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貧乏令嬢、魔法師団で働く  作者: 桃田みかん


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15.カーティス②

「明後日の午後、一緒にケーキ屋さんに行きませんか」

 ルリエルが思い切ったように言った。


「ケーキ屋…」

 一緒にケーキ屋?

 それはデートへの誘いか?

 二人でケーキ屋はそうだよな?


「あっ、無理しないで下さい。ミランダさんと二人でケーキ屋さんに行こうと思ってたら、ソリードさんが女二人じゃ危ないから一緒に行くって言い出して。そしたら、ミランダさんがラグラン団長も誘おうって」

 誤解されたと思ったのか、焦ったように早口で付け足した。


「あ…ミランダか…なるほど」

 デートの誘いじゃなかった!

 何故だか、ちょっと落ち込む。


 大体、ミランダはアドルフと二人で行けばいいじゃないか!

 あの二人はなんだか拗らせてるが、どう見ても両思いだ。

 アドルフが侯爵家を捨てれば、済む話だ。ミランダがそれを望まないから、話が進まないんだが。


 ん?待てよ。

 明後日は俺もルリエルも一日休みだ。

 午後からケーキ屋に行くとしても、午前中は空いている。


 おお!これはまさかのあの話をするチャンスじゃないか?



「いや、まぁ、そういうことなら行くか」

 ちょっと勿体ぶったように言うが、この後の話をちゃんと受けてもらえるか、内心ドキドキだ。


 この間の護衛の報酬代わりってことでなんとか、夜会のパートナーになってもらうことに成功した。

 ルリエルは社交界にほとんど出たことがないみたいだから、ドレスやアクセサリーをこちらで用意して、全てを整えないと。


 俄然やる気が出てきて、その為の買い物をケーキ屋に行く前の午前中に一緒に行くことをルリエルに了承させた。




 当日、母親の紹介で(誰のドレスを買うんだとうるさかったが仕方ない)今人気のドレスショップを訪れた。

 時間がなかったから、既製品を手直しすることにする。


 率直に言って、ドレスを試着したルリエルは綺麗だった。

 ルリエルは普段は仕事しやすいようにと、ごくシンプルなワンピースなどを着ているのだが、一気に大人びて見える。


 こんな高いドレスを買ってもらっていいのかと、慄いていたが、あんなに似合ってるドレスを買わない手はないだろう。

 ドレスだけで、戦々恐々としていたルリエルにアクセサリーもと言っても遠慮されることは容易に想像ができたから、こっちで適当に見繕うことにした。


 この年になって初めて、女を着飾らせる楽しみが分かってしまったかも知れない。

 今まで、女にドレスやアクセサリーを貢ぐ男を鼻で笑ってたのに!


 ルリエルは寮住まいだから、当日は伯爵家で身支度を整えないと。

 母親が嬉々として、しゃしゃり出てくる気しかしないが、背に腹はかえられない。

 頭の中で色々算段を立てて、伯爵家にドレスは届けてもらうよう手配する。



 待ち合わせまでまだ時間があったので、屋台に寄って、肉の串焼きを食べた。

 無邪気に串焼きを食べるルリエルは仕事中のキリッとした様子が形を潜めて、少し幼く見えて微笑ましい。



 その後、ミランダとアドルフに付き合って(俺の中ではそうとしか思えない)ケーキ屋に行ったのだが、魔法師団からアルギナの森で多数の魔獣の出没で負傷者ありとの緊急連絡が入った。

 のんびりした休日はここで終了してしまった。




 アドルフと二人でアルギナの森の入り口に転移すると、いつもなら明るい森が薄暗く、嫌な空気に満ちていた。


「状況は?」

 薄暗い森を見つめたまま、先に現場に到着していた騎士に尋ねる。

「薬草採取に来ていた者たち三名が魔獣に襲われて負傷しています。応急処置は済んでいて。あとは治療師待ちです」

 腕のいい治療師の数は少ない。

 治療師でも、四肢を欠損するような怪我を治すことは不可能だが、ある程度の傷を塞ぐことはできる。魔法師団からイーサンとエリーが派遣されたから、間もなく到着するだろう。


「魔獣は中型で少なくても、十数匹。討伐はこれからです」

 この騎士は偶々近くにいて、駆けつけたが、魔獣討伐を担う第二騎士隊と魔法師団の到着がまだだった。


「アドルフ、どう思う」

 一緒にやって来た上級魔法師のアドルフは難しい顔をしてアルギナの森を見ている。


「二十はいるだろうね。普段は魔獣のいない森になのに、これだけの数がいるってことは、アルギナの森の向こうにある山の方から来たのかもな」

 アドルフは探知魔法を得意としていて、森一帯に探知魔法をかけた。


 アルギナの森の向こうには山脈が聳えていて、そこが隣国との境界線となっている。


「あの時と似てるな」

 五年くらい前、あちこちで魔獣の個体数が増えて、活動が活発になっていた。いつもなら魔獣を見ることのない場所でも現れるのだ。

 俺たちは国のあちこちに派遣されていて、魔獣の討伐に追われていた。

 アドルフとミランダはその討伐遠征で苦楽を共にした仲間だ。

 数年討伐して回り、最終的に飛竜が現れて、王都にも少なからず被害が出た。

 どういう繋がりがあるのかは分からなかったが、飛竜を討伐すると、魔獣の出現数が激減した。


「それは勘弁してもらいたいな。あの時は毎日魔力回復ポーションを飲んで、なんとか凌いでいるくらいぎりぎりだった」

 げんなりした様子でアドルフが言う。


「確かにな。そうならないことを願うばかりだ」

 前回討伐した飛竜のことを思い出すと、自然と顔が強張る。


 飛竜の強さは圧倒的で、かなりの苦戦を強いられていた。

 討伐後に俺が魔法師団長に抜擢されたから、俺が一人で討伐したと噂になっているが、実際はそうではない。

 討伐時に最前線にいた俺とアドルフ、キールが力を合わせてぎりぎりのところで倒すことに成功した。

 その時に前魔法師団長が大怪我を負ったために引退したのだが、その他の魔法師も数人が犠牲になり、引退していった。

 上にいた魔法師たちが一斉に引退してしまったのだ。

 俺は一番魔力が高く、飛竜討伐の一翼を担ったことから、若輩者ではあったが、魔法師団長に任命されたのだ。

 アドルフがミランダに懸想していて、自分の価値を高めると余計に侯爵家から解放されないと普段、ヘラヘラと軽薄な男を演じているからこそ回って来たお鉢でもあるが。



 程なくして、討伐隊が到着し、早速森の中に入り魔獣を倒していく。

 アドルフが探知魔法を使いつつ、討ち漏らしのないようにする。

 全ての討伐が終わった頃には日暮れが迫っていた。


「幸い、まだ魔力に余力もあるし、俺たちは転移で王都に戻る。後のことはよろしく頼む」

 暗くなってからの移動は危険なので、討伐隊はアルギナの森の近くで、野営することになる。

 第二騎士隊の隊長に後を任せて、なんの準備もなくやって来た俺とアドルフは来た時同様、帰りも転移で戻ることにした。


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