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貧乏令嬢、魔法師団で働く  作者: 桃田みかん


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18/25

18.恋愛相談

 弟のカミルはルリエルの作ったクッキーを嬉しそうに抱えて帰って行った。


 数々の爆弾を投下されて、呆然として、固まったままのルリエルをそのままにして。




 自分にそんなに縁談が来てるのも驚きだったが、カミルに指摘された自分の気持ちが一番驚愕だった。



 他の女の人と話してるのが不快っていうこの感情が、まさかの嫉妬なの!?

 それで、嫉妬するってことはラグラン団長のことが、すっ好きってことになるの?


 呆然としたまま、寮に戻り、ぐるぐると考えて碌に眠れないうちに朝を迎えてしまった。



「なんか目の下に隈ができてるな」

 次の日、ルリエルは混乱したまま魔法師団長の執務室に入り、ラグラン団長と顔を合わすなり指摘されてしまった。


 昨日から自分を悩ませている張本人と目が合って、顔が赤くなっているのが自分でも分かる。

 制御できない事象に、「カミルが余計なこと言うから!」と八つ当たり気味に心の中で文句を言う。


「顔が赤いし、熱があるんじゃないか?無理しないで休めよ」

 カーティスが心配そうに、顔を覗き込んでくるので、慌てて席に着いて書類を見る振りをして顔を隠した。

「大丈夫です。仕事しましょう、仕事」



 シーンと静まり返った室内に、紙を捲る音とペンを走らせる音だけが響く。


 ルリエルは黙々と仕事を熟しながら内心、頭を抱えていた。


 今まで、ラグラン団長と二人きりでどうやって仕事してきたのか。

 一度意識し出すと、胸がザワザワして落ち着かない。気がつくと、難しい顔をして書類を見るカーティスを見つめている。


「やっぱり、具合が悪いんじゃないか」

 カーティスは赤い顔をして、なんだか様子のおかしいルリエルが気になって声を掛けた。


 ピクリと身体を揺らしたルリエルはカーティスを見つめていたのがバレたのかと目を泳がせる。

「体調は悪くないので、大丈夫です」


「いや、念のため、治療院で診てもらえ」

 一人で行けないなら連れて行くと言われて、ルリエルは仕方なく、トボトボと治療院に向かった。


 ただの寝不足なのに、治療院に行くなんて…

 このまま逃走したいが、治療師の上司は魔法師団長のカーティスなので、ちゃんと治療院に行ったかどうか直ぐにバレてしまう。

 そもそも、こんな状態では仕事にならない。

 いや、仕事はできても、精神的に保たない。


 ため息を吐きつつ、治療院のドアをノックした。




「はい、どうぞ。ってルリエルちゃんじゃない。どうしたの?」

 治療院におずおずと入ってきたルリエルを見て、ミランダが近寄って来た。


「どこか具合悪いの?目の下に隈ができてるわね」

 心配そうにするミランダに力なく首を振った。


「いえ、体調が悪い訳じゃないんです。ちょっと寝不足なだけなんですけど、ラグラン団長に治療院に行くように言われちゃって」

 苦笑いをするルリエルをミランダは上から下まで見ると、ちょっと首を傾げた。

「確かに寝不足なだけみたいだけど…」

「そうなんですよ。言われた通り治療院に顔も出したんで、仕事に戻りますね」


「ちょっと待って」

 ミランダは直ぐに仕事に戻ろうとするルリエルを引き止めた。


「ちょっと休憩に行ってきます」

 治療院の面々に言い置いて、「ちょっと付き合って」とルリエルの手を引き、庭園にある四阿までやって来た。


 辺りに人影はなく、鳥の鳴き声と風が葉を揺らす音が微かに聞こえるだけだ。


「恋煩い?」

 ミランダが悪戯っぽく笑う。

「こっ恋煩い」

 ルリエルは唐突な問いかけに素っ頓狂な声を出した。


「その憂いを含んだようなその目はそうだと思ったんだけど?」

 顔を覗き込むように言われて、

「あー、うー、うーん」

 と暫く呻いていたが、諦めたように頷いた。

「多分…」

「多分かぁ。相手はカーティス?」


 一発で言い当てられて、暫し瞠目した後、赤くなった顔を両手で隠した。


「わたしって分かりやすいですか」

「今はね。この間まで、そんな意識してる様子はなかったけど、何かあったの?」


 優しく問いかけてくるミランダに観念したかのように、ポツリポツリと昨日のことを話した。

 今まで、恋なんてしたことのないルリエルは、一晩中ぐるぐると考えて、それでも考えたからって言ってどうすればいいのか答えが出ず、お手上げだったのだ。


 相槌を打ちながら、話を聞いていたミランダは途方に暮れたような表情のルリエルを微笑ましそうに見た。


「カーティスにはまだ婚約者はおろか恋人がいるなんて聞いたことないし、ルリエルちゃんが口説けばいいんじゃないのかな」

「無理ですよー。相手は今をときめく魔法師団長なんですよ。わたしじゃ釣り合わないもの」

 簡単に言うミランダにちょっと頬を膨らませて、俯いてイジイジとする。


「それに、振られた後、同じ部屋で仕事しないといけないなんて、無理無理無理」

 ぶつぶつ言って、大きなため息を吐いた。


「そうかな。わたしは二人は結構お似合いだと思うけど」

 ミランダの言葉になんだか納得のいかないルリエルは、そんな適当なこと言ってとジト目でミランダを見る。


「そう言うミランダさんは、アドルフさんとお似合いだと思いますよ。ミランダさんこそ、早く結ばれちゃったらどうなんですか。わたしの話なんかよりよっぽど現実的です」

 ルリエルに八つ当たり的に迫られて、ミランダは目を白黒させる。


「えっと、アドとわたしじゃ身分が」

「本人たちの意思で、そんなのなんとでもなります。それにアドルフさんは侯爵家を継ぐわけじゃないですよね?ミランダさんは治療師としての地位もあるし、ミランダさんが覚悟を決めれば、二人でやっていけます」

 ずっと気になっていたルリエルはいい機会だと、勢いのまま鼻息荒く言い切った。


 ミランダは、ルリエルの恋愛相談をしていたはずなのに、いつの間にか自分の話になっていて、説教されていることに呆然とした後、可笑しくなってきて笑い出した。


「ルリエルちゃんも他人事だと積極的なのね」

「え…そう、ですね」

 自分のことは棚に上げて言ったことは気付いていたので、バツが悪そうに同意した。


「そうね。他人事だと冷静に判断できるものよね。うん。わたしも一歩踏み出してみるわ。だから、ルリエルちゃんも頑張って。後悔しないように」

 覚悟を決めて、ちょっとさっぱりしたようなミランダに押されるようにルリエルは頷いた。


 どうしたらいいのかはやっぱり分からないけど…

 内心ため息を吐きつつ、執務室へと戻って行った。

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