪を撫でたい衝動に駆られたけれど、さすがに王子には失礼かと思ってぐっと堪えた。代わりに、シルヴィアは、少し屈んでユーリと視線を合わせ、集中していた意識を解いて光の玉を消した掌で、彼から差し出された小さな手を握り返した。


 ちょうどその時、ユーリのお腹から、きゅるきゅると高い音が聞こえてきた。ユーリが恥ずかしそうに、頬を赤らめる。


「僕、つい光魔法の練習に夢中になって、お昼を食べ損ねちゃったんだ。……いったんお昼を食べてから、また戻って来てもいいかな、アルバート先生?」

「構わないよ。あまり空腹のまま魔法を使って、集中力を乱す方が良くないからな」


 シルヴィアも、そう言えばと、学校長に呼び出される前に食欲のないまま昼食を抜いてしまったことを思い出したら、急に空腹感を覚え始めた。


「……すみません、アルバート様。実は、私も今日はまだ昼食を摂っていないのですが、簡単に空腹を満たしてきてもよろしいでしょうか? 大変申し訳ないのですが、急いで戻りますので……」


 アルバートはくすりと笑うと、シルヴィアとユーリに向かって口を開いた。


「では、皆でいったん休憩にしようか。食堂に行くかい?」

「うん! 行こう行こう」

「ありがとうございます。この時間なら、ちょうど空いてきた頃合いかもしれませんね」


 和やかな空気になった三人は、揃って食堂へと向かって歩き出した。


***


(……あれは、シルヴィ? どうして、あのアルバートと一緒に? もう一人いる少年は、ユーリ王子だろうか……)


 アルバートとユーリと一緒に食堂に入って行くシルヴィアに気付いて、目を瞠った人影があった。


「どうした? ランダル。そんなに驚いた顔をして」

「……少し用事ができた。先に教室に戻っていてくれ」

「ああ、わかったよ」


 ランダルは一緒にいた友人にそう告げると、にこやかな笑顔のシルヴィアを呆然として見つめた。


(そろそろ僕に泣きついて来る頃かと思っていたのに、あの明るいシルヴィの顔は何なんだ? ……それに、シルヴィはなぜ、あれほど身分違いの二人といるんだ。僕以外の人間に向かって、あれほど親しげな笑みを浮かべているなんて……)


 ランダルは、唇をぎゅっと噛むと、シルヴィアの後ろ姿を暗い眼差しで眺めた。


「何だか、嫌な予感がするな」


 小さくそう呟いたランダルは、シルヴィアたちの後を追うようにして、食堂へと急ぎ足で向かって行った。

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