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3.ラグラン団長って

 ルリエルはいつもより一時間以上の遅くなってからの帰宅に、ため息をついた。


 ルリエルは王宮の女子寮に入っているので、仕事場からは近いのだが、今日は魔法師団で仕事した後、財務部長と話して、財務部のデスクを片付けていたので遅くなってしまったのだ。


「ポーションどうしようかな」

 ルリエルは部屋の一角に置いてある回復ポーションを作るための材料を眺めて、暫し考える。


 毎日、三つは作りたいのよね。


 魔力を込めて作るので、魔力の量がそんなに多くないルリエルは、翌日に疲れを残さないために余力を残す意味で三つが限度なのだ。

 それを休みの日に纏めてギルドに売りに行って、お小遣い稼ぎをしている。給料の大半を仕送りしているので、ポーションでの稼ぎはルリエルにとって大事な生活費となっている。


 んー

 時間は遅くなったけど、稼ぎが減るのは困る。


「やっぱり作ろう」

 ルリエルは材料の薬草を取り出して、魔法で混ぜ合わせて練り上げていく。

 最後に治癒の魔力を込めたら、出来上がりだ。


 このポーションは魔力のある人ならば魔力を少し回復し、体力を少し回復する。そして、ちょっとした怪我なら治癒することができる。

 ルリエルが作るポーションはなかなか出来がいいらしく、そこそこいい値段で売れる。


 王立魔法学園に通っていた時にポーションの作り方を学んでから、ずっと作り続けていて、今では込める魔力を最小に、最大限に効果を出せるようになっていた。


 魔力が少ないのは残念だったけど、使えるだけで少しは稼げるし、よかったと思わないとね。


 ルリエルは出来上がったポーションを満足げに眺めた。





 カリカリカリ…

 ペラペラペラ…


 ペンを走らせる音と紙を捲る音だけが魔法師団長の執務室に響いていた。


 ルリエルが顔を上げてチラリとカーティスを見た。


 少し眉間に皺を寄せながら、書類を見てはペンを走らせる。


 今日は副団長のキールが別の仕事があるということで、執務室は二人きりだ。

 尤もキールの執務室は隣にあって、昨日はあまりに溜まった仕事を手伝っていたに過ぎなかったらしい。


 昨日はかなり草臥れた様子だったカーティスだったが、早く帰って、十分休んだのか、昨日には色濃くあった目の下の隈が薄くなっている。

 体力が戻ったカーティスは黙々と書類を捌いている。


 こんなに集中して仕事ができるのに、何であんなに書類を溜め込んでたのかしら。


 疑問に思いながらカーティスを見ていると、視線を感じたのか、ふと顔を上げたカーティスと目が合ってしまった。


「何か分からないことがあったか」

「いっいえ、そろそろお昼ですし、休憩にしましょうか」


「そうだな」

 カーティスはふーっと息を吐くと、書類を処理済みの箱に入れた。


「ルリエルは食堂?それなら魔法師団の食堂に一緒に行こうか。案内するよ」

 財務部のある場所は魔法師団の棟とは離れている為、魔法師団の棟には今まで行っていた食堂とは別の食堂がある。


 ルリエルはカーティスの気遣いに少し驚きながらも、こっちの食堂のメニューに思いを馳せて、目を輝かせて頷いた。




 寮住まいのルリエルは勿論、朝昼晩と値段が安くて量が多い食堂の利用者だ。

 ウキウキしながらカーティスの後を付いて食堂に向った。


 以前から魔法師団の棟にはお使いで出入りしていたので、何人かは顔見知りだったものの、大部分の魔法師は初めましてだ。

 そのせいか、カーティスの後ろを歩くルリエルが物珍しいのか、チラチラとこちらを見る視線を感じていた。




「カーティス、そっちのかわいいお嬢さんは誰?みんな、珍しく女連れのお前に興味津々なんだけど」

 食堂の入り口で、濃紺のローブを羽織った赤い髪の男が、赤茶色の瞳に好奇心を目一杯滲ませて、寄ってきた。


 カーティスの肩を抱き、ニヤニヤとしている男は背の高いカーティスと同じくらいの体躯で、とても整った顔立ちをしていた。

 周囲にいる女性たちはチラチラと彼に熱い視線を向けている。



 カーティスはチッと舌打ちをすると、肩に回っている手を払い落とした。


「彼女は新しい魔法師団付きの文官だ」


 ラグラン団長が舌打ちしたよ!


