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6.ギルドにて

「サーシャさん、こんにちは」

 ルリエルはカウンターの中にいる若い女性に声をかけた。


「こんにちは。今日もポーションの納入?」

 ギルドの買取受付のカウンターにいたサーシャがルリエルを見て、笑顔になった。

 毎週、ポーションを売りに来るルリエルはギルド職員のサーシャと顔見知りだ。


「うん。今日もよろしくお願いします」

 ルリエルは瓶が割れないように保護魔法をかけた鞄に入れて運んできた二十本のポーションをカウンターに置いた。

 一日三本、一週間で二十一本出来るが、残る一本は作れなかった時の予備にしている。

 だから、毎週二十本売りにきてるのだ。


「えーと、二十本ですね」

 サーシャがポーションの瓶の数を数えて代金を差し出した。


「ありがとう」

 ポーションの代金を受け取り鞄に仕舞う。


「ルリエルさんのポーションは人気で、出すとすぐに売れちゃうのよ」

「そうなんですか?だったら嬉しいわ」

 サーシャの言葉にルリエルの顔が綻んだ。


 そう言えば、翌週にポーションを売りに来た時に前に納入した分が売っているのを見たことがない。


「もっとたくさん作れたらよかったんだけど」

 ルリエルは残念そうに、苦笑いした。



「ところで、そろそろ材料の薬草を取りに行かなきゃいけないんだけど、ブルーレの森の魔獣は今どんな感じですか?」


 ルリエルは王都の南に位置するブルーレの森にいつもポーションの材料になる薬草を取りに行っているが、魔獣が頻出している時には、魔力が少なくて戦闘能力が低いことから護衛を頼むか薬草採取の依頼を出さないと危険なのだ。 


「魔法師団が討伐はしてくれたんだけど、まだ目撃情報は結構多いわね。そこまで強いやつではないけど、護衛はつけた方がいいと思うわ」

 サーシャの残念なお知らせにルリエルの表情が曇った。


 護衛を雇うのはお金がかかるし、依頼を出すと薬草の単価が意外と高い。


 生活費が減っちゃうけど、安全には変えられないかぁ…

 薬草はまとめて欲しいから、護衛を頼んだ方が安いかな。


「じゃあ、護衛の依頼を出した方がいいかな」


「ルリエル?」

 考えているところに聞き覚えのある声が背後から突然聞こえて、肩が跳ねた。


 え?この声は…まさか…


「んげっ」

 あまりに驚きすぎて、変な声が漏れてしまった。


 恐る恐る振り返った先にいたのは、簡素なシャツにズボンを履いたカーティスだった。


 なんでこんなとこに魔法師団長が!?


「あら、カーティスさん、お久しぶり。ルリエルさんとお知り合い?」

 ルリエルの内心の混乱振りを知ってか知らずか、サーシャはルリエルとカーティスを見比べて、首を傾げた。


 ルリエルはサーシャに王宮で文官として働いていることは言っていない。

 学生の内からギルドに通っているから、敢えて言う必要がなかったからだが、普通より給料のいい文官になってもまだポーションを売りに来て生活費を稼いでいるので何となく言い辛い。



 サーシャさんが団長の名前を知ってるってことは、ギルドの常連ってこと?

 それとも、魔法師団長って知ってて、敢えて団長呼びしてないってこと?


「まぁ、ちょっと」

 カーティスの口調は歯切れ悪く、気まずそうな顔をした。


 ん?私たちが魔法師団で職場が一緒ってことは言わない方がいいの?


 正解が解らないものの、取り敢えず一応、挨拶をしようと口を開きかけると

「それは回復ポーションか?」

 カーティスの視線はカウンターにまだ置きっ放しになっているルリエルが持ち込んだポーションに向かっていた。


「そうですよ。ルリエルさんのポーションは効き目がいいって評判ですよ。一本如何ですか?」

 ルリエルが口を開く前にサーシャがカーティスにポーションを売り込んでしまった。


 サーシャに小さく首を振って、止めて欲しいアピールをしたが、既に時遅し。

「そうなんだ。じゃあ、一本貰おうかな」


 カーティスがお金を払ってポーションを購入してしまった。


 別に副業は禁止されている訳ではないけど、目の前で魔法師団長に購入されるなんてすごく気不味い。


 きょときょとと視線を彷徨わせて挙動不審のルリエルにサーシャがにこにこととんでもない提案をしてきた。


「護衛の依頼を出すなら、知り合いみたいだし、カーティスさんにお願いしてみたら?」

「!?」

 ルリエルが慌ててぶんぶんと首を振る。


 無理無理無理!!

 魔法師団長が薬草採取の護衛なんて有り得ないから!


「護衛?」

「いえ!いいです!気にしないで下さい」

 怪訝そうなカーティスに食い気味に否定する。


「でもブルーレの森に行くなら護衛はいた方がいいわ」

 サーシャは心配そうに眉尻を下げた。

「いえ、護衛はちゃんと依頼を出すのでご心配なく」


「ブルーレの森に行くのか?」

 笑顔を引き攣らせながらサーシャを宥めていると、カーティスが横から声をかけてきた。


「薬草を採取しに少し」

 ここまで知られてしまったから、仕方ない。


「ポーションの材料か。でも、ブルーレの森は確かに今は魔獣の目撃情報が多い。付き合ってやってもいいぞ」

「え?いやでもだん」

「さぁ、じゃあ行こうか」

 カーティスがルリエルの言葉を遮るように言うと、戸惑うルリエルの手を掴みギルドの外まで引っ張って行くのをサーシャが笑顔で見送った。




「お互い訊きたいことがあると思うけど、ブルーレの森に行くならのんびりしていられないし、近くに馬を置いてきているからそこまで歩きながら話そうか」

「え?本当に護衛する気ですか」

 さっさと歩き出したカーティスを慌てて追いかけた。


「元々ギルドで冒険者たちに最近のブルーレの森について聞くつもりだったから、実際見に行けばそれで事足りる」

 カーティスが足を止めて振り向いた。


「それにルリエルは護衛が必要なんだろう。書類仕事では世話になったし、それくらいは構わない」

「ラグラン団長は仕事中なんですか?」

 今日は休みだと思ってたけど、情報収集してるってことは仕事中なんだろう。

 仕事中に私の薬草採取に付き合わせるなんて申し訳なさすぎるし、団長自らに護衛させるなんて恐れ多過ぎる。


「仕事中ではないな。ちょっと気になったから様子を聞こうと思っただけだ。王宮に連絡が上がって来るには時間がかかるし、全ての情報が流れて来る訳じゃない。何気ない雑談に大事なことが隠れてることがあるんだ」


 それは仕事では?

 言いたいのを飲み込んだ。

 真面目なラグラン団長は知ってしまった以上、護衛が必要な森に部下一人で行かせるなんてできないんだろう。


「ご面倒をお掛けしますが、よろしくお願いします」

 魔法師団長を護衛にしてしまうのには不安が残るが、もしかしたら、団長の魔法を間近に見られるのかとルリエルはこっそり少し期待に胸を膨らませた。


「おお、任せておけ」

 カーティスは機嫌良さそうに笑顔を浮かべた。




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