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9.ブルーレの森②

「そう言えば、魔力が少ないって言ってたけど、大丈夫なのか?」

 しばらく癒しの雨を降らせた場所を眺めていたカーティスは、はっとしたようにルリエルの方を振り返った。


 魔法使いは完全に魔力切れを起こすと倒れる人もいるし、倒れないまでも、凄い倦怠感に襲われる。


「これ以上は無理ですね」

 ルリエルは一回使っただけで限界なんて本当に少ないなと苦笑いした。


 魔法師団長の前で私のしょぼい魔法を使うつもりはなかったけど、ラグラン団長があまりにも失敗したなって顔をしてたから、つい使ってしまった。



「これだけ無駄のない緻密な魔法が使えたら、十分だと思うよ。魔力量の少ない中、相当努力したんだと分かる」


 カーティスのいかにも感心したような声音にルリエルは目を瞬かせた。


 魔法学園では規定値ぎりぎりの魔力の少ない私はいつも落ちこぼれだった。

 魔法学園では派手な魔法を使える魔力量が豊富な人がヒーローだし、ヒロインだった。

 少ない魔力で最大限の魔法を使えるように理論も構築も人一倍勉強した。

 座学がトップでも、魔力が少ないくせにそんなに勉強してどうするんだって嘲笑われていた。

 それでもずっとトップを守ったのはただの意地だ。誰に認められることはなくても。


 それなのに、今になって魔法師団長に今までの努力が認めてもらえるとは思わなかった。



 びっくりして黙り込んでいるルリエルを体調が悪いと思ったのか、カーティスは慌てて空間収納から瓶を一本取り出した。


「これ、飲んでおくといい。魔法師団の魔力回復ポーションだ」

 差し出された10センチほどの小さな瓶には淡い水色の液体が入っている。


「えっ、そんなのもらえませんよ」

 私のしょぼい魔力回復の為に魔法師団のポーションを使うなんて、勿体なさすぎる。


 ブンブンと首を振るルリエルに

「予備はたくさんあるから大丈夫だ」

 無理矢理ポーションの瓶を押し付けた。


「途中で倒れられても困る」


 そう言われると受け取らざる得ない。

 倒れるとは思わないけど、元の魔力が100なら今は10あるかどうか。余力があると言えるほどはない。


「じゃあ、遠慮なく頂きます」

 瓶の蓋を開けて、一気に飲み干した。


 ほんのり甘みのあるポーションはすぐに効いてきた。

 減っていた魔力がみるみる満ち足りて来るのが分かる。


「さすが魔法師団のポーションですね。すっかり元通りです」

 ルリエルは効き目のいいポーションに目を輝かせるのを見て、カーティスは口元を緩ませた。


「そうか。それはよかった。一応、少し休憩してから戻るか。確かこの近くに川があったはずだ」

 カーティスは薬草の群生地の手前に繋いでいた馬を引いて来た。

 ブルーレの森は魔法師団で定期的に魔獣討伐に訪れているからか、迷いなく歩き出すカーティスの後をついて行くと、それほど川幅の広くない小川という感じの綺麗な水が流れる場所に出た。


 馬がその川の水を飲んでいるのを見ながら、川辺にある大きくて平たい石の上に二人並んで座った。


「食べるか?」

 カーティスが空間収納からお店の包装紙に包まれたサンドイッチを取り出した。

「食べ物も入ってるんですね」

「空間収納に入れてれば、時間止まってるから便利なんだ。急な討伐に出ることもあるし」

 サンドイッチをルリエルに手渡すとコップにお茶を注いだ。

「何から何までありがとうございます」


 お昼を過ぎた頃で、お腹が空いてきていたルリエルは折角用意してもらったこともあり、ありがたく頂くことにした。


「急に出てきちゃったんで、何も用意してなくてすみません」

 サンドイッチを手にしつつ、ルリエルが頭を下げると

「いや、俺がちょっと強引に連れ出したからな」

 カーティスは苦笑いした。


「ギルドの職員は俺が魔法師団長だと知っているんだが、あそこに来てる連中には明かしてないんだ。連中には割と仲間内だけでやり取りしてる情報があるんだ。王宮まで届く情報は一部でしかない。だから、敢えてあそこでは素性を明かさずにいる」

「情報収集…やっぱり、今日仕事でした?」

「ん?いや休みだ」

「えー、それは仕事ですよね?」

「休日だから好きにしてる」

 カーティスの何一つ疑問に思ってなさそうな顔を見て、ルリエルは顔が引き攣った。


 心底仕事人間は休みでも、ナチュラルに仕事してるのね。

 仕事が趣味なの?

 書類仕事以外は仕事を仕事と認識してないとか?

 確かに書類を溜め込んでた時と違って、顔色も悪くないけど。


 ルリエルはサンドイッチを齧りつつ、チラリと隣に座るカーティスを見た。

 サンドイッチをさっさと食べ終えていたカーティスはサラサラと流れる川面を穏やかに眺めている。

 柔らかな風が艶やかな黒髪を揺らしている。


 こうして見ると、やっぱりラグラン団長って格好いいわよね。


 カーティスは視線を感じたのか、ルリエルの方を見ると

「どうかしたか?」

 首を傾げた。


「んっ!?」

 格好いいなんて考えていた瞬間だっただけに、最後の一口のサンドイッチを喉に詰まらせてしまった。

 慌ててお茶を飲んで、流し込む。


「大丈夫か?」

 何とか飲み込み、落ち着いたところを覗き込まれて思わず悲鳴をあげそうになる。


「だっ大丈夫です。そろそろ戻りましょうか」

 慌てて立ち上がった。

「そうだな。まだ魔獣の気配もあるし、戻った方がいいな」

 コップを空間収納に突っ込むとカーティスも立ち上がり、馬を引いて歩き出した。



 その後、ルリエルは帰りの馬の二人乗りにまた精神をガリガリと削られて、寮に戻った頃にはぐったりとして休日なのに全く休んだ気がしなかった。


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