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7.道中

「ルリエルはいつもポーション作って売ってるのか?」

 横を歩いているカーティスは金色の瞳を興味津々といった感じで輝かせてルリエルを見ていた。


「魔法学園で作り方を習ってから、ずっと作って売ってます」

 もう色々とバレているので、素直に頷いた。


「まさかラグラン団長が購入するだなんて思ってもいなくて」

 ルリエルはちょっと恨めしそうに背の高いカーティスの楽しそうに笑った顔を見る。

 ポーションは既にカーティスの空間収納に収まっている。


「ギルド職員お墨付きなんだから、もっと自信を持ったらどうだ」

「魔法師団の物と比べたら足元にも及びませんよ」

「ん?どうしてそう思うんだ?」

「どうしてって言われても…魔力が少ないから?」

 ルリエルは自信なさそうに首を傾げた。

 実際に魔法師団の使用しているポーションなんて見たこともない。

 だけど、魔法師団が使うような物なら、素人の自分が作る物より上質だと思っている。


「量は関係ない。回復魔法との相性と質とどれだけ繊細に魔力を込められるかだ。魔法学園でならっただろう」

 ちょっと呆れたように言われて、気まずそうに視線を逸らせた。

「理屈では分かってるんですけど、自分のこととなるとよく分からないんですよね」


「まぁ、ポーションに明確なランク分けがある訳じゃないしな。ところでルリエルは何でポーションで小遣い稼ぎしてるんだ?文官の給料は結構いいはずだけど。それとも趣味なのか?」

 不思議そうな顔で見るカーティスには他意はなさそうだ。


「趣味と実益を兼ねてですね。我が家は貧乏なんですよ」

 何でこんな恥ずかしい話をしてるのかなと遠い目になった。


 ティールストン子爵家が貧乏なのは、多くの人が知っていることなので、隠すようなことではないんだけど。

 とは言っても、あんまり突っ込まれたくない話ではある。


「ルリエルは子爵令嬢じゃなかったか?」

 カーティスが首を傾げた。


「それは知ってたんですね」

 文官として、役立つかどうかしか興味がないのかと思っていたから、少し意外だ。


「貴族と言っても名ばかりなんですよ」

 ルリエルが苦笑いすると、カーティスは気まずそうに目線を逸らした。

「その、悪かったな。立ち入ったことを訊いて」


「いえ、ティールストン家が貧乏なのは、知ってる人は知ってる話だし、かわいい弟と妹のために私が好きで働いているので、お気遣いなく」

 ルリエルは申し訳なさそうにしているカーティスが少しおかしくなって、笑ってしまった。



「あの、馬って一頭ですよね?」

 ルリエルは繋がれている一頭の栗毛の馬を見て、今更ながらに気づいてしまった。


「そうだな。心配しなくてもルリエルは一緒に乗せてく」

 馬を引きながらカーティスが大丈夫だと頷く。


 いや、違うから!

 そんな心配はしてないから!

 ラグラン団長と一緒に馬に乗るだなんて…!


「ほら、早く」

 先に馬に乗ったカーティスがルリエルに手を差し伸べた。


 ルリエルはカーティスの手と顔に何往復か視線を行き来させた後、えいっとばかりに思い切ってその手を取った。


 思った以上に力強く持ち上げられて、すんなりと馬上でカーティスに抱えられるように収まった。


「最初はゆっくり行くから」

 身体を固くしているルリエルを気を遣ってか、馬はゆっくりと歩き出した。


 実のところ、ルリエルは田舎育ちの令嬢なので、自分で馬に乗れるし、それは全く怖くはなかった。


 だが、男性と馬に乗るなんて事は幼い頃に父親と乗って以来だ。

 背中に硬い胸板を感じて緊張して身体を固くしていたに過ぎなかった。


 今日は天気がよくて、よかった。

 薬草採取日和ね。


 護衛付きで薬草採取に行くのは初めてじゃないけど、馬の相乗りは初めてよね。

 いつもなら、森の近くまで乗合の馬車に乗って、あとは徒歩で森に入っていくんだけど…

 なんでこうなったのかしら?


 ラグラン団長って痩せて見えるのに意外と逞しい…

 あっ、でも、魔獣の討伐に行ってるくらいだから、鍛えてるのかな。

 魔法が使えるとはいえ、それだけで対処出来るとは限らないから、体力は必要か。


 私だって、貴族令嬢の端くれ。

 男の人とこんなに密着したことない。

 暖かくて、安心できるような…


 はっ!

 安心って何!?

 一緒に馬に乗るのに、仕方なくだから!



 ルリエルはあちこちに思考を飛ばしながら、襲いくる羞恥と闘っていた。

 自分でも、顔が赤くなっている自覚がある。

 馬に乗っている間はカーティスに顔を見られないのだけが救いだった。



「いつも薬草取りに行く時は護衛を雇ってるのか?」

 耳元近くで話しかけられて、ルリエルは

「ヒィっ」

 と声が出そうになるのをなんとか堪えた。


 後ろから話しかけないでー


「魔獣が頻出してない時は護衛は無しですよ。お金かかるし」

 ちょっと息を吐いてから、なんとか普通の声を出す。


「それはそれで危ない気もするが、護衛と二人きりなのも危ないんじゃないか」

「?流石に弱過ぎる人は雇いませんよ。ちゃんと、ギルドで推薦してもらった人だけです」

「そう言う意味じゃないんだけど…」

「え?なんて言ったんですか?」


 ゆっくり走らせているとはいえ、馬上なので、小さな声だと聞こえ辛い。


「いや、なんでもない。もうちょっと早く走らせても大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。私、領地では馬に乗ってたんで」

 そうしてもらった方がルリエルも助かる。

 主に精神面で。

 このままゆっくり行くと、精神がどんどん削られる。


「そうなのか。王都では女性で乗馬する人は少ないけど」

「ティールストンの領地では馬車が走れる道は限られているんで、必須なんですよ」

「なるほど。じゃあ、もう少しスピードを上げるぞ」

 ルリエルが頷くと、馬がスピードを少し上げた。

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