 今まで温厚な感じのカーティスしか見たことがなかったルリエルは目を見開いて不機嫌そうなカーティスを見た。 

 相手は気にした様子もなく、ルリエルの方を向いた。


「念願の文官がこんなに可愛らしいお嬢さんだったとはね。僕はアドルフ・ソリード。よろしくね」

 人好きする笑顔を浮かべているが、なんだか胡散臭い。


 そう言えば、かっこいい上級魔法師がいるって、侍女やメイドたちが言ってるのを聞いたことがある気がする。

 恐らく彼のことだろう。


「ルリエル・ティールストンです。今日から魔法師団でお世話になりますので、これからよろしくお願いします」


 濃紺のローブは上級の魔法師の証だ。

 いくら、胡散臭く軽い感じの男でも、邪険にはできない。

 ルリエルが一応、丁寧に挨拶をしていると

「時間がなくなる。行くぞ」

 待ちきれないのか、カーティスが先に歩き出してしまった。


「えっ、待ってくださいよ」

 ルリエルはアドルフに頭を下げて、慌ててカーティスを追った。




 魔法師団の食堂はなかなか美味しかった。

 魔法師は若い人が多いせいか、ボリュームがあって、満足感が高い。


 これで午後からの仕事も頑張れそうだ。


 ルリエルは微笑みを浮かべながら,机に向かった。


 魔法師たちから提出される書類に不備がないか、確かめていると、数日前まで辺境で魔獣討伐が行われていて、それに対する報告書が混ざっていた。

 騎士団とカーティスを含めた魔法師団の合同で行われたらしい。


 ラグラン団長が書類を溜め込んでたのは、このせいか!


 辺境まで行くとなれば、往復に日数がかかる。二週間の行程になってるということは、必要最小限の日数だろう。


 昨日は子どもみたいなことを言う人だと思ったけど、なんだか不憫に思えてきた。

 さっさと文官が配置されてれば、団長がどうしても決済しなければならない書類はもう少し整理されて、あんなに山にはなってなかっただろう。


 討伐から戻って、あの書類の山を見た時のラグラン団長の気持ちを思うと同情を禁じ得ない。


 乱雑に置かれた物を見るに、多分元々整理するのは、得意じゃないんだろうし、眉根が寄ってるからデスクワークも好きそうじゃなさそうだ。


 それでも、昨日今日とカーティスが集中して書類を処理した為、急を要する書類は捌けた。

 与えられた仕事を何とか熟そうとしているのが分かる。


 今まで書類の提出の遅い、ちょっとだらしない人かと思ってたけど、ラグラン団長って思ってたより、ずっと真面目な人なのね。


 だけど、大体当代一と言われる魔法師が書類に埋もれてるなんて、勿体ないことこの上ない。


 これからは私がラグラン団長が書類仕事以外のことに集中できるようにフォローしよう。


「出来た書類から、各部署に届けてきますね」

 決意を新たにルリエルは立ち上がると、処理済みの箱から書類を取り出した。


「あぁ、よろしく頼む」

 カーティスは顔を上げると、急に何かを思い出したのか

「あっ」

 と声を上げた。


「これから打合せだった」

 慌てて立ち上がる。

「俺が定時までに戻れなかったら、先に上がっててくれ。じゃあ、後よろしく頼む」


 バタバタと執務室を出て行くカーティスを見送った後、スケジュール管理も必要かなと思いつつ、ルリエルも各部署に書類を届ける為に執務室を後にした。




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