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貧乏令嬢、魔法師団で働く  作者: 桃田みかん


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13/25

13.二人の関係

 治療師のイーサンとエリンは魔獣の討伐隊と一緒にアルギナの森に行っていて、王宮の治療院は医師のマルセルと助手のノーマンが診療を行なっている。


 その為、治療院の休憩室にいるのはミランダとルリエルだけだった。


「で、夜会には誰と参加するの?」

 二人分の紅茶を入れると、興味津々といった感じでミランダが身を乗り出して訊いた。

「ええっと」

 ルリエルはミランダが近づいたその分身を引く。


「ミランダさんは何で私のパートナーにそんなに興味あるんですか」

「えー、友達の色恋って何か気になるじゃない」


「色恋!?違いますよ!護衛してもらった単なるお礼ですから!」

 ミランダの言葉に驚いて思わず反応した後、慌てて口を押さえたが、時既に遅し。


「えー、なになに。護衛って?」

 ミランダは益々興味をひかれたらしく、目がキラキラしている。

「…」

「どうせ当日になったら、誰と参加したかなんて分かるんだから今話してもいいんじゃない?そんなに内緒にされると余計に気になるんだけど」


 結局、ぐいぐいくるミランダの圧力に負けた。


 確かにいずれラグラン団長と参加したのは分かる話だし、それまで内緒にしてる方がなんだか却っておかしなことになる気もする。


「別に内緒でもなんでもないです」

 ルリエルは仕方ないなと、ため息一つ吐いた。

「ラグラン団長です。今回の夜会はどうしても参加しなくてはいけないらしくて頼まれたんですよ」


「やっぱり!そうだと思ったのよね。それで護衛って何?」

 ミランダは満面の笑みで、話の先を促した。


「ポーションの材料の薬草をブルーレの森に行くのに、近頃魔獣の目撃情報が多くて、護衛の人が必要だったんです。そこで、偶々居合わせたラグラン団長が護衛してくれたんです。その時の報酬の代わりに一緒に夜会に行ってほしいって。それだけですよ」

 誤解を生まないように、話を簡潔に纏めて、ティーカップに口をつけた。


「ふーん、偶々ねー。まぁ、カーティスは夜会が苦手みたいで、いつも警備を理由に参加しないから、強制参加命令が出たのかもね」

「ということで、色恋なんてものはどこにもありません。私からしてみたら、ミランダさんとアドルフさんの関係の方が気になってるんですけど」

 ミランダは小首を傾げて、薄く笑顔をうかべた。


「アドは友達よ。カーティスとアドとは新人の頃に一緒に魔獣討伐遠征であちこち行って、仲良くなったの。だから、仲間って言った方がいいかしら。それだけよ」

 ルリエルには口元はゆったり微笑んでいるのに、凪いだ湖面を写したような水色の瞳は寂しげに揺れているように見えた。


 ミランダのその表情を見て、いまいち分からなかった二人の関係性が見えた気がした。


 なるほど。二人は両思いなんだ。

 と言うことは、障害があるんだろうな。

 きっと定番の身分差だよね。

 魔法師団は実力主義だから、爵位がなくても実力があれば、認められる。

 ミランダさんがラグラン団長やアドルフさんと敬称や敬語無しでも、誰も何も言わないのは彼らが本当に仲がいいのもあるけど、ミランダさんにそれだけの実力があるとみんなに認められている証拠だ。


 でも、外に出ればアドルフさんは侯爵家の子息だし、ミランダさんは平民ということになる。

 容姿端麗で上級魔法師にまでなってるアドルフさんは令嬢たちに人気が高いし、婿養子に欲しいお家は多いはずだ。

 侯爵家がそんな将来有望株のアドルフさんと平民のミランダさんとの結婚を認めそうにないよね。


 二人はお似合いだし、二人の為に何かできたらいいんだけど…



「ところで、ルリエルちゃん、ポーションなんて作ってるの?」

 ミランダがさっきまでの憂いを含んだ表情をすっかり消して、思考の海に浸かっていたルリエルを引き戻した。


「どんなの作ってるの?」

「体力と魔力が少し回復して、怪我を少しだけ治すポーションです。効き目が大したことがないから、まぁ、冒険者のお守りくらいのやつです」


「ルリエルちゃん…」

 ちょっと恥ずかしそうにしているルリエルをミランダがかわいそうな子を見るような目で見た。


「なんでそんなに自己評価が低いの…」

「え?」

 小さく呟かれた言葉が聞き取れなかったルリエルが首を傾げた。

「いい?それだけ効果が重ねがけされたポーションはなかなかないのよ」

「そうなんですか?んー、でも、それぞれの効果は小さいんですよ」

「小さくても、貴重なの」

 ミランダが反応の鈍いルリエルの肩をガクガクと揺さぶった。


「そういうもんなんですか」

「そういうもんなのよ」

 ミランダはキョトンとしているルリエルを見て、ため息を吐いた。


「なるほど…カーティスがやけに過保護だと思っていたけど、確かにしっかりしてそうなのにこれは心配だわ」

 ぶつぶつ呟くミランダに、ルリエルは内心ショックを受けていた。


 過保護!?

 え?私、ラグラン団長に心配されてるの?

 確かにブルーレの森で護衛してもらったけど。


 今までずっとしっかり者の長女としてやってきたつもりなのに、ラグラン団長やミランダさんから見て、そんなに危なっかしいと思われてるなんて!


「そのポーションはギルドで売ってるの?他でも誰かに譲ったりしてない?」

「私の魔力量ではそんなにたくさん作れないから、ギルドで売ってもらってる分だけです」

「そう。なら搾取されることはないと思うけど、買い叩かれない様に気をつけてね」

 そんな大袈裟な…

 そこまでの価値はないと思うけど、と思いつつ、大人しく頷いた。



 カーティスとアドルフがアルギナの森に行った時と同じように転移で戻ってきたのは、辺りが暗くなる頃だった。


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