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貧乏令嬢、魔法師団で働く  作者: 桃田みかん


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14.カーティス①

今回、カーティス視点です。

 辺境で魔獣討伐をして戻ってみると、机の上は書類で埋もれていた。

 今までに見たことがないくらい積み上がっている。

 目眩がする。一気に疲れが倍増どころか百倍以上だ。


 前の魔法師団付きの文官が「老後は妻とのんびり過ごしたい」と言って辞めたのが一ヶ月前。

 討伐に出る前には既に書類仕事が随分滞っていた。文官が整理していてくれた書類はあっと言う間に乱雑に置かれるようになって、収拾がつかなくなっていたのだ。 


 文官の補充を頼んでいるが、なかなか後任が決まらなかった。

 漸く、財務部の女性文官を魔法師団に回すと言われた時には、元々事務仕事が得意じゃないのも相俟ってもう何からしたらいいのか分からなくなっていて、精神的にかなりきていた。



 この日は積み重なって山となった書類に埋もれていて、新たに持ってきたルリエルからの書類の受け取り拒否をしてしまった。

 あまりに子供っぽい態度だと、後から思うと顔から火が出る思いだが、その結果、近日中に魔法師団に来てもらうことになっていたルリエルに手伝ってもらえたのは僥倖だった。


 彼女はとても有能だった。

 初めて見る魔法師団の書類をすごいスピードで仕分けしていったのだ。

 締め切り順、重要度順ときっちり分けられた書類は今までにないスピードで処理できた。

 これで、あの書類地獄から脱することができると心底安堵した。

 中央部署の財務部からの異動で、出世街道から外れるルリエルには申し訳ないけれど。


 俺が魔法師団の案内をするだけで、藍色の瞳をキラキラさせるルリエルをかまいたくなるのは、罪悪感からに違いない。多分。




「ティールストンさんはどう?彼女、事務処理能力高いでしょ?」

 机の上の書類が粗方片付いた頃、王家主催の夜会についての会議があって、それに参加しているゴードル財務部長がにこにこと話しかけてきた。

「おかげさまで、溜まってた書類が片付きました。異動の前倒しを了承頂いてありがとうございました」

「彼女は魔法学園出身で、座学は主席だったから魔法にも詳しいし、魔法師団にぴったりだと思ったんだよね」


「首席だったんですか」

 魔力が高くないから、大した魔法が使えないなんて言ってたのに。


「文官の試験の時の推薦状は魔法学園の学園長の物だったよ」

「魔法学園の学園長、ですか」

 確かに魔法師団の試験には魔法学園の学園長の推薦状をよく見かける。

 文官の試験でとは、珍しいんじゃないのか。

 元々文官希望の者は魔法学園じゃなくて、勉強やマナーなどを教える王立学院に通う。

 まぁ、一定程度の魔力があると魔法学園に通わなくてはいけないから、文官希望の魔法学園生がいてもおかしくはない。

 けれど、文官の試験は王立学院で学ぶようなことが出題される。

 だから、魔法学園の学園長が文官の試験の推薦状を出すなんて初めて聞いた。


「それだけ優秀ってことなんだけど、どうしてだか、自己評価が低いんだよね。そうは言っても、財務部では彼女の実力が発揮できそうになかったから、魔法師団から引き合いがあって、丁度よかった」

 大切な娘を見るような優しい目をして笑う。


 ルリエルは、意外と厳しい財務部長のお気に入りらしい。

 でも、ルリエルはきっと分かってないだろうな。

 役に立たないから、財務部から出されたとか思ってそうだ。



「今回の夜会にはラグラン魔法師団長も出席するように。魔法師団長に就任してから、最初の一回しか出てないだろう。今回の警備はソルジーン副団長に任せろ」

 夜会なんて面倒くさいともっぱら警備担当ばかりしていたら、その後の会議で国王陛下直々に出席命令が出てしまった。


 王家主催の夜会となると、パートナーも必要になる。

 婚約者どころか恋人もいない俺は前回は妹のエスコートで誤魔化していた。

 その妹も結婚した為、今回は頼めない。


 大して親しくもない女性に頼むと、それこそ面倒くさいことになるのは、学習済みだ。

 これでも、伯爵家の息子で今は魔法師団長という役職もある。

 夜会以降、公認の恋人のように振る舞う女には辟易している。



 どうしようかと思っていたら、思いがけなくギルドでルリエルに会ったことで、悩みが解消された。


 ポーションの材料の薬草をブルーレの森に取りに行くと言うので、多少強引に護衛を引き受けた。

 大体、護衛と言えば男であることが多い。よく知らない男と二人で森に行くなんてルリエルは危機感がなさ過ぎる。

 いや、俺は大丈夫だ。知り合いだしな。


 馬の二人乗りは、予想以上に細い身体に慄き、花のようないい匂いのするふわふわした髪が鼻先に揺れるので、平常心を保つのに苦心した。

 馬を降りて.先に歩き出したルリエルの後ろ姿を見ると、耳が赤くなっていて、恥ずかしがっているらしいと気づいて、なんだかすごく満たされた気分になる。


 森で使ったルリエルの魔法は緻密に練り上げられていて、綺麗な魔法だった。

 確かに魔力は少なそうだったが、それを補うような無駄のない魔法だ。

 最小の魔力で最大限の効果が得られるように、研究されている。


 見せてもらった薬草を入れている鞄も効果が重ね掛けされてて、買えばそれなりの値段のする物だが、恐らく、ルリエルが自分で作った魔道具だろう。


 ティールストン子爵家が貧乏だからって、文官として働く傍ら、ポーションを作って売ってるようだけど、自己評価が低いあまり、作った物を買い叩かれたりしてないか心配になってくる。


 ルリエルはしっかりしてそうなのに、自分のことだけがよく分かってないような気がする。


 少し小柄で、くりっとした大きい目は小動物っぽくて、彼女は客観的に見て、かわいいと思う。

 魔法師団の中を歩いていれば、話題になるくらいには注目されてる。

 決して、俺が連れ歩いていたからだけで話題になってた訳じゃない。と思う。


 だから、男と二人きりで森に行くなんてとんでもない危険行為だ。今までよく無事で過ごしてたもんだ。

 これからはなんとか理由を付けて、俺がついて行ってやらないと。


 護衛の報酬代わりにルリエルを夜会のパートナーに引っ張り出せることになった。

 ルリエルに夜会用のドレスやアクセサリーを用意しないとだな。

 彼女は給料の大半を仕送りしているのか、仕事だからっていうのもあるだろうけど、それにしても普段の彼女は質素に過ごしていそうだ。

 偶には着飾らせるのも、悪くないよな。


 憂鬱だった夜会が少し楽しみになった気がする。



